オイルを作る藻が、日本を救う? 2/2
2007年11月16日
環境を破壊する、従来のバイオディーゼル
──藻が作ったオイルは、どのように利用されるのですか?
私は、藻から植物油のようなオイルを取り出そうと考えています。植物油として取り出せれば、その後は既存技術で燃料化することができるでしょう。
燃料化するには、植物油を脂肪酸メチルエステル(FAME)という物質に変換し、バイオディーゼルとして利用するという方法があります。もう1つ、植物油を水素化分解するという方法もあり、これを使えば軽油と同じ成分になります。日本国内の石油関連企業は、後者の方法を推進したがっているようです。
──藻から作った燃料は、既存のバイオ燃料と比較してどのようなメリットがあるのでしょう?
私の研究ではありませんが、一般的に、陸上植物である作物に比べて微細藻の収量は単位面積あたり年間で数十倍から数百倍になると言われています。
藻のメリットの前に、アブラヤシなどの高等植物(種子を作る植物)を使うことのデメリットについて述べようと思います。現在、アブラヤシから作られるパームオイルの生産量には余裕がありません。バイオ燃料として使うためにはアブラヤシを増産しなければならず、インドネシアを始めとした東南アジアの国々では、森や湿原を切り開いて新たな耕作地を開墾しています。CO2を削減するどころか、逆に増えてしまうという、本末転倒の事態が起こっています。そして、同様に菜種や大豆なども拡大できる作付け面積が限られており、すでに、私たちの身の回りでもこれらから取れる油を使った食品が値上げされ始めています。
また、日本や欧米などで行われている近代農業では、高等植物を育てるために大量の肥料を使います。そして、肥料を生産するために大量の化石燃料が消費されます。ほかにも農業機械、農薬、出荷に使う袋や箱などにも化石燃料が使われているのです。
コストを劇的に下げられる可能性が見えてきた
──藻の場合は、化石燃料の使用量が少なくなると。
はい。具体的な数字としてはまだ算出できませんが、1つ1つの事実を重ね合わせて考えると、藻から燃料を作るのは合理的だと考えられます。
藻は高等植物と違って、工場で生産できますから、台風や気温変化の影響をほとんど受けません。長期間にわたって安定供給が可能です。高等植物には肥えた土地が必要ですが、藻の工場なら砂漠化が進んだ土地も有効活用できるでしょう。藻は水中で生育できますから、光を与えて、水をうまく循環させればいいのです。
また、藻は高等植物に比べて単位面積あたりの収量が多いだけでなく、収穫や加工も効率化しやすいと思います。
──藻なら絞ったあとのゴミも少なくて済みそうですね。
ゴミは出ますが、将来的にはそれを活用することができるかもしれません。例えば、絞りかすから取り出した糖をアルコール発酵させ、バイオエタノールに変換することもできるでしょう。細胞がリグニンで固く結びついている高等植物に比べて、単細胞の藻ならセルロースからもエタノール変換しやすいかもしれませんね。
──藻から取れるバイオディーゼルの成分は、その他のバイオディーゼルと同じものなのですか?
実証はまだしていませんが、今あるデータを見る限りでは同じものが取れると考えています。そうだとすれば、自動車燃料のほか、火力発電や船舶燃料にも使えるでしょう。石油から作るより、コストが安くなることもありえると思います。
──藻から安価なバイオ燃料が取り出せるようになったら、社会や経済にどのような影響を与えるでしょうか?
仮に10年でそれなりの量産化ができたとしても、バイオ燃料だけで社会が回せるほど甘くはありません。当面のところは、化石燃料にバイオ燃料を混合して使い、化石燃料の使用量を減らすという方向になるでしょう。それでも、日本国内で燃料の安定供給ができるようになる意味は大きいと思います。消費者の目にも見える形で、燃料供給を安定させたいですね。
研究者プロフィール
1998年3月、鶴岡工業高等専門学校物質工学科卒業。2001年3月、弘前大学農学部生物資源科学科卒業。2006年3月、東北大学大学院生命科学研究科において、生命科学博士号取得。2006年4月より慶應義塾大学先端生命科学研究所に所属。
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