ネット広告の経済的影響力は、見積もられている市場規模よりずっと大きい
2009年2月19日
(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら)
ネット広告が増えると、ほかの広告が減るという具合で、広告費の総額はあまり変わらないといわれている。実際、日本でもアメリカでもGNPの1パーセント台だ。
毎年「日本の広告費」をはじき出している電通が、昨年、フリーペーパーやフリーマガジン、インターネット広告の制作費など算定対象を増やしたために、広告費総額は一気に1兆円ほど増えて7兆円になった。しかし、それでもGNPの1・36パーセントにすぎない。
したがって、「広告経済」などといってもそのインパクトは限られていると考えられがちだ。しかし、ほんとうにそうなのか。
●電子商取引とネット広告の近さ
前回までに書いてきたように、ネット広告では、販売と広告はクリックいくつかの隔たりしかない。前々回取り上げたドロップシッピングとなれば、もはや広告なのか販売なのかわからない。
ネット広告は商品のすぐ前にある。広告越しに手を伸ばし(つまりクリックして)すぐに商品を購入できる。広告市場と商品やサービスの売買市場は別ものということが、従来の広告のようには言えなくなっている。しかも、表示課金からクリック課金、成果報酬課金へと具体的な「成果」に結びつく方向へネット広告は向かっており、ますます販売と密接に結びつくようになってきた。
とくにアフィリエイトは、「ショーウィンドウ」の要素も持っている。そうであるならば、販売の売り上げとして計上されているものの一部は、ネット広告の売り上げと見なすことができるのではないか。とくに楽天やアマゾンなどEC事業者の場合は、アフィリエイトによって自分たちのECサイトの売り上げが立っている。であれば、いよいよそうしたことが言えるのではないか。
こうしたことを考えると、ネット広告の経済的影響は、現在算出されているものよりもずっと大きくなるはずだ。
●企業間ネット広告は、いまの5倍あってもおかしくない?
電子商取引(EC)の市場規模は、すでにネット広告とは比較にならない規模になっている。
経産省の報告書によれば、2007年の消費者向け(BtoC)EC市場規模は、前年から21.7%増えて5兆3,440億円。この年の日本のネット広告は制作費を入れて6000億円だから一桁大きい。
消費者向けEC市場
(経済産業省「平成19年度我が国のIT利活用に関する調査研究事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(pdf)より)
景気悪化が深刻化しても、「巣ごもり消費」で電子商取引の売り上げは伸びている。昨年末、野村総合研究所は、消費者向けEC市場は2013年に11兆7000億円と倍増する予想を出している。
そして、企業間(BtoB)EC市場となれば、その規模は消費者向けよりもさらに大きい。先の経産省の報告書によれば、インターネットを用いた企業間EC市場は161兆6500億円とのことで、消費者向けEC市場の30倍だ。
企業間EC市場
(経済産業省「平成19年度我が国のIT利活用に関する調査研究事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(pdf)より)
(「広義EC市場」はコンピュータ・ネットワークを使ったEC、「狭義EC市場」はインターネットを使ったEC市場)
eMarketerによれば、アメリカのBtoBネット広告市場は35億ドル(約3150億円)だそうだ。2007年のアメリカのネット広告は210億ドル(約1兆9000億円)だから、その6分の1を占めている。
電通が日本のBtoBネット広告市場をどれぐらいに見積もっているのか(そもそもBtoB広告を算定対象にしているのか)わからないが、アメリカと同じくネット広告の6分の1ならば1000億円ということになる。
ただ、先の経産省の報告書によれば、アメリカの2007年の企業間EC市場は103兆6500億円とのことなので、BtoBネット広告はその0・3パーセントに相当している。日本の企業間EC市場161兆6500億円の0・3パーセントは4850億円で、先に見積もった1000億円の5倍近い。日本のBtoBネット広告は、拡大の余地がまだまだあるということかもしれない。
いずれにしても今後さらに拡大していくと見られているEC市場から広告事業者がわずかな割合でも売り上げを得られれば、ネット広告市場は飛躍的に拡大する。これを原資として、グーグルやヤフー、そのほか有力なネット企業はより広範な無料サービスを展開していくことが可能になる。
そうなれば、コンテンツやサービスの有料課金を進めたい企業にとってははなはだ忌まわしいことに、「フリーエコノミー」がさらに拡大していくことも考えられる。
歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
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