ネット広告は新聞広告をもう抜いている?
2009年3月 3日
(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら)
電通が毎年発表している「日本の広告費」の2008年の数字(pdf)が明らかになった。新聞・雑誌はいずれも2桁以上のマイナスで、新聞は12・5パーセント減の8276億円。雑誌は11・1パーセント減で4078億円。テレビも4・4パーセント減で1兆9092億円だった。
一方、インターネット広告費は、16・3パーセント増で6983億円である。
その結果、新聞広告とインターネット広告の差は1293億円になった。
今年、新聞広告が10パーセント減で、ネット広告が7パーセント増えれば逆転する。
ほかのメディアに比べて経済悪化の影響が及びにくいといわれるネット広告だが、今年の予想はしにくいということで、電通も今年の広告の見通しを発表しなかったぐらいだからどうなるかはわからない。とはいえ、いずれにしてもここ1、2年のあいだに、「日本の広告費」における新聞広告とネット広告のシェアは逆転するだろう。
しかしながら、新聞広告とネット広告のシェアはすでに逆転している、という見方も可能だ。
前回までに書いてきたように、ネット広告が商品やサービスの売買市場と密接に結びついているのであれば、EC市場の売り上げをある程度ネット広告の売り上げに参入してもいいのではないか。こうした考えと重なる発想で算出されたと思われる数字が、前回も触れた経済産業省の「平成19年度我が国のIT利活用に関する調査研究事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(pdf)に載っている。
この報告書では、2007年のアフィリエイトの市場規模を5510億円と算出している。この数字は通常想定されているアフィリエイト広告市場規模よりずっと大きい。電通が発表した2007年の日本のネット広告費は約6000億円なので、それに近い数字だ。
電通は、検索連動広告(コンテンツ連動広告を含む)とモバイル広告を除いたインターネット広告を「固定ネット広告」とし、その内容を「バナー広告、テキスト広告、リッチメディア(簡易動画)広告、ストリーミング広告(いわゆるインターネットCM)、および企画広告ウェブ広告、Eメール広告」としている。アフィリエイト広告の市場規模をどれぐらいに見積もっているのかわからないが、矢野経済研究所は、2007年度のアフィリエイトサービス市場を698億円と算定している。5510億円という先の経産省報告書のアフィリエイトの市場規模と大きく異なっている。
すぐに書くようにそれには明らかな理由があるのだが、もし仮にアフィリエイトの市場規模を、矢野経済研究所の698億円から経産省報告書の5510億円まで増やせば4812億円増となる。ネット広告の市場規模は1兆円を軽く超える。
2007年の新聞の広告市場は9460億円なので、「だったらネット広告は、2007年にはもう新聞広告を抜いているんじゃないか」ということになる。ただし、経産省の報告書のアフィリエイト市場5510億円の数字には次のような注釈がついている。
「アフィリエイト・プログラムを介して販売された商品・サービスの流通額の合計」
つまり、アフィリエイト広告によって売れた商品やサービスの販売額を、「アフィリエイト市場」に含めるものとして算出しているのだ。
報告書では、「インターネットに関する新たなビジネス市場規模の算入範囲」を、広告料収入と課金収入および「消費者が自ら積極的に商品・サービスを紹介することで、それを閲覧した消費者が購買した金額(アフィリエイト・プログラム経由の販売額など)」としている。
こうした考えにもとづいて「日本におけるインターネット関連ビジネスにおける市場規模」を次のように合計1兆9720億円とはじき出している。
アフィリエイト5510億円とドロップシッピング20億円を合わせた「EC販売額は5,530億円であり、2007年BtoC-EC市場規模5兆3,440億円の約10%が、消費者を経由した購買額と捉えることができ、消費者が購買にもたらす影響力は非常に高くなっているのが現状であると言える」と指摘している(124頁)。
それぞれの項目の定義は次のようになっている。
つまり、「検索・ポータル」「ブログ」「SNS」、動画サイトや商品・サービス比較サイト、Q&Aサイトなどからなる「その他CGM」はいずれも広告収入と会費収入を算定対象にしている。しかし、会費収入はほとんどのサイトでさしあたりかなり少ないと思われるので、これらの数字は、広告収入にかなり近いと見ていいだろう。
「アフィリエイト広告」という言葉があるように、通常アフィリエイトは広告と見なされている。しかし、この報告書の定義では、広告の範疇に入れていいのか微妙である。ドロップシッピングや、オークションの販売売り上げと定義されている「CtoC EC」と合わせて、アフィリエイトが、「消費者の販売/販売支援・行動支援ビジネス」という曖昧にも思える名称になっているのは、従来のアフィリエイトについての定義をこのように拡大しているからだろう。
●ウェブそのものが一種の「消費者の販売支援メディア」
アフィリエイトだけでなく、ネット広告、さらには検索やブログ、SNS、その他CGM、あるいは他のサイトも、これまでのような広告と考えるよりも、「消費者の販売支援メディア」と見たほうがいい側面を持っている。
もちろん、販売の意図は何もなく、検索をしたり、ブログを書いたりといったことはある。しかし、広告を載せているだけにしろ何らかの販売支援意図を持ったサイトに、どんなサイトも、たいていはクリックひとつかふたつでつながっている。自分のサイトには広告を載せていなくても、販売支援意図を持ったサイトに誘導することで販売支援活動を手伝っているとも言える。したがって、ウェブそのものについても、一種の「消費者の販売支援メディア」と見ることもできる。
2年ほど前に、「『マイスペース』はスパム2・0のサイト?」という原稿を書いた。ブロガーでジャーナリストの卵だという20歳の若者が、世界最大級のSNS『マイスペース』は自己宣伝の場に過ぎず、その本質はスパム(大量自己宣伝)だと告発している記事をとりあげたものだ。
「スパム=ゴミ」という意味で『マイスペース』がスパム・サイトだというのは言い過ぎだとしても、若いミュージシャンを意図的に集めてページを作らせたこのSNSが大量自己宣伝サイトだというのは当たっている(そうしたサイトを楽しんでいる人も多いわけだから、「大量自己宣伝サイトであっていけない」というわけではかならずしもない)。
そして、大量自己宣伝メディアという側面は、ウェブそのものも持っている。
この原稿の少し後で、「『ウェブ2.0』はじつは『スパム2.0』?」という記事を書いたが、ここでも書いたように、意識するしないにかかわらず、そもそも情報発信には何らかの意味で宣伝や広報めいたものが含まれている。つまり、ウェブそのものが広告媒体であり、ウェブでの活動はすべからく広い意味で「ネット広告」とも言えるのではないか。
こうした見方に立てば、ウェブでの活動にともなう支出はすべて「ネット広告費」として計上できることになる。さすがにそれではあまりに広げすぎだということであれば、この報告書のように上の表の項目を足しあわせた1兆9720億円(もしくはECサイト構築にかかわる「BtoC事業者支援ビジネス」2090億円を除いた1兆7630億円)あたりが無難なところなのかもしれない。
タイトルにした「ネット広告は新聞広告をもう抜いている?」ということについては、おそらく異論もあるだろう。
ネット広告によって売れた商品やサービスの販売額を広義のネット広告として算入するのであれば、通販や旅行ツアーなどの新聞広告による売り上げも、広義の新聞広告に算入すべきだという意見もありうるからだ。
たしかにそうしたことは言えそうだが、ただ違うのは、繰り返し書いてきたように、ネットにおける販売と広告の「近さ」である。クリックひとつでショッピング・サイトに飛んでただちに購入できるネット広告と、電話をかけ、お金を振り込みといったプロセスを必要とする四大メディアの広告と販売の距離は、明らかにネット広告とは異なっている。そうであれば、販売市場への直接的な貢献度を算定するときにも違いが出てくるはずだ。
歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
過去の記事
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