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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

法律上も、広告と表示の一体化が進んでいる

2009年1月30日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 ネットでは広告と商品販売のための表示の区別がつきにくくなっているという前回書いたようなことは、しばしば言われている。ネット広告は、広告費に計上するよりも、もう少し枠の広い販売促進費に該当するのではないかという意見もよく見られる。
 たとえば、今回とりあげる『デジタル時代の広告法規』(梁瀬和男・岡田米蔵著・日経広告研究所発行)という本のなかでも、成果報酬型広告の場合は、広告費にあたるかどうか課題も多いと書かれている。

 電通が発表している「日本の広告費」にも、「販売促進(SP)広告」という項目はあった。DMや折込、屋外広告、交通広告、POP、電話帳広告、展示会、博覧会、広告用映画・ビデオなどだ。2007年分からプロモーション・メディア費と名前が変わってフリーペーパーやフリーマガジンが加わったが、それ以外の内容は同じだ。
 しかし、アフィリエイト広告や成果報酬型広告などは、ここに列挙されている販促広告の項目には該当しない。売り上げに応じて小売店に報酬を払うリベートや、消費者に還元するポイントなどにむしろ近いだろう。いずれも商品流通に直接かかわって支払われる。ネット広告も、成果に応じて支払われる場合は同じような性格を持っている。

 前回書いたように、ネット広告経由と販売サイトでの購入の違いは、消費者からすれば、いくつかクリックして別のサイトに移行して買うか、広告が載っているサイトでそのまま買うかの違いでしかない。広告と商品表示の違いがあまりなくなっている。
『デジタル時代の広告法規』によれば、「もともと広告には契約性が見られず、広告主と消費者の間には広告上は法的関係が成立しなかったが、デジタル社会では、直接、広告により、購買の現場へ消費者を招き入れることになり、これまでの常識は成立しない現象が見られる」とのことで、「日本には、広告を視野に入れ、直接規制したり、活性化を図る法律は皆無」だったのが、広告の機能が変わり法的対象になってきたという。
 アナログの時代には、広告は、「契約申し込みの誘因」に過ぎなかったが、ネットの双方向性を利用した場合には、ストレートに契約締結の場面に移行できることから、「契約申し込みの勧誘」と判断され、消費者契約法の対象になるとのことだ。

 また景品表示法や特定商取引法もネット販売に適用される。価格や支払時期・方法、引き渡し方法、事業者の名称と住所、法人の場合は代表者の氏名などの販売条件を明記しなければならない。「申し込みの誘因」を行なった場合には、広告についても適用されるわけだ。

 そもそも広告と表示についてどう違うかについては、国民生活審議会の消費者政策部会の79年のレポートで次のように書かれているという。

「表示と広告の機能は同一ではなく、つぎのような違いがある。
 表示は、通常、消費者が商品を選択、使用する上で最終的な情報としての機能を果たすものである。
 他方、広告の大部分は、消費者に対し、商品・サービスの知名度を高め、その特性を理解させることによって、消費者の購買意欲を高めようとするものであり、消費者の即時的反応を求めるものではない。
 この意味で、広告は、消費者の選択・使用との関係では中間的な情報としての機能を果たすものである。消費者にとって中間的な情報にとどまる大部分の広告は、必ずしも表示と同様の具体的内容を備えている必要はない」

 表示の偽装が相次いで社会問題化したことからもわかるとおり、表示は、商品の最終的な情報であるので誤解を招くものであってはならない。しかし広告は、購買意欲を高める性格のものだから、もう少し緩い基準でもいい、というわけだ。
 ところがネットでは、広告と商品販売はクリックひとつの差しかないわけで、消費者は、URLを見なければ、販売サイトか広告を掲載している別のサイトなのかわからないぐらいの違いしかない。
 ネット広告の登場による広告の変化について、上の本では次のように書かれている。

「一般の広告には、私法上、契約性がなく、契約という法的行為の対象外とされ、これが常識化されてきた。契約は、当事者同士の『申込みと承諾』の意思表示の合致により成立する。広告上における広告主と消費者との関係は、この契約行為にはあたらず、広告は契約以前の単なる『申込みの誘引、誘導』と解されてきた。また、もう一つの常識は、不特定多数を対象とした広告は『勧誘』にはあたらないとする考え方が強い。しかし、これではすまされない現象がデジタル社会では散見されるほか、これまでも、広告と表示との関係について意見がわかれるところであった。」

 広告の契約性が感じられるケースのひとつは、購買時点に近い販促広告だという。しかしインターネット広告も、「インタラクティブ性を有するがゆえに、広告の契約機能がストレートに顕在化」し、公正取引委員会が規制強化に乗り出し、経済産業省も同様の動きをしているとのことだ。

 ここで規制の対象になっている広告というのは販売サイト上の宣伝で、アフィリエイト広告やバナー広告などを載せているだけのサイトのことではないだろう。しかし、もともと「広告と表示は違う」立場だったはずの法律からして、ネットでは「広告と狭義の表示の一体化がみられ」、広告と表示を同じようなものとして規制の対象にしなければならなくなっている。つまり、法的な側面から見ても、ネットでは、広告と表示の一体化が進んでいると見られるようになってきたというわけだ。
 実際、企業のサイトそのものが一種の広告であり、そのサイト自身でなくても販売サイトなどにリンクを張って購入できるようにした場合、企業サイトはもはや販売と直結している。そして、企業にとってこれから重要に感じられるようになる「広告」はこうした自社のサイトだろう。
 「企業サイトの広告媒体化」についてはまたあらためて考えてみたい。

追記
 経済産業省の「平成19年度我が国のIT利活用に関する調査研究事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(pdf)によれば、ドロップシッピングは、「一部には、会員も販売サイトを運営している以上、特定商取引法上、住所氏名表示義務が発生するとの解釈も存在する」ものの、あくまでも事業主体はDSP(ドロップシッピング・サービス・プロバイダー:ドロップシッピング事業提供会社)で、販売サイトを作っているドロップシッパーには住所氏名表示義務がないと法的解釈がされているという。
 問題が生じ始めれば、こうした解釈は続かないと思われるが、サイトで商品を並べて売っているドロップシッパーは、この報告書の記述どおりならば、さしあたり法的には、販売主体ではないと見られていることになる。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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