このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

誰でも簡単に広告ができるUGA(User Generated Advertisement)時代

2008年11月26日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 前回取り上げた電通の「ADGOGO」やリクルートの「コマーシャライザー」、あるいはアメリカのSpot Runnerのように、広告主が簡単にCMを作れる仕組みがなぜ必要になったのかと言えば、広告もCGM(Consumer Generated Media)あるいはUGC(User Generated Contents)化しなければ、爆発的に増大しつつある広告枠が埋まらなくなっていくことが明らかだからだ。

 に書いたように、Googleの広告における発明は、ウェブ全体を自分の広告媒体化するということだった。Googleは、個人サイトまで含めた数多くのウェブサイトに検索ウィンドウを設置し、検索連動広告を表示するとともに、ウェブページのコンテンツにも連動して広告が表示されるようにした。その結果、テキスト広告を掲載する媒体数が爆発的に増えた。こうした状況に対応するために、Googleは、これまで積極的に広告を出してこなかった中小企業などもネットで簡単に広告を出せるようにして広告主として引きこんだ。
 UGA(User Generated Advertisement)とでも呼ぶような状況が出現したわけだが、動画広告についても同じことが起ころうとしている。

 日本でも、地上波デジタルだけでひとつの局が3つのチャンネルを提供できるし、BSやCS、IPTV、ネット経由のほかの動画まで、動画の広告枠は今後、飛躍的に増大していく。フトコロに比較的余裕のある既存の大企業の広告主だけではとても埋まらない。
 誰もが簡単に広告を作れるようにする、つまりUGA(User Generated Advertisement)が必要になる、というわけだ。

 ただ広告主は、動画の広告となると構えてしまい、ありあわせの動画素材を使って安易に作っていいものかと躊躇いもあるだろう。実際誰がどういうスタンスでセルフメイドの広告を作るのかと考えると、疑問も感じる。
 いくら安上がりといっても、広告企業の宣伝部員が自分でCMを作るなどということはやりそうにない。そうしたことに多少は心得がある人間がもし作る気になったとしても、それを会社があっさり認めて、できたCMを使うとも思えない。また外部のCM制作のプロが、ありあわせの素材を使ってCMを作るなどということは、プロ意識が許さないだろう。

 そう考えれば、Googleの「TV Ads」のように、広告制作者との仲介をするほうがより現実的かもしれない。
 Google TV Adsは、広告の申し込みをするだけでなく、ネットで条件を提示して、制作者を簡単に選べるようにしており、広告主と広告制作者のマッチングサービスをやっている。これまでテレビCMを作ったことのない企業は、CMを流すといっても、どうやってCMを作ったらいいかわからない。そうした声に対応している。

 こうした広告のありようは、一種のロングテール・モデルともいえる。
 ロングテールというのは、少量しか売れない商品でも集まるとそこそこの売り上げになるというものだった。これと同じことが多チャンネル時代のテレビ広告についても言える。
 多チャンネル時代には、個々のCMを見る視聴者数は減る。そのぶん多くのチャンネルにCMを流すことで、これまでの訴求力を確保しなければならない。つまり「ちりも積もれば山」、ロングテール・モデルのCMへの応用というわけだ。
 ただこうした理屈は、広告主に対しては成り立つが、テレビ局にとっては、いささか話が異なる。訴求力が落ちたのに応じて個々の広告単価は切り下げられるだろうから、テレビ局にとっては好ましいことではないはずだ。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

過去の記事

月間アーカイブ