広告主層の拡大が必要なテレビ広告
2008年11月11日
(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら)
前回、広告主が自分で簡単にテレビ広告を作れるアメリカのSpot Runnerのビジネスを紹介したが、日本でも同じような発想の広告サービスがすでにスタートしている。
細かい金儲けにはもっとも縁がなさそうな電通がやっている。「ネットでCMが買える!」というのがキャッチフレーズで、「CMGOGO」というサイトができている。
放送したい地域や期間、放送回数を指定し、企業ロゴ、商品名、メッセージを登録し、準備されているCM素材を選べば、登録内容をもとに編集・加工してくれて、1か月ほどでCMが流れるそうだ。
地上波127局と衛星テレビ60局のスポット広告が対象で、「実験的な運用」という位置づけになっている。
料金は、加工・編集費やメディア枠の購入まですべて含んで10回の放送料金が、関東キー局で525万円。ただし、関東キー局はじめおもだったテレビ局の枠は夜7時から23時までは除かれている。高い対価を取れる時間帯はさすがにこのような形では売れないというわけなのだろう。
ほかのテレビ局については、東京U局のメトロポリタンテレビは全日で10回の放送が47万2500円、千葉テレビが36万7500円といった具合になっている。
いずれの地域でも30万円以下の設定はない。5万円で番組が作れて1回のスポット広告が1800円でも買えるという前回紹介したSpot Runnerと比べると、日本のテレビ広告はやはりまだまだ「高嶺(たかね)の花」のようだ(もちろんバークレーのケーブル局と衛星チャンネルでは視聴者数がまったく違うわけだが)。
ただ、一口に「テレビ広告」といっても、最近は「テレビ関連広告」というのもある。「CMGOGO」では電子番組表の「Gガイド」などは扱っているが、データ放送はまだ扱っていない。このように広告枠が増えてくればくるほど、テレビ広告とは縁が薄かった広告主も広義の「テレビ広告」に引きこまなければならなくなってくる。
Googleが、ネットを使ったテレビCM販売「Google TV Ads」を始めたのは07年4月のことだが、「CMGOGO」は06年9月で先行している。しかし、前回紹介したSpot Runnerは06年1月に開始しており、「CMGOGO」が、Spot Runnerに触発されたということはありそうだ。
このほか、リクルートが提供している「コマーシャライザー」というサイトも、素材を準備し、10枚の写真をアップすれば簡単にネット動画CMが作れるようになっている。「オンライン動画の制作は安上がりですませたい」ということもあるだろうから、こうしたサービスは今後も増えていくだろう。
「CMGOGO」は「ADGOGO」という「広告が買えるポータルサイト」の1コーナーだが、今回久しぶりに「ADGOGO」にアクセスしてみて、いろいろな広告料金が一覧できるのに驚いた。
テレビに関しては、先に書いたとおり関東キー局はテレビ東京まで含めて仲良く一律同じ値段だが、昨年11月に開始された「新聞ADGOGO」で公開されている新聞広告の料金表を見ると、モノクロ縦 約7cm×横 約5cmの「突き出し」と呼ばれる広告が、読売新聞朝刊の全国通しで237万3000円、朝日新聞が136万5000円。読売と朝日の発行部数は、それぞれ約1000万部と約800万部で、部数の開き以上に値段が違う。朝日の広告は割高というのが通説だったが、これを見るとまったくそんなことはない‥‥などということが衆目にさらされてしまっていいのだろうかと余計なことを思ってしまう。
もっとも広告の世界というのはダンピングや値引きが当たり前らしいから、公称料金が大っぴらになっても支障はないのかもしれない。
いずれにしても多メディア化時代になって、広告料金についても透明度を高め、これまで広告を出してこなかった企業にも広く門戸を開くことは、ますます切実な課題になってきている。
歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
過去の記事
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