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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

「バナナのたたき売り」にならない成果報酬型テレビ広告

2008年9月24日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 アメリカでは、日本に先んじて来年の2月にテレビ放送のデジタル化への完全移行が行なわれることになっているが、「成果報酬型テレビ広告」「多チャンネル・テレビ時代の広告」の2回にわたってREVShareという成果報酬型のテレビ広告配信会社の仕事を紹介してきた。CEOのジョセフ・グレイは、「マルチキャスティングは、テレビ広告産業に王手をかけるか?」と題したエッセイで、デジタル化やネット配信によって突入する多チャンネル時代には、「テレビ広告の量も視聴者の奪い合いもメディアの歴史上かつてないものになる」と言い、「視聴率とダイレクト・レスポンス・テレビという今日の2つのテレビ広告モデルが行き詰まる」と予想する。

 ダイレクト・レスポンス・テレビ(DRTV)というのは、無料通話の番号を示し電話をかけさせるテレビ通販のようなスポット広告のことだ。こうしたCMでは、視聴率と無関係に、コール回数などに応じて広告費を設定できる。多チャンネルとネット配信の時代には、従来の視聴率はカバーできなくなるので、多くの広告主が、ダイレクト・レスポンス・テレビ(DRTV)に関心を示すようになるとグレイは見る。

 DRTVに注目し続けてきた彼は、このエッセイの中で、DRTVをめぐる事情についてこう説明している。

「DRTVは、消費者の反応という形で得られる補助的な指標なので、多くの広告主が注意を向けるようになってきた。ひところは、DRTVは深夜に商品を売りつける広告屋の好むテレビ広告モデルだったが、ここ10年、爆発的な成長をしたばかりでなく、名の通った広告主にも使われるようになり、日陰の存在ではなくなった。」

 日本ではキー局などでは、テレビ通販はたしかに「深夜に商品を売りつける広告屋の好むテレビ広告モデル」のたぐいで、グレイの言う10年以上前のアメリカに近いのかもしれない。しかし、地方ではすでに、スポットもテレビ通販化しており、グレイの言うような状況になっている。
 テレビ広告がネットに食われていけば、いずれキー局も、地方局と同じようなことになっていくにちがいない。テレビだけでなく、四大メディアはこれまでのような広告収入を得られなくなっていき、通販のような存在が大きな意味を持つようになるだろう。

 グレイによれば、「伝統的な広告主」にとってもいまやメインストリームの存在になってきたというDRTVだが、欠点もまたあると言う。

「DRTVモデルの最大の問題点は、労働力が必要なことだ。重要な消費者にコスト効率よく情報を送り届けるというメディア・プランがうまく働いているか、つねに反応を見て管理し、アクションに応じて支払いが発生するようにしなければならない。」

 グレイは、「問題は、マス・カルチャーがもはやマスカルチャーではないことだ。そうではなくて、ニッチの固まり(mass)になっている」という「フォーチュン」誌の記事の文章を引用したうえで、次のように続けて述べている。

「もしDRTVが、技術進化が生んだもろもろの問題に対処する長期的な答えなのだとすれば、必要なのは、労働力がさしていらないもっと自動化された広告モデルである。インターネットは、どの広告メディアよりもメディアの分散化が進んでおり、成功例として参考になる。数え切れないウェブサイトを相手にシームレスで一貫し、効率よく広告を提供するという大仕事をやってのけている。テレビについても同様のやり方をすることができるのではないか。」

 広告主も代理店も、何千ものケーブルテレビ局やブロードキャストのテレビ局に容易にテレビ広告を送りとどけることができる仕組みを必要としている。それがREVShareというわけだ。REVShareは、前回書いたように、1500にもわたる契約局にスポット広告を効率的に配信する仕組みを持っている。

 さらにグレイは、広告販売にあたっては、Googleのようなオークション方式を持ちこむにしても、成果報酬にもとづかないオークションではダメだという。
 ネット・オークションのeBayも、テレビ広告枠のオークションをやろうとしたが、失敗した。オークションによって、テレビの放送時間がコモディティ(日用品)化するということで、テレビ局の猛反発にあったからだ。
 eBay型のオークションでは、価格競争の相手はライバル局で、広告枠が埋まらなければ「たたき売り」が起こる。テレビ局はそれを懸念した。
 しかしREVShareでは、テレビ局が広告枠のバナナのたたき売りのようなオークションをやるのではなくて、広告によって導かれた電話のコール1回あたりいくら払うといった形で、リターンを踏まえた支払額を設定する。コール1回あたりの支払い額とコール回数を掛けたものが広告費となる。だから、テレビ局にとっては、ライバル局との競争よりも、コール回数という形のパフォーマンスをいかにあげられるようにするかが重要である。
 たしかにREVShareでも、ライバルと比べてCPAがどうなっているかが広告主にも代理店にも報告されるし、コール1回あたりの単価を上げれば放送時間が増える可能性は高い。とはいえ、かかってくる電話が少なければ、広告費の支払いも少なく、テレビ局の収入が増えないので、その広告を流しても仕方がない。かくして放送回数も減っていく。逆に、コール回数の多い広告は、視聴者のニーズにもあっており、また多少CPAが低くてもテレビ局の収入になるので、優遇されやすい。
 売り上げにあった広告にするCPA方式のほうが、このようにバナナのたたき売りにならずにすむというわけだ。

 なかなかよく考えられた広告モデルだが、ただ理想をいえば、1回のコールあたりの報酬をあらかじめ設定するのではなくて、実際の売上高に応じて広告費が決まるほうが、広告主にとってはより望ましいはずだ。電話がかかってきたりサイトへのアクセスがあったとしても、最終的に購入にいたるかどうかはわからない。クリック課金と同様の問題点がある。
 とはいえ、クリックよりも、テレビCMを見て電話をかけたりサイトにアクセスするほうが、心理的なハードルは高い。そのぶん購入意欲は高いと考えられる。だから、クリック課金よりも最終的な成果に応じた広告費になっているとはいえるかもしれない。
 現状ではおそらく、REVShareのほうで電話のコール回数の捕捉はできても、売り上げの把握まではできないのでこうした形になっていると思われる。しかし、いずれは売り上げ報酬でテレビ広告費が払われる形になっていくのではないか。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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