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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

多チャンネル・テレビ時代の広告

2008年9月17日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

●録画視聴の広告効果もつかめるREVShareモデル

 テレビ広告に成果報酬を持ちこんだ前回のREVShareの広告モデルがことのほか興味深いのは、テレビというメディアの変化にあっているからだ。
 デジタル・ビデオ・レコーダーが家庭に入って録画視聴が増えているが、視聴率の調査から漏れていて、広告効果を測りにくい。視聴率をもとに広告費が決まっているのに、実際の視聴を反映していないというのでは、広告主の不信感が高まるのはまぬがれがたい。しかし、テレビ広告で知らせた電話番号やサイトへのアクセスを計測して広告費として請求するREVShareの広告モデルならば、録画視聴の広告効果もわかる。電話の受付期間内であれば、録画を見て電話してきた人についても計上されるからだ。
 録画視聴の調査では、録画後ずっと後になって見る人は比較的少なく、1週間以内ぐらいに見ているというから(電通メディア・コンテンツ計画局開発部『DVR普及がテレビ視聴に与える影響について』(pdf))、ますます有効なはずだ。

●多チャンネル時代にマスに広告を届けるには?

 REVShareの広告モデルは、多チャンネル化の時代にもあっている。
 デジタル放送では、ひとつのチャンネルで複数の番組を同時に提供することができるし、BS、CS、IPTVと、多チャンネル化がどんどん進んでいる。テレビでネットの動画を見るのが当たり前になってくれば、テレビ受像機で事実上、無限の番組が見れることになる。
 こうした状況を、広告という側面から見れば、視聴者の細分化が進み、一挙に膨大な数の視聴者に情報を送り届けることができるブロードキャストのメリットが減っていくということにほかならない。多くの人に情報を届けようとすれば、必然的に、情報を送る媒体数を増やさざるをえない。
 また動画の広告枠が増えれば、いよいよ埋まらなくなる。メディアが多岐にわたれば、視聴率もいよいよカバーできなくなる。媒体側にとっても広告提供側にとっても、未曾有の困難な状況が出現しつつある。
 REVShareの広告が興味深いのは、まさにこうしたことになるのを待っていたとばかりのビジネスモデルになっていることだ。

●効率的にCMを配信する仕組み

 REVShareは、1500にもわたる契約局に、スポット広告を効率的に配信する仕組みを持っているという。
「REVShareのコスト・パー・アクションのテレビ広告モデルはどのように機能しているのか」という文章で、CEOのジョセフ・グレイはこう説明している。

「Googleが、数多くのウェブ開設者の膨大なネットワークを広告主がたやすく使えるにようにしているのと同様、REVShareは広告主が何千ものテレビメディアを使いやすくしている。多くのテレビ局のネットワークにコマーシャルを配信するためのコストとロジスティックの悪夢をネットワーク配信システムが解決する」

 さらにDRTV Quarterlyという雑誌のインタヴューでグレイは、REVShareを使えば、1000を超えるテレビ局にスポット広告を流すコストの9割を削減できると言っている。そして、顧客が自分たちに頼む前に流していたテレビ局の数を調べてみたところ、自分たちのテレビ局ネットワークの2パーセント以下に過ぎなかったという。自分たちに頼めば、広告主ははるかに多い媒体に効率的にCMを流せるというわけだ。
 ビジネスが成功するかどうかはもちろんアイデアだけではダメだが、こうしたことがきちんと実現できているのであれば、たしかにかなりの強みを発揮できるにちがいない。

●日本のテレビもすでに成果報酬型広告へ一歩踏み出している

 日本でも流行っている、キーワードを示して検索させるテレビ広告は、REVShareほどのレベルではないにしても、REVShareの発想と重なっている。
 視聴率は、テレビ画面に映っているというだけで、ほんとうにCMが見られているかどうかはわからない。しかし、検索させれば、やはりテレビ広告がほんとうに効果を発揮しているのかがわかる。録画視聴まで含めたCMの効果がわかるばかりか、時間帯や局によってキーワードを変えておけば、どのCMの効果があったかもつかめる。
 検索へ誘導する広告の増加は、ネット広告の影響を受けて従来のメディアが双方向的になってきたことの例証だが、そればかりでなく、広告効果に敏感になるということは、効果によって広告費を払いたいという広告主側の欲求の高まりの現われだ。成果報酬型広告への潜在的欲求を見てとることができる。
 日本でも、テレビ受信機に映る番組数が飛躍的に増大し、広告枠も増え、埋まらなくなっている。REVShare型の広告配信システムが導入されるようになるのは時間の問題なのではあるまいか。


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 お知らせをひとつ。
 このブログは、1年前に行なったワイアード・ビジョン主催の講演をきっかけに始まった。それから1年経って、今度はまた別なところで「ネット広告がもたらす新経済圏と次の未来」と題して講演をすることになった。前回と重なっているところもあるが、私自身としては、1年間のあいだに基本的な部分で考えが深まった。とはいえ、こんどの講演の受講料は前回以上に高額なので、お金と時間がある方は上のリンクから申しこんでください(追記・主催者の好意で、私のブログの読者には特別価格で参加していただけることになった。リンク先の申込フォームの意見・要望欄に「歌田氏のブログを見た」と記入すれば半額で参加可能とのことだ。)。
 この講演でお話しすることは、このブログでも展開していく予定だ。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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