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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

成果報酬型テレビ広告

2008年9月 3日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 ネットが従来のメディアをどう変えていくかについて考えるうえで、REVShareという会社がやっていることは興味深い。
 この会社は、テレビ広告に成果報酬(CPA:コスト・パー・アクション)を持ちこんでいる。通話料無料の電話番号をテレビ広告で示し、かかってきた回数に応じて広告費を支払う仕組みを採用している。電話だけでなくウェブも使い、サイトへのアクセスに応じて支払うといったこともやっている。いずれも広告主が支払額を設定する仕組みだ。
 創立したのは1989年なので、ネットに触発されたわけではないし、ましてやGoogleに触発されたわけでもないだろうが、06年頃には、Googleと同じ広告モデルであることを強調していた。Googleと同じく、たくさんの広告主と媒体をマッチングさせることができるというのだ。

 GoogleもGoogle TV Adsというネットを使ったテレビ広告売買をやっているが、こちらはネット広告と同じく、オークションによって放送前に価格をあらかじめ決めて広告枠を買う仕組みで、REVShareのように、たくさんのテレビ番組に広告を出して成果に応じて広告費を払うというわけではない。

 REVShareでは、広告効果のない番組にCMを出せば、当然ながら電話はかかってはこないし、サイトへのアクセスもない。その場合には、広告費の請求は行なわれないというわけで、広告主にはリーズナブルな広告だ。
 もちろんREVShareとしては、反応があるCMになるよう努力はする。さまざまなアドバイスや援助をするばかりでなく、事前に調査のために少しCMを流してみて、その媒体があっているかどうか、2週間ほどのテストもするという。
 成果があった場合には、アクションごとに支払う額を広告主が高く設定すれば、広告の露出が増える。また広告主が増えれば増えるほど競争も激しくなっていくわけで、広告費が上がる。ただ、いまのところ広告主は50ほどらしい。

「テレビのGoogle?」と題されたリリースで、CEOのジョゼフ・グレイはこう言っている。

「Googleのような広告モデルは、ラジオ、新聞、雑誌と従来のメディアに広がっているが、REVShareはすでに、Googleが発展させようと取り組んでいるのと似た形のネットワーク型広告モデルとCPAを統合した。ますます多くの広告費がネットに流れこんでいるが、われわれはCPAモデルのことを、テレビに広告費を還流させる方法と見ている。伝統的メディアにある心理的な障害を取り除く。ネットではとても多くの広告主がCPA広告は快適だと思っている。だから、こうしたやり方をテレビでもやらない理由はない」

 グレイは、「CPA広告についてはわかっているものの、テレビ広告となるとためらうネット企業などからのコンタクトもある」と06年には言っていた。これまでテレビ広告を出すことをためらっていた中小の広告主も集めたいようだったが、さしあたり大手企業が中心で、ビジネスモデルはまだ揺れ動いている、といったところなのかもしれない。

 しかし、利益は出ているようで、1広告主あたり月25万ドルから100万ドルの売り上げで、毎年50パーセント増、2003年の3倍の5000万ドルほどの売り上げになったという。昨年の12月には、カーライル・グループなどからの2000万ドルの投資を獲得し、注目もされている。

 広告を配信している媒体は、ケーブル・テレビが7割で、24パーセントを占めるブロードキャストもローカルが多いようだ。地方局中心に1500の局と契約している。2006年の前半は1000ほどだったようだから、1年半ほどで、契約しているテレビ局は1.5倍になっている。人口の93パーセントにあたる1億1000万世帯をカバーしているそうだ。
 昼間の時間帯が4割で、ダイレクト・レスポンス・テレビ広告(DRTV Advertising)と呼ばれる広告が多い。DRTVはスポット広告を使って行なうテレビ・ショッピングで、商品の紹介などをして無料電話の番号やウェブサイトを示す。
 テレビ・ショッピングは誰が見ているのかと思うが、主婦層を中心に意外なほど熱心な視聴者がいる。どのみち埋まらない広告枠から収入を得られれば、ケーブル局としてはありがたいし、広告主としても、反応がなければ広告費の請求はないわけだから損はない。反応はなくても、知名度が上がるぶんだけトクというものだ。

 日本でもローカル局の昼間の時間帯は、テレビ・ショッピングが多い。広告の入りにくい時間枠を通販会社に売っている。テレビ・ショッピングばかりのチャンネルでは視聴者にとって魅力が乏しくなるが、ローカル局のスポット広告が入りにくい時間帯をREVShareのような広告でともかくも埋めておくというのは、日本でもありうる考え方だろう。
 テレビ・ショッピングというと、視聴者の感覚では、おもしろみのないマイナーなプログラムのように思うが、日本でも在京キー局まで通販に力を入れだした。テレビの未来を考えたときには、かなり大きな意味を持っている。しばらくそうしたことを考えてみたい。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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