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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

個人がテレビ広告を出す時代が来る?

2008年10月28日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 前回までREVShareのビジネスモデルを書いてきた。多チャンネル時代になって、多くのテレビメディアに効率的にCMを流す仕事をしている会社はアメリカにほかにもある。

 1994年創立のB.H.Directも、REVShare同様、売れないメディア枠を成果報酬で販売している。CMごとに違った無料電話の番号を示し、それぞれのCMの効果を把握している。従来のCMに比べて20パーセント安い価格でアクセスを誘導することに成功しているそうだ。

 Googleが始めたGoogle TV Adsも、ネットを使ったテレビ広告売買で、これまでテレビ広告を使ってこなかった中小の広告主、とくにネット広告は使っているもののテレビ広告は未体験という広告主をねらっている。
 Googleの広告はスポットCMを出したいテレビ局や曜日、時間帯、1日に使える金額、1000回表示あたりの支払額(30秒広告1回の最低入札額は1ドル)などを設定して入札する。ただし、これはREVShareやB.H.Directとは違い、成果報酬ではない。

 日本でも、在京キー局まで含めてスポット広告の売り上げが落ちて困っているが、売り上げが落ちるということは、要するに埋まりにくい枠があるということだ。在京キー局でさえこうなのだから、地方局やケーブル、衛星チャンネルともなれば、一段と深刻なはずだ。
 今回とりあげるSpot Runnerは、まさにこうした埋まりにくい広告枠に、これまでCMを出してこなかった広告主を引きこむ仕事をやっている。この手の会社のなかではもっとも有名なようだ。

 動画素材が準備され、広告主自身が音声や字幕などを加えることで、簡単に広告を作れる。このページでそうしたCMの例を見ることができるが、クリスマス・プレゼントを渡すと彼女がにっこり笑ってキスをするという動画が準備されている。プレゼントできる商品ならば何でもこの動画素材を使える。商品名を告げる音声をかぶせたり、画面上に商品名を表示したり、商品の写真を入れたりすればCMのできあがり、というわけだ。
 テレビCMの制作がこんなに安易でいいのかと思うが、いまや時代は変わりつつあるということか。
 もっとも安いプランで499ドル。これは編集のみ。撮影まですれば1199ドル。シナリオを変えると1999ドルなどと5つのコースが用意されている。また、それぞれのコースのなかでもいろいろなオプションを選べるようになっている。もちろんこうやって動画CMを作成し、ネットで流すこともできる。
 Spot RunnerのCEOニック・グラフは、バークレーのケーブルテレビのスポット広告枠を18ドルで購入して流したそうだ。つまり個人でもやろうと思えば、日本円にして5万円ほどでテレビCMを作り、数千円でケーブルテレビのスポット広告の枠を買って流すことができるというわけだ。

 この会社の広告部門の責任者は、つい先ごろまでマイクロソフトから転職してきたジョアン・ブラッドフォードという女性だった。
 この女性がSpot Runnerにいたのはわずか数か月で、どういう事情があったのかわからないが、いまはYahoo!に移っている。マイクロソフトのYahoo!買収騒動などもあって、様子見のために緊急避難的にSpot Runnerに身を寄せたのかもしれないが、ともかく待遇がはるかにいいだろうITビッグ企業の幹部が一時でも席を置くぐらいの会社ということらしい。
 ただし、順風満帆かどうかはよくわからない。この8月にも全従業員の1割にあたる50人ほどを解雇し、資金が足りなくなっているというウワサが流れた。その一方で、あらたな募集もやっているので、中小の広告主にローカル局の広告を出させるというビジネスモデルを変えようとしているのではないかと見られている。
 経済が大混乱しているこの時期だから、何があっても不思議はないし、まだこれからというこの新分野にGoogleという強敵が出現したとあれば、状況は混沌とせざるをえない。しかし、06年初め頃にSpot Runnerが始めたテレビCMビジネスが興味深いものであることには変わりない。

 Spot Runnerの言い分を聞くと、たしかにいとも簡単に個人でもテレビCMを流せそうだ。日本でも、次回書くように、広告主自身ができあいの動画素材を使ってCMを簡単に作れるサービスが生まれている。
 多チャンネル化が進み、いよいよい広告枠が埋まらなくなっていけば、日本でも簡易に作られたCMが増えていくのかもしれない。もっともテレビを見る側としては、どこの誰ともわからない人間の名前が連呼されるようなCMはあまり見たくはないが。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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