Googleの盲点を突いたマイクロソフト
2008年7月14日
(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら)
マイクロソフトがキャッシュバック付きの検索を始めている。商品検索サイトLive Search Cashbackを使って提携店のサイトにアクセスし、商品を買うと、キャッシュバックされる。
さしあたり米国在住者だけが対象なので、試してみることはできないが(検索はできる)、TechCrunchの記事に「反響はさまざまだが、その多くは否定的」とあるとおり、使い勝手や実際に安く買えるかといった点に問題があるらしく、評判は良くない。
しかし、そう書いているTechCrunch自身は、「これはまさしくGoogleののど笛に食らいつくような大胆なアプローチであり、マイクロソフトの検索市場シェアを大きく改善する可能性が十分ある」ときわめて高い評価をあたえている。TechCrunchは、マイクロソフトがヤフー買収を提案したときにも、ヤフーは買収提案を受け入れるべきだといったマイクロソフトびいきともとれる記事を載せていて、(私もGoogleのライバルが必要だとは思うものの)大丈夫かなという気がしなくもなかった。こんどもまた、検索業界のご意見番Danny Sullivanも含めて多くの人がダメだと言っているなかベタ褒めで、またまた「大丈夫かな」という気がしてくる。
マイクロソフトは、何としても検索シェアを増やしたいのだろうが、使ってくれればお金を払うというこの即物的なやり方に、ニューヨークタイムズは、「マイクロソフトはカネで愛を買えないことを知るべきだ」と辛辣なタイトルの記事を載せている。本文でも、「マイクロソフトに対する非難には、ほかのみんなのいい考えをコピーするということがある。こうした言い方はまだ親切すぎる。悪い考えであることがはっきりしているたくさんの考えもコピーしている」という書き出しで、要するに、利用者にお金や報酬を渡すことで顧客を買うことに成功したネットビジネスはこれまでになく、こうしたやり方でGoogleに勝つことはできないと述べている。
またワイアードビジョンの「Microsoft、検索利用者にキャッシュバック:本当に得か?」という記事でも、Live Search CashBackではキャッシュバックはされるものの、Googleのショッピング検索のほうが検索の質が上で、Live Search CashBackよりも安い商品が見つかるといったミもフタもない話しを載せている。
とはいうものの、Googleに勝てるかどうかはともかくとして、私もこのアイデアはとてもおもしろいと思う。Googleの検索広告では、広告を設置したサイトとGoogleは利益を分けあい、ウィン・ウィンの構造になっている。しかし、検索利用者には何の利益還元もない。「便利に検索できたのだからよかったでしょ」ということ以上のものはない。マイクロソフトのこの検索は、そうした点を突いている。
「ウェブがインタラクティブなメディアである以上、可能なかぎり具体的な成果をリアルタイムに求められるのは自然の流れで、このような欲求に応えられるウェブには、欲望を端的に満たすことのできる直接性や即時性が、メディアの特性として備わっている」といったことを前に書いた。そして、こうした性格を強く持っている成果報酬型広告が今後伸びていくだろうと予想した。
しかし、その私も、「成果」とは広告主にとっての「成果」で、商品が売れたり会員登録が行なわれるなど広告主が設定した目標が達成されたときにのみ広告費が発生する現在の成果報酬型広告のことしか考えていなかった。けれども、「成果」の分け前について、肝心の利用者を無視していいわけはない。
キャッシュバックそのものはありふれたサービスではあるが、検索ではこれまで取り入れられてこなかった。それを突いて見せたという点でとても興味深い。ただ、もちろん使い勝手や実質的に意味があるのか(つまり安く買えるのか)といったことについて、利用者にメリットを感じさせなければ意味がないことも当然である。
それでも、こうしたアイデアをマイクロソフトが考えついたのであればたいしたものだと思ったが、じつはこれは、昨年9月にマイクロソフトが買収したJellyfishという会社のアイデアらしい。Jellyfishは2006年6月に創立したとのことだから、わずか1年ほどでマイクロソフトが目をつけ、手に入れたことになる。そしてそれから8か月足らずでマイクロソフトは自社の検索と統合し、Live Search Cashbackをスタートさせたわけだ。
Jellyfishは、「広告を末端の顧客に奉仕するものにするというわれわれのビジョンをマイクロソフトが気に入ってくれて」買収したと説明しているが、同社の創立者たちは、その特徴についてなかなか興味深い主張を展開している。
次回はGoogleの盲点を突いたJellyfishのそうした言い分を紹介することにしよう。
歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
過去の記事
- 「広告経済」の潮流は変わらない2010年1月18日
- あらゆるものが広告媒体になる2009年12月21日
- 広告経済か無料経済か2009年11月16日
- コンテンツ・メーカーがコンテンツ流通・配信会社に勝てない理由2009年10月19日
- ネットではより過激になりうる「買い手独占(モノプソニー)」2009年9月24日