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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

クリック課金型から成果報酬型への移行は避けられない?――アフィリエイト広告の歴史(2)

2008年3月17日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 アフィリエイト広告では、購入されるなど具体的な成果があったときにコミッションが払われる成果報酬がふつうだ。しかし当初は、クリック課金型も多かった。
 1999年に出版された"The Complete Guide to Associate and Affiliate Programs on the Net"という本では、アフィリエイトにはいろいろな種類があると、次の5つを例示している。

1) セールス・コミッション(販売報酬)
2) 顧客獲得
3) (会員登録や資料請求、アンケートへの回答などへの)誘導(lead)
4) クリック・スルー
5) インプレッション(1000回表示されるごとに支払う)

 そのうえで、次のように言っている。

「この本では、セールス・コミッションと顧客獲得、誘導のアフィリエイトに焦点を当てる。クリック・スルーとインプレッションのプログラムは、トラフィックの多いサイトには魅力的かもしれないが、幅広いサイトに多くの収入をもたらしはしない。いくつかの例外はあるにしても、アフィリエイトを提供しているトップ100のサイトを見ると、セールス・コミッションと誘導のプログラムが、対象を絞った中ぐらいのトラフィックのサイトでもっとも成功しやすい」。
 前回、名前をあげた、ネット上でもっとも早くアフィリエイトを始めたと目されているCybereroticsというアダルト・サイトも、クリック課金型だったようだが、1996年からアフィリエイトをやっているCyberFoxesというサイトは、クリック詐欺が多かったので成果型報酬に変えたとClickZの記事は書いている。  このサイトにかぎらず、クリック課金型のアフィリエイトは軒並み成果報酬型に移行していった。

 米ウィキペディアの「Affiliate Marketing」の項目も、次のように書いている。

「クリック課金(CPC/PPC)は、アフィリエイト・マーケティングの初期にはもっとありふれたものだった。しかし、検索エンジンが直面しているクリック詐欺ととてもよく似たクリック詐欺の問題のために、時間の経過とともにいまでは減ってしまった」。

 そしてaffstatのデータをもとに、「今日、支払い方法としては、アフィリエイトの80パーセントは収入のシェア(revenue sharing)か売り上げ成功報酬(cost per sale: CPS)で、19パーセントが成果報酬(cost per action: CPA)、残りの1パーセントがほかの方法、つまりクリック課金(cost per click: CPC)か1000回表示されたごとに払う方式(cost per mille: CPM)だと書いている(GoogleのAdsenseなどのコンテンツ連動広告はクリック課金だが、これはアフィリエイト広告なのかどうかはっきりしないので、この数字には含まれていないという)。つまり、今日ではアフィリエイトの支払い方式は100パーセント近くが何らかの形の成功報酬で、表示課金(CPM)はもちろん、クリック課金もほぼ消滅してしまったというわけだ。

 アフィリエイト広告がこのような発展をしたのであれば、前回触れたように、現在はクリック課金の検索連動広告やコンテンツ連動広告なども、同じ軌跡をたどるのではないか。

 検索連動広告やコンテンツ連動広告でも、かつてのアフィリエイト広告と同じく、広告収入めあてやライバルに無駄な出費をさせようということで詐欺的なクリックが行なわれ過大に請求されているのではないかと疑う広告主の不信感を完全には払拭できていない。
 「言いたくても言えず疑惑を招いている板挟みのグーグル」という原稿でも書いたことだが、技術力を誇るGoogleも、クリック詐欺について、検索結果の順位と同じ問題に直面している。
 検索結果画面で自分のウェブサイトが何番目に表示されるかはサイトにとって死活的に重要で、サイト開設者としては、具体的にどのように検索結果の順位が決められているのかを知りたい。しかし、グーグルとしては、それを明かしてしまえば不正が行なわれる心配があるというわけで、原理を示すだけで詳しく説明しようとはしない。その結果、検索結果の表示が適正に行なわれているかどうか、ときに疑いの眼を向けられてしまう。

 それと同じくGoogleは、クリック詐欺などは排除して広告費を請求しているというが、具体的にどのクリックを不正と判断しているかは明かさない。どういう判断をしているかを明らかにすると裏をかく技術が開発されてしまうからだというが、その結果、クリック詐欺についての疑惑を払拭できない。Googleは、過大な広告費を請求したと訴えられ、結局、弁護士費用3000万ドルに加えて最大6000万ドルまでGoogleの広告を無償で使用する権利をあたえるということで、集団訴訟した大多数の原告と和解するにいたっている。

 過大な広告の請求を行なっていなかったとしても、疑いを払拭できないかぎり、クリック課金は「クリック詐欺の疑惑」を逃れられない。「広告効果がわかる」というのがネット広告の売り文句なのに、そうした金看板に傷がつくことになればその影響は小さくない。
 実際、アウトセルという調査会社が407のスポンサー企業について調べたところ、16パーセントの企業がクリック課金の広告を完全にやめ、11パーセントが減らし、10パーセントが減らす計画があるという。クリック詐欺の問題は、日本ではまだそれほど注目されてはいないようだが、アメリカではその波紋はすでに広がり始めている。

 こうしたことがあるからだろう、Google自身も、日本も含めたワールドワイドで昨年6月(アメリカでは昨年3月)から成果報酬型広告を始めている。過去30日間に広告目的が500 回以上コンバージョン(達成)できた広告主だけにさしあたり対象を絞っているものの、クリック課金から成果報酬へとほぼ完全に移行してしまったアフィリエイト広告の歴史をふり返ってみても、クリック課金型広告が成果報酬型へ移行することは避けられないのではなかろうか。
 
 こういったことは、ネット広告に直接携わっている人以外には、どうでもいいことのように思われるかもしれないが、そうではない。

 われわれはまだ、一般に広まって10数年しか経っていないウェブというメディアの特徴を十分に理解してはいない。十分に理解していないどころか、技術がどんどん進み新たな現象が次々と起こり、われわれがほとんど何も理解しないうちに現実のほうが進んでしまっている。
 そもそもわれわれはインタラクティヴなメディアというものを初めて手にしている。言うまでもなく、印刷媒体でも放送メディアでも一方向的であり、瞬時に双方向的なやりとりを可能にする多数間のコミュニケーションというのは、これまで集会(!)のような形しかなかった。インタラクティヴというものがどのようなものであり、どのような現象を引き起こすのかわかっていない。こうした広告の変遷はネットというこの新しいメディアの特徴を教えてくれる。

 クリック課金の雄となったGoogleでさえも、当初は、検索連動広告で表示回数課金をやっていた。そうした時代を経てクリック課金に移行し、さらに成果報酬型を始めざるをえなかったのは、ことの経緯としては、クリック詐欺のような難題があって、不正請求の疑惑を解消するためにはより具体的な成果を見せて広告主を納得させる必要があったというわけだが、逆に言えば、具体的な成果を見せる方法があったからこそ、こうした経緯をたどったわけだ。

 従来のメディアでも広告効果ははっきりせず、広告主は、しばしば広告の有効性に疑問を持った。しかし、有効性を明確に把握する方法がなかったために、たとえば視聴率などのように(調査対象世帯は十分なのかとか、テレビがついていても見ているわけではないのではないかなどの疑惑にもかかわらず)既存の指標で満足するしかなかった。

 ところが、ネットの場合には、疑惑をかけられればその疑いを払拭する代替案があった。ウェブがインタラクティヴなメディアである以上、可能なかぎり具体的な成果をリアルタイムに求められるのはきわめて自然である。このような欲求に応えられるウェブには、欲望を端的に満たすことのできる直接性や即時性が、メディアの特性として備わっている。

 従来のメディアでも、双方向性がまったくないかといえばそんなことはない。テレビや新聞を見て電話したり、投書したりといったことは、これまでもあった。しかし、そうしたリアクションまでには一定の時間を必要とした。ネットでは、クリックひとつで、反応を返すことが可能だ。インタラクティヴィティ(双方向性)というのは、要するに、返事をするのにかかる時間が短縮されるということである。ネット広告の推移は、こうしたインタラクティヴなメディアの特性が反映した結果といえる。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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