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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

Googleが検索ページに動画広告を表示し始めた理由

2008年6月24日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 Googleは、動画広告をすでに始めているが、さらに検索結果にも動画広告を出し始めたらしい。ニューヨークタイムズの記事では、Googleの副社長であるマリッサ・メイヤーが、なぜ検索結果に動画広告を出し始めたのかその理由の一端を明かしている。

 Googleは昨年、英語版でも日本語版でも、画像、動画、ニュース、地図などのさまざまな情報を一括して検索表示する「ユニバーサル・サーチ」を始めた。メイヤーは、画像を表示するようになると利用者の目はそれに惹きつけられ、テキスト広告の広告効果が下がるという。

 Googleがこれまでずっと地味なテキスト広告を表示してきたのは、テキスト広告にこだわっていたからではなくて、テキストばかりの検索結果の表示にはテキスト広告があっていたからにすぎず、検索結果に画像などを表示するようになればそれにあった広告にすると述べている。Googleの検索広告が将来的に変化していくことを予感させる見解だ。

 Googleの動画広告は、クリックした場合にだけ再生される。メイヤーの言葉からすれば、そのようにしたのは、動画広告を見たくない利用者にうるさがられないようにしたということだけではないのだろう。検索結果画面が開いて動画広告がただちに再生され、利用者の目を奪えば、ほかの広告の効果が下がってしまう。それを避けるため、ということもあるのではないか。

 動画広告の課金方法も、従来とは変えるらしい。これまでの検索結果ページの広告は、広告がクリックされ広告主のサイトへのアクセスがあるごとに広告費が発生した。しかし、動画広告では、クリックされて動画広告が視聴されるごとに課金される。つまり、通常のクリック課金のように、広告主のサイトへのアクセスによって広告費が発生するのではない。動画広告では珍しくない課金方法ではあるが、クリック課金と表示課金の融合形ともいえる。

 前に、今後の広告市場では、動画広告も含めた広い意味でのディスプレイ広告が有望で、アメリカでは、広告市場の4割と現在もっとも大きなシェアを占めている検索連動広告にとってかわる有望分野になっていくかもしれないという予測を紹介した。eMarketerは、「これから」ではなく、いまでも依然として従来型のディスプレイ広告は重要であり、そういう意味でも、Yahoo!はマイクロソフトが買収を仕掛ける魅力的なターゲットだとデータをあげて主張している。米Yahoo!は、ディスプレイ広告市場の5分の1のシェアを占めていて、1000回あたりの表示課金の広告費はMSNの3倍、MySpaceの5割り増しなのだそうだ。
 
 Googleも当然こうしたことはわかっているはずだ。3月11日に買収を完了させた米DoubleClick社の買収は、ディスプレイ広告がネット広告の主戦場になる次の時代の広告戦争を見すえたものだろう。DoubleClick買収をめぐってGoogleはマイクロソフトと争ったが、マイクロソフトに勝ったあとも、健全な市場競争を阻害するという疑いで欧州委員会などに待ったをかけられた。

 結局、欧州委員会の許可が出て買収は完了したわけだが、昨年6月、Googleはオフィシャル・ブログで、「なぜわれわれはDoubleClickを買収するのか」と題したエントリを公開し、次の広告戦略に向けた考えを明らかにしている。「オンライン広告は複雑なので、少しさかのぼって状況を説明すべきだと思った」と冒頭に書かれ、ネット広告に馴染みのない人にもわかりやすく書かれている。と同時に、Googleの広告事業の現状と将来に向けての戦略がわかって、1年近く経ったいまでもおもしろい。少し古いものではあるが、次回はそのエントリを取り上げてみたい。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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