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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

成長が上方修正された動画広告市場予測――動画広告の発展(1)

2008年5月 7日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 バナー広告は、サイトに表示されても、利用者がちゃんと見ているのかどうかわからず、効果が定かでない。それに比べて、クリックして広告主のサイトにアクセスがあったときにのみ広告費が発生するクリック課金のほうが成果がはっきりわかる。そういうことで、クリック課金型広告は高く評価されてきた。
 ただその一方、バナー広告を提供しているネット広告関係者からは、「クリックされて広告主のサイトにアクセスされなければバナー広告が無意味かというと、そうではない。バナー広告に目がとまれば、認知度が上がる。すぐ購買や会員登録などのアクションにつながらなくても、ブランド価値の上昇に貢献する」と言ったことが、(バナー広告がクリックされにくいことが知られるにつれて)いよいよ強調されるようになってきた。

 4月21日に公表されたYahoo! JAPANとマイクロソフト、gooを運営するNTTレゾナント、ビデオリサーチインタラクティブによる共同調査もそうした方向のものだろう。
 1000万インプレッション出稿時の広告認知者数は130万人で、広告到達者の29.1%が広告を認知、62.0%が広告内容を理解、30.4%が商品購入や利用を喚起され、広告メッセージについて非到達者の1.25倍の理解が得られ、商品購入/利用意向は非到達者の1.15倍になるとレポートしている。

 見られれば広告価値が上がるとしても、見てもらえない広告では話にならないのでどんな広告かにはよるだろうが、こうした理屈はたしかに一理ある。
 前回までに書いてきたように、直接的な広告効果を求める広告主の欲求がいよいよ強まり、クリック課金から成果報酬へ移行していくということは起こると思われるが、その一方で、できるだけ多数の人に呼びかけブランド価値を高めたいという広告主の欲求も消えることはないだろう。これまでとくにテレビ広告が果たしてきた機能をネット広告も取り入れていくことが必要だし、実際にそうなっていくはずだ。
 だから、形は変わるにしても、表示課金型広告はなくならない‥‥というよりも、表示課金型広告は今後いっそう伸びると思われる。
 動画広告が急成長するのはほぼ間違いない。動画広告も、広い意味でのディスプレイ広告の一種で表示課金型だ。これまでブランド価値を高めることに貢献してきたテレビ広告に対する投資がネットの動画広告に移っていけば、表示課金は急成長するだろう。

 たとえば、少し前のものだが、2006年のCNETの記事で、投資会社のPiper Jaffrayは、メディア界の幹部や投資家を招いて開催した懇談会「Global Internet Summit」で、次のような観測を述べたという。

 Piper Jaffrayの複数のアナリストは、2006年は全世界における検索型広告の売上はおよそ40%増加して136億ドルとなる一方、ブランド広告の売上は25%増の117億ドルになると予測している。しかし、今回の懇談会に出席したPiper Jaffrayのアナリストや広告業界幹部は、ウェブページに表示されるバナー広告などのディスプレイ型広告が、2007年以降は成長率で検索型広告を抜くだろうとみている。

 あるいは、「検索広告の重要度、低下の見込み」という米IDCが昨年6月に発表した調査にもとづく予測記事でも、2006年のアメリカのネット広告売り上げ169億ドルが2011年に313億ドルに達すると予測したうえで、検索広告の売り上げは増え続けるものの全体に占める割合は緩やかに減少し、Web広告売り上げ全体に占める割合は2006年の40%が2011年には32%に低下すると見通しを述べている。
 かわって動画広告が次のように伸びると見る。

 ブロードバンド普及に伴い、広告主はビデオなどのリッチメディア広告への支出を徐々に増やしているという。近いうちにビデオ広告のブレークスルーが訪れ、ビデオ広告の占める割合が急速に拡大するとIDCは見込んでいる。 「ネット広告とGoogle、Yahoo!などの企業の将来は、ビデオ広告の成長ペースと、メディア企業がどれだけそれを活用できるかにかかっている。同時に、検索広告のシェア低下が、売上高の大半を検索広告から得ているGoogleにとって戦略的な課題になる」とIDCは指摘する。

 以前紹介したeMarketerの予測では、検索広告の割合は2006年の40.3%が2011年には39.5%に微減する一方、動画広告などのリッチ・メディア広告が7.1%から13.1%に伸びるというものだった。これは昨年11月の予測だが、3月18日に発表された新たな予測では、こうした推移がさらに著しく起こるという予測に変わった。
 検索広告は2012年に37.3%に落ち、かわってリッチメディアが18.5%にまで伸びると予測している。ディスプレイ広告とあわせると、検索広告とほぼ並ぶ数字になる。
 2007年のネット広告の売り上げが明らかになり、動画広告がすでに予想以上の伸びをしているのがわかって、予測をあらためたのだろう。同社のシニア・アナリストによれば、「アメリカの動画広告市場は現在ネット広告の4%以下」だが、「2011年までに3倍になる」と言っている。

 ABI Researchの予想は、eMarketerよりももっとずっと大胆だ。アメリカの動画広告市場は、2008年の2億6000万ドルが2012年には21億ドルと8倍、ヨーロッパでは2008年の2億ドルが2012年には24億6000万ドルと12倍、アジアはもっとも伸びが大きく、2008年の2億200万ドルが2012年には33億ドルと16倍になるという。
 しかし、2007年のアメリカのテレビ・メディア広告市場は644億ドル日本のテレビ広告市場でも約2兆円(約193億ドル)ほどだから、それに比べれば動画広告市場の予測はかなり少ない。テレビ広告からの移行が始まれば、動画広告の成長はもっと大きくなるだろう。

 次回は、動画および動画広告がどのように視聴されているかについて、さまざまな指標から見てみたい。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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