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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

動画広告の視聴実態――動画広告の発展(5)

2008年6月11日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

●意外なほど中高年の利用者の多いYouTube

 前回、YouTubeが、意外に中高年にも浸透していると書いたが、YouTube自身のサイトでもそうしたことを感じさせるデータが公開されている。情報源は2008 年 3 月のNielsen/NetRatingsの調査で米国の利用者だけを対象にしているものだが、18歳以下、18歳から34歳、35歳から44歳までの各世代のユーザーがそれぞれ18-19%なのに対し、45歳から54歳、55歳以上の利用者はそれぞれ22%いるという。

 35歳から55歳までは10歳きざみの区分なのに対し、18歳から34歳は17歳分の幅がある。それにもかかわらずこうした数値になっているというのだから驚く(34歳以下も10歳きざみの区分にするとあまりに値が小さくなりすぎるので、こうした区分にしたのではないか)。

 動画視聴の現状を示すデータをざっと見てから動画広告をとりあげようと思ってとりかかったが、発見がけっこうあった。今後、動画広告が急成長していくと考えられるので、動画の視聴のありようは重要だと思うが、アメリカ編、日本編、動画共有サイト編と思いのほか長くなってしまった。私が想定しているこのブログ連載の「山」はじつはもう少し後のほうにあるのだが、とりあえず今回は、いろいろなデータをサーベイしてきた最後に、動画広告視聴をめぐる日米の調査を見てみることにしよう。


●広告効果が高い動画広告

 eMarketerの調査によれば、オンライン動画視聴者の31%が会社のサイトにアクセスし、22%が商品情報について検索したそうだ。また、19%が動画にともなって表示されるバナー広告をクリックしている。情報のリクエストをしたのは13%、商品の購入が12%と、動画広告の広告効果がきわめて高いことがわかる。

 フランスで行なわれた調査でも、動画広告を見た人のうち55.5%が広告のブランドのサイトにアクセスし、33.2%が商品情報を探したという。さらに22.4%がニュースレターの登録など情報のリクエストを行ない、20.3%が商品を購入したとのことだ。国を問わず、動画広告の広告効果は高い。

 前に紹介したYahoo! JAPANやマイクロソフト、goo、ビデオリサーチインタラクティブの共同調査でも、マウスをあわせたりクリックすると広告スペースが拡大するエキスパンド、あるいは音などのリッチ素材を使うと、認知度やブランディング効果が高まることが報告されている。リッチ素材を使うと、それ以外のときよりも認知度は1.13倍、購入や利用意向は1.24倍、関心を引く度合いも1.26倍になるという。
 サイバー・コミュニケーションズの調査(PDF)も、リッチ広告の広告効果がバナー広告よりも高いことを明らかにしている。


●動画広告はテレビ広告に比べてイメージがいい

 「インターネット動画広告に関する調査」では、インターネット上の動画CM中に掲載されているバナーを、3分の2近くのユーザーが「クリックしたことがある」と答えたという。その6割が、「商品やサービスに興味を持ったから」という理由をあげている。そして、動画CM中のバナーよりも動画CMのほうが印象に残り、商品をイメージしやすく、わかりやすいと思われている

 この調査のサンプル数は322で、「あくまでも指標となるもの」との断わり書きが付いているが、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムがやった調査(PDF)でも、テレビ広告に比べてネット動画広告のほうがイメージがいいという結果になっている。こうしたことが広告主のあいだで広く認知されればされるほど、動画広告の成長は加速していくだろう。


●視聴者と物理的にも心理的にも「距離の近い」動画広告

 このような調査結果は、自分の行動をふり返ってみてもよくわかる。バナー広告はめったにクリックしないが、動画広告を見るともっと情報が知りたくなって、広告主のサイトにアクセスする、ということはかなりしばしばやっている。

 先の調査結果と矛盾するようだが、私の体験からすると、動画CMはわかりやすいからではなくて、動画CMを見ただけではわからないから、クリックして広告主のサイトにアクセスするのではないか。動画CMだけですべてわかってしまえばクリックする必要はない。関心はそそられたものの、短い動画CMだけではいまひとつよくわからず、もっと知りたいと思ってクリックする、ということではないだろうか。

 いずれにしても動画広告は、広告主がユーザーをサイトに呼びこむためのかなり強力なツールといえそうだ。

 少し離れたところから一方的に情報を送ってくるテレビ広告より、パソコンや携帯電話は利用者からの物理的距離も近い。また、自分の操作によって意のままにできるオンライン動画広告のほうが、親密な感じもする。

 近々取り上げようと思っているグーグルが始めた動画広告のようにクリックしないと再生されない場合には、テレビ広告に感じるような押しつけがましさもない。自分から進んで見ようとした広告であるだけに、いったん視聴すれば、広告主のサイトにアクセスする可能性はさらに高まるだろう。


●表示の仕方に工夫が求められる動画広告

 Burst Mediaの記事(PDF)の調査は、動画広告ではどういうぐあいに見せるかがとくに重要であるということを感じさせる。

 動画視聴者の半分以上の人が動画内の広告を覚えているものの、4分の3は、動画内の広告を鬱陶しいと感じている。若い世代ほど忍耐強いが、半分ほどの人が動画を見るのをやめてしまう。テレビのように広告を出すやり方にはやはりそうとう反発が強いようだ。

 海外よりも日本のほうが押しつけがましいテレビ広告に慣らされてしまっていることを示す調査を別のところで紹介したが、日本の調査でも、無料動画配信サービスでCMを「あまり見ていない」「まったく見ていない」の合計は、前回調査の39.7%から45.5%へ増えている。無料動画配信サービスの利用上の課題として「CMがスキップできない」をあげた人が36.2%、「録画できない」をあげた人が21.3%と、おそらくアメリカなどの反発に比べれば低いと思われるものの、それでも高い。

 先の「インターネット動画広告に関する調査」で動画広告の不満点を尋ねた項目でも、ダントツで多い答えは「邪魔である」。

 動画広告は、視聴者と距離が近いぶんだけ、テレビ広告のような表示をすればテレビ広告以上に反発が強くなるということはありそうだ。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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