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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

動画の視聴実態・日本編・動画共有サイト――動画広告の発展(4)

2008年6月 3日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

●熱心な利用者を獲得したニコニコ動画

 前回は、日本の動画視聴全般の調査データを見てみたが、今回は、動画共有サイトに絞って各種の調査を見てみよう。

 ネットレイティングスが公表したデータによれば、YouTubeの視聴は2006年には急速に伸びたものの、2007年になると利用者一人あたりの平均訪問回数も平均利用時間の伸びも止まった。かわってニコニコ動画が急成長している。昨年8月の時点で、ニコニコ動画は、一人あたりの平均訪問回数でYouTubeの1.7倍、平均利用時間で3.14倍になっている。

 もっとも、利用者数ではYouTubeのほうがかなり多い。昨年12月のネットレイティングスの視聴率ランキングによれば、「YouTube」が1455万1000人で、ニコニコ動画が386万人。総利用時間でもYouTubeが上まわっている。

 ニコニコ動画を見るには登録が必要だから、こうした差が出るのは不思議ではない。それでも、平均訪問回数や平均利用時間でニコニコ動画がYouTubeを上まわっていることから、若者層を中心にいかに熱心な利用者を獲得しているかがわかる。


●若者は動画共有サイト、中高年は無料インターネット放送

 2007年11月に実施された日経マーケット・アクセスによる「ネット動画ビジネス市場調査2008」(有効回答数:8225)でも、40歳代までは、利用した動画サイトのトップはYouTubeだった。ニコニコ動画は、20歳代・30歳代でもYahoo!動画とGyaOに次ぐ4位にとどまっている。

 GyaOは、20歳代では3位、30歳代と40歳代では2位、50歳代では1位と世代を上げるごとに順位を上げている(60歳代では2位)。こうした動画提供サービスは、テレビ・メディアに馴染んできた世代にもとっつきやすいわけだ。その一方、ネットの存在を当たり前として育った世代(ネットのアーリーアダプター世代とも言えよう)を中心に動画共有サイトへの移行が進んでいる。

 この記事も「ネット動画ビジネス市場調査2008」のものと思われるが、動画サイトの世代別利用率のデータが掲載されている。GyaOやYahoo!動画は、20歳代から60歳代まではネット動画サイト利用経験者中50%台から60%台前半の人が視聴したことがあると答えており、世代差が少ない。年齢層が高いほうが利用率が高い傾向さえ見られる。

 しかし、YouTubeとニコニコ動画は、若い世代の利用率が顕著に高い。20歳代のYouTubeの視聴経験者は87.9%、30歳代は84%、40歳代になると75.1%になり、50歳代になると57.7%とがくっと下がる。60歳代は34.5%である。ニコニコ動画はもっと世代差がある。20歳代の視聴経験者が40.1%なのに対し、30歳代では26.3%になり、40歳代は19.2%、50歳代11.1%と下がってきて、60歳代は7.5%になっている。

 それぞれのサイトの特徴を考えると、理解できる結果とも言えるが、40歳代でも4人に3人の動画サイト利用者がYouTubeを見たと答えているわけで、かなり浸透している。YouTubeでは、見逃したテレビ映像や、「よくそんな映像を保存していた」とびっくりするような懐かしい映像も見つかる。それぞれの世代が楽しみを見つけられるサイトだということもあって、こうした調査結果になっているのだろう。


●動画共有サイトの視聴頻度

 もっとも、視聴頻度には世代差がはっきりと現われている。gooリサーチの調査では、10代は26.5%がほぼ毎日動画共有サイトを見ており、半数近くが週に3-4回以上見ている。しかし、20代になると、毎日見ている人は半減し、週に3-4回以上見ている人も28%になってしまう。

 30代になるとさらに大きく減る。週に3-4回以上見ている割合は19.2%。けれども、30歳を過ぎるとそれほど世代差がなくなってしまうというのは、前回紹介した日経マーケット・アクセスの世代別の視聴頻度のデータと同じである(週に3-4回以上見ている人は40代が18.3%、50代が16.1%、60代以上でも17%)。


●名前だけ知っている人が多い中高年

 ただ、詳しいサービス内容まで知っている割合は、世代が上がるにつれて少なくなっていく。10代が61.4%、20代が41.4%、30代30.1%、40代24.3%、50代14.1%、60代以上6.2%という具合である。

 ところがおもしろいことに、サービス名を聞いたことがあるなど「少し知っていた」割合は、逆に年齢層が上がるほど多くなっている。年齢層が高くなると、新聞やテレビ、雑誌などのオールド・メディアの接触率が増える。こうしたメディアから情報を得ているためではないか。なかなか興味深い結果だが、いずれにしても「若者層」と一括りにすることはできなくて、30歳以下の若者層のあいだでもかなり大きな世代差があることがわかる。


●今後伸びる動画サイトは?

 今後も利用したい動画サイトは、前出の「ネット動画ビジネス市場調査2008」によれば、やはりYouTubeがトップの世代が多いが、ニコニコ動画は30歳代でトップ、20歳代と40歳代で2位、50歳代でも3位と高い。この調査が行なわれた2007年11月以降さらに伸びたことが推測される。

 実際、ニコニコ動画のID登録者数は、昨年7月に200万人を突破、9月に300万人、11月に400万人、1月に500万人、3月に600万人と2か月ごとに100万人ずつ増えている。再生回数も、昨年7月に10億回だったのが、今年の5月には50億回を超えたという。こうしたニコニコ動画の成長も要因となって、昨年1年間の動画共有サイトの伸びは大きい。ビデオリサーチのデータによれば、昨年1年間で、動画共有サイトにアクセスした推定人数は1.7倍、平均接触回数や平均滞在時間も倍増している。

 受動的に動画を見ている時代は終わり、簡単に参加できる動画ほど人気を呼ぶという傾向が、若い世代ほど顕著に見られる。前回書いたように、短期的には、ニュース動画の充実によって、中高年を含めた幅広い層の動画視聴が伸びていくと思われるが、長期的には、メディアとの接触のあり方自体が大きく変わっていくのだろう。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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