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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

グーグルゾンはやっぱり生まれる?――アマゾンや楽天に負けるGoogle

2008年4月14日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

●アマゾン化するGoogle

 メディアの近未来を描いたEPIC2014というフラッシュ・ムービーが2004年に作られ話題になった。2008年にアマゾンとGoogleが合併してグーグルゾンという会社ができ、ネット・メディアの支配的地位を占めるというストーリーだった。日本語の字幕付のバージョンもできている(このリンクをクリックすれば見ることができる)。
 EPIC2014によれば、今年がまさにグーグルゾンができる年というわけだ。今年かどうかはともかくとして、これまで書いてきた成果報酬型のネット広告の発展ということからみても、Googleとアマゾンがひとつになるというのは、かならずしも荒唐無稽とはいえないと思う。
 今回は、そうしたことを書いてみたい。

 成果報酬型広告の話は、広告関係者以外には興味を感じにくい話題かもしれないが、ネットにとってもメディアの今後にとっても、そしてまた経済全体にとっても大きな意味を持つものだと思う。今後取り上げる話のなかでも重要な要素なので、もう少しつきあっていただければ幸いだ。

 さて、商品の購入や会員登録、クレジットカードの登録、資料請求など具体的な成果につながる行動があったときにだけ広告費が発生するGoogleの始めた成果報酬型広告と、アマゾンや楽天がやっているアフィリエイト広告の違いは何だろうか。

 前に書いたように、アフィリエイト広告ではクリック課金はほとんど消滅し、アフィリエイト参加サイトへの報酬は歩合制に移行してしまった。そのためクリック課金をしている検索連動広告やコンテンツ連動広告と、アフィリエイト広告は違ったものに感じられる。
 しかし、GoogleがAdsenseと名づけてやっている検索連動広告やコンテンツ連動広告はアフィリエイトの一種である。さらにGoogleが昨年あらたに始めたCost Per Action(CPA)と呼ばれる成果報酬型のコンテンツ連動広告は、アマゾンや楽天のアフィリエイトにますます近い。CPA型広告もアフィリエイト広告も、参加サイトの広告がクリックされて商品の購入など具体的な成果があったときに広告費が発生するという意味では同じである。
 しかし、アマゾンや楽天のアフィリエイトとGoogleの始めたCPAには、わずかでありながらも、かなり決定的な違いもある。

 Googleは自分で商品を売っているわけではなく、広告の仕組みを提供しているにすぎない。また、Googleが始めたCPAは、これこれのアクションがあったときにいくら支払うといったぐあいに定額の支払いになっている。
 アクションによって支払いが決まるので、Googleはアクションまでは把握しなければならないが、詳細な販売データは必要ない。広告会社が広告主の詳細な売り上げデータを把握していないのと同じである。
 Googleは販売サイトに助言はするとしても、アクセスを売り上げにつなげようとするかどうかは広告主しだいだ。

 それに対し、アマゾンや楽天は、販売サイトやショッピング・モールだから販売データを把握している。アフィリエイトを売り上げへつなげる対処を自分でできる。そして、アフィリエイト広告を設置してくれたサイトには、売れた額に応じて報酬が支払われる。

●お客を呼びこんでから頑張る運営母体がやっている広告と、来てもらいっぱなしになる可能性もある完全成果報酬型広告

 プラットホームによってネット利用者の行動が変わってくるということは、ネットで一般に見られることではあるが、こうした運営母体の性格の違いは、広告主やサイト開設者に異なったモチベーションをもたらす。

 楽天市場に参加している各ショップやアマゾンは、アフィリエイト・サイトからのアクセスがあった後、それを売り上げにつなげようと努力する。
 アマゾンは、自分のところでコストをかけてシステムを作って維持しているわけだし、楽天市場に参加している各ショップも、システム使用料という形で毎月固定のコストを楽天に払っている。だから、売らなければ持ち出しになる。

 Googleの成果報酬型広告の広告主も、成果につなげなければメリットがないことには変わりはない。しかし、クリック課金のときとは違い、広告主には売り上げにつなげなければという切迫感がとぼしい。
 クリック課金のときには、クリックしてアクセスされた時点ですでに広告費が発生している。だから広告主は、アクセスを売り上げにつなげなければ経費ばかりかかることになってしまう。
 しかし、完全成果報酬型広告の場合はそうではない。広告主たちは、売り上げがあったときにのみ代価を払えばよい。コストをかけてシステムを作っているわけでもなく、アクセスを呼びこむのにお金がかかっていない。だから、余計な費用をかけてリスクを大きくするよりも、アクセスが少しでも成果につながってくれればそれでいい、と考えたとしても不思議はない。広告主があらかじめ自己負担していない完全成果報酬型の広告は、広告主のモチベーションが低くなりがちだ。

●商品をただ積んでいるだけの店舗

 こうしたことは、リアルな店舗の例で考えればよくわかる。
 あらかじめ広告費を払って広告を出している場合には、やってきたお客さんに買ってもらおうとお店の側は努力する。
 しかし、お客を呼びこむコストがかかっていなければ、店の改良などにお金をかけて気持ちよく買ってもらおうなどといった面倒なことはせず、商品をただボンと積んでおいて、やってきたお客さんたちがわずかでも買ってくれればそれでいい、と考える店も出てくる。

 実際のところ、リアルな店舗の場合には、開店までにお金がかかるし、維持するのもたいへんだ。だから、店を開いて放っておくということは考えにくい。しかし、サイトの場合は、安上がりにすまそうと思えば、開くのも維持するのもタダ同然でできる。だから、広告主の「売らなければならない」という切迫感は乏しくなる。

 これはGoogleのCPAにかぎらない。運営母体が商品の販売などを直接せず、楽天のように固定の費用の徴収もしていない完全成果報酬型のアフィリエイトについては同様のことが言える。

 広告を設置するサイト開設者としては、どうせ設置するなら、売り上げにつなげる努力を広告主がしてくれるほうを選ぼうとするのは当然である。
 
 もっとも、完全成果報酬型でも、呼びこんだアクセスを成果につなげられない広告主は、結局のところ淘汰はされるだろう。そうした広告主の広告は、アフィリエイト参加サイトで使ってもらえないからだ。Googleのようなネット広告では、広告主はお金を出して威張っていられる存在ではなくて、彼らの広告を設置してくれる広範なサイトによって選別される対象でもある。

 しかし、広告を選び掲載するサイトの運営者は、広告主の広告目的達成率(コンバージョン・レイト)よりも、歩合の高さに惹かれて広告を設置する場合も多いと思われる(たとえば歩合の高い順にランキングしている楽天のこのページなどはそうしたことを感じさせる)。

 Googleといえども、ただ漠然とCPA広告を導入したのでは、成果報酬型広告で蓄積のあるアマゾンなどのアフィリエイトを超えるのは、容易ではないはずだ。

●Googleが楽天に変貌する?

 こうした弱点を少しでもカバーするためには、Googleなどの成果報酬型広告の提供者も、販売データを把握できるように、課金や決済まで一貫した体制をととのえる必要が出てくる。
 楽天にしても、生産者や小売りを集めて課金や決済、販売の手助けをしているのだから、GoogleやYahoo!にだってできないはずはない。というよりも、Yahoo!はもうとっくにショップ・モールを作っている。米Googleもまた“Checkout”という課金・決済の仕組みをととのえている。
 成果報酬型広告の分野で勝ち残っていくためには、課金・決済の分野までカバーし、物販業、もしくは楽天市場のようなショップ・モールに近いビジネスにしていく必要があるだろう。
 Googleは、日本ではまだ課金・決済をやってはいないが、CPAは始めたことだし、そう遠くない時期に日本でも“Checkout”を始めるのではないか。

●「グーグルゾン」は、広告経済の発展から見てもあたっている

 このようにGoogleはすでに課金に乗りだし、一方アマゾンは、Googleが得意な検索を自前で作ろうと何年も前から苦心惨憺している。相手がそれぞれ強い分野に乗り出し始めているわけで、この2つの会社が競合する場面は少しずつ生まれている。今後こうした傾向が強まれば、いずれどちらかの会社が敗れて吸収合併されるか、あるいは、どうせ同じことをやるのならば合体し、双方の強みを活かそうと考えたとしてもおかしくはない。
 成果報酬型の広告が広告の主戦場のひとつになっていく未来の広告市場では、アマゾンとGoogleのビジネスは接近していく。その結果として、両社が合体してグーグルゾンが生まれるというのは意外なことではないだろう。

 エレクトリック・コマースもネット広告もまだまだ拡大を続けるだろうから、当分はいくつもの会社が共存できる余地があるとはいえ、Googleとアマゾン両社のどちらかに強力なライバルが出現し、その立場が脅かされるようなことになってきたときには、グーグルゾン誕生の選択肢が現実味を帯びてくることになる。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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