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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

計算や測定が可能なネットの世界――成果報酬型広告への移行

2008年3月26日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

●クリック課金は中途半端?

 検索キーワードやウェブページのコンテンツにあわせて表示される広告は、ユーザーの関心に即しているのでクリックされる確率が高く、広告効果が高いというのが「売り」だった。しかし、具体的な成果を求める広告主にとってほんとうの「広告効果」とはクリックされることではなくて、商品が売れたり、会員を集められたりすることだろう。

 そのように考えてみると、GoogleやYahoo!などがやっている、クリックによって広告費が発生するクリック課金(CPC: Cost per Click)は、かなり「中途半端」に思える。広告主のサイトに呼びこむというのもひとつの成果にはちがいないが、広告主の側から言えば、アクセスが具体的な利益につながるとはかぎらないからだ。
 ましてや、広告費の不正請求をねらうサイト開設者や、ライバル企業を蹴落とそうとする人々がインチキなクリックをしてクリック率を高めているという疑惑が生じ、それを払拭できないというのであればなおさらのことだ。

 またその一方で、クリックされなくても、広告文を見てもらった時点で認知度は上がっている。クリック課金では、それについては支払いを求められることはない。そういう意味でも「中途半端」である。つまり、アクションと成果、広告費の発生の関係がクリアではないのだ。

 従来の広告では、広告というのはそういうものだとかなりのところ思われていた。よく言われるように、出した広告のどれかが役に立ったことはわかっても、具体的にどの広告が効果を発揮したのかははっきりしない。程度の差はあれ、広告というのはそういうものだった。
 ところが、ネット広告の登場は、そうした「広告の常識」を一変させた。広告によって、どれぐらいクリックされたかが測定できるなど、広告効果がわかる、ということになった。
 しかし、物が売れたり会員登録されたりと、広告主の定めたターゲットがクリアされたときにのみ広告費が発生する成果報酬型(CPA: Cost per Action)の広告に比べると、クリック課金の広告効果はわかりにくい。
 ネット広告は、広告効果がわかるというのが売りだった以上、透明度のより高い広告技術が登場すれば、取って代わられることは避けられないだろう。

●計算可能な世界

 ただ、アクション課金(CPA) は、広告主にとっては都合がいいものの、サイト開設者にとってはかならずしもそうとはいえない。

 たとえば、クルマや家など高価なものは、サイトで簡単には売れない。
 だから、自動車会社や不動産会社は、サイトにアクセスしてもらって認知度を高めることをまず考える。
 ところが、こうした広告主もCPA広告にして、商品の購入を広告費支払いの条件にしてしまえば、広告費を払わずにアクセスを呼びこめる。

 もちろんCPA広告を運営している会社は、そんなことはわかっている。だから、グーグルなどは、CPA広告を導入できるのは、過去30日間に広告目的が500 回以上コンバージョン(達成)できた広告主だけに限定するなどの制約をもうけた。また、サイト開設者が、自分のサイトに設置するCPA広告を選べるようにした。ターゲットが途方もなくて広告収入を得られそうにない広告は、サイト開設者が設置せず、結果的に淘汰されるというわけだ。

 こうした「仕掛け」はあるものの、これまでのクリック課金に慣れているサイト開設者は、とりあえずCPA広告をいやがると考えられる。クリックされれば収入が得られたのに比べて、購入や会員登録などの具体的な成果を求められるCPAはハードルが高いからだ。
 少なくともしばらくのあいだGoogleなどは、サイト開設者がクリック課金(CPC)とアクション課金(CPA)の広告を選択できるようにしておくだろう。

 とはいえ、サイト開設者の損得ということについては、こういう考え方もある。
 クリック課金では、投資対効果がはっきりしないので、広告主は、それほど多くの報酬を支払う設定にすることはためらいがちだ。しかしCPA広告は、投資対効果がきちんと計算できる。成果のありなしのはっきりしないまぐれ当たり的なものではなくなるから、広告主は、サイト開設者が広告設置のインセンティヴを十分に感じとれるだけの報酬額を設定する気になる。
 CPAの導入は、広告を載せる媒体側であるサイト開設者にもメリットが感じられるものになるかもしれないのだ。

 また、こういうこともいえる。
 ハードルが高くなってサイト開設者が嫌がるということことは表示課金(CPM)からクリック課金(CPC)に移るときにもあった。
 ページヴューによって支払いが発生する表示課金(CPM)は、ページヴューが多いサイトは確実に収入が得られるものの、クリック課金になれば、同じだけの収入が得られるとはかぎらない。こうしたサイトの多くは、いまでも表示課金のバナー広告などを載せている。
 アクション課金(CPA)についてもとりあえず同じことが起きそうだが、はたしてほんとうにそうだろうか。

 クリック課金が広がったときには、ページヴューの多いサイトは表示課金を続け、それほどページヴューの多くないサイトが、もともと大した額の広告収入を得られていたわけではないこともあって、広告主にとって納得感のあるクリック課金を受け入れた。ページヴューの多いサイトとそうでないサイトで採用する広告が異なり、そのため従来の表示課金も生き残りやすかった。
 けれども、始まりだしたCPAへの移行は、まさにクリック課金を導入しているタイプのサイトも対象になるかもしれない。となると、もし本格的にCPAの導入が始まれば、クリック課金が消えるということも起こるのではないか。

●Googleが感じとったもの

 何だか思考実験めいた理屈っぽい話になってきた。
 しかし、こうした損得計算は、ネットの本質的な部分である。
 ネットでやりとりとされる情報はデータ化しやすく、損得計算もしやすい。
 ネットは計算や測定の可能な世界であり、リアルな世界のビジネスにあったつきあいや義理といったウェットな関係よりも、最終的にものをいうのは数式で示される損得である。それだけに、その損得計算が誰にも納得できるものであれば、変化はあっという間に起きる。ネットでスピードが加速されるのには、こうした理由もあるだろう。

 Googleは自分たちの使命について、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」ことだと言っている。「ネットの情報」ではなくて、「世界中の情報」が、彼らのビジネスの対象というわけだ。
 リアルな世界がネットに吸収されていけばいくほど、多くのものごとが計算可能、測定可能になっていき、数学の問題に還元されていく。
 Googleは、ハイウェイのかたわらや街角に数学の問題を書いた大きな看板を立て、その問題が解けた人を募集するといったことをやった。リアルな世界がますますネットと一体化していく未来は、何よりも数学がものをいう世界であることを他のどの企業よりも感じとっている。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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