アフィリエイト広告の起源――アフィリエイト広告の歴史(1)
2008年3月11日
(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら)
ウェブが立ち上がってまだまもないころ、カクテルパーティーでアマゾンのCEOジェフ・ベゾスはある女性に、「自分のサイトで離婚に関する本を売りたいんだけど」と話しかけられた。ベゾスは、彼女のサイトからアマゾンにリンクを張り、売れたらコミッションを払うようにすればいいと思いあたり、それでアフィリエイト広告を始めた‥‥
「アフィリエイトの起源」をめぐる神話のひとつにこうしたものがあるそうだ。
この神話は、‘History of Affiliate Marketing’という記事で紹介されている。
ClickZの2000年11月のこの記事によれば、当時アマゾンのアフィリエイトのFAQページには、1996年7月にアマゾンがネットで最初にアフィリエイト広告を始めたと書かれていたようだ。アマゾンは、アフィリエイト関係の特許を取得するためにもこうしたことを強調しておきたい事情があったのだろう。
しかし、この記事にも書かれているように、アマゾンがアフィリエイトを最初に始めたわけではない。アマゾン以前にすでにアフィリエイトの仕組みはあった。
先駆者の栄誉は、アマゾンではなく、アダルト・サイトにあたえられるべきで、Cybereroticsというサイトが、クリック課金のアフィリエイトを始めたか、少なくとも最初期グループのひとつだというのが広告関係者やアダルト業界のコンセンサスだとこの記事には書かれている。この名前のアダルト・サイトは現在もあるが、それがこの「ネット広告史に残る由緒正しいサイト」なのかどうかはわからない。しかしともかく、アダルト業界が新技術のイノベーターであることはたしかだろう。
米ウィキペディアの「Affiliate Marketing」の項目もClickZの記事を参考文献にあげながら、アダルトを除けば、クリック・スルー方式のアフィリエイトを最初にやったのはCDNowで、1994年11月にBuyWebというプログラムで始めたと書かれている。CDNowは、音楽出版社のGeffen Recordから、自分たちのサイトでCDを売りたいけれど独力ではできないので助けてくれないかと頼まれ、アフィリエイトの仕組みを思いついたのだそうだ。
アフィリエイトの起源にこだわるのは、ウェブ全体を自分たちの広告媒体にするというウェブを一変させる試みの先駆者であるからだ。
2月13日のエントリで書いたように、自分のサイトだけでなく、他のサイトをも巻きこんで、ウェブ全体を潜在的に自分たちの広告媒体にするという、Googleが多分に意識的に始めたと思われる発明は、彼らのオリジナルというわけではなかった。GoTo(現オーバーチュア)の検索連動広告を見て広告ビジネスに乗り出したGoogleが、さらにアフィリエイトの仕組みを取り入れることを思いついたというのは十分にありうることだろう。
ただ、アマゾンにしてもCDNowにしても、アフィリエイトを思いついたそのエピソードからは、「ウェブ全体を広告媒体化する」などという大それた発想は感じられない。カクテルパーティーで同席した女性や知りあいの音楽出版社など身近な人や企業の物販を助けるといったごく控えめな理由から始めている。
アマゾンが「アフィリエイトの創始者」ではないと言っているClickZの記事や米ウィキペディアの項目も、アフィリエイトがポピュラーになりビジネス誌などでも取り上げられるようになった功績がアマゾンにあることは認めている。
グーグルとともにアマゾンは、APIの公開も早かった。他のサイトでもアマゾンの商品データベースを使えるようにし、プログラマーたちが自分のサイトでアマゾンの本を検索し購入する仕組みを自由に作れるようにした。アフィリエイトの歴史とは、このように、「ウェブ全体を広告媒体やショーウィンドゥにする」ことに目覚めていく歴史にほかならない。
アマゾンは、当初はカクテルパーティーで話した女性を助けるためであったとしても、アフィリエイトの特許申請を行なったときにはもうこのようなことを強く意識し、特許をとっておく意味を十分に理解していたにちがいない。
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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
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