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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

ネット広告変化の兆し

2008年3月 4日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 2月20日、電通は、2007年の「日本の広告費」の推計を発表した。ネット広告は、これまで計上していなかった制作費を、マスコミ四媒体と同じく加えたために、一挙に金額が大きくなった(07年のネット広告媒体費が4591億円、制作費は1412億円で、合計6003億円)。
 05年分から算出し直したために、06年にはすでに雑誌広告を抜いていたことになり、07年には、新聞広告市場(9462億円)にも一挙に近づくことになった。

 ネット広告の伸びは落ちてはきているものの、06年が前年比27・8パーセントで、07年が24・4パーセント。この調子でいけば、3年ほどで新聞広告も抜いて、四大メディアで残るはテレビ広告だけということになる(新聞広告が横ばいでネット広告が毎年1200億、つまり20パーセント、16・7パーセント、14・3パーセントの伸びでそうなるのだからハードルは高くない)。
 ネット広告市場はいよいよ大きくなってきた。
 このデータによれば、日本で検索連動広告市場は1282億円で、ネット広告の媒体費の28パーセントにあたる。4割ほどのアメリカに比べれば低いが、前回書いたように、クリック課金型の検索連動広告は、このところのネット広告市場の勝敗を分ける存在になっている。

 しかし、そうしたネット広告のあり方に変化も起き始めている。変化の兆しとしては次の3つのようなことがあげられる。それぞれいずれまた詳しく取り上げることになるかもしれないが、とりあえず変化を生む動きを列挙しておこう。

①行動ターゲティング広告。

 ウェブ上でどういったウェブ・ページにアクセスしサービスを受けたり行動したかという履歴にしたがって広告を表示する仕組みで、日本でもYahoo!が採用したことで、注目されている。
 利用者の行動をより詳しく追えたほうが利用者の関心に沿った広告を表示できるので、他のサイトのサービスも含めて広範な連携を組みネットワーク化することが考えられている。
 マイクロソフトが是が非でもYahoo!を買収したいという気になった主要な理由である

②ペイ・パー・アクション広告(PPA広告)。

 クリック課金に替わって、購入やサービスの申し込みなど具体的な行動があったときに支払いが発生する成果報酬型広告。
 検索連動広告にしても、コンテンツ連動広告にしても、(一部表示回数による課金があるものの)クリック課金型である。検索連動広告がパワーを持つネット広告の時代というのは、クリック課金型広告の時代でもある。

 しかし、こうした広告の有効性は少しずつ揺らぎ始めた。
 クリック課金型広告は、従来のメディア広告とは違って、広告効果がわかるということで伸びた。別のところ(「ネット広告の近未来はどのようなものになる?」)で書いたことだが、その前提が崩れるとまではいえないにしても、揺らぐようだと、よりはっきりと広告効果がわかる成果報酬型の広告に移行していくことは避けられない。とくに物販をしている広告主などには、納得感が大きいだけに、こうした広告がより魅力的に感じられるはずだ。

 ただその原稿でも書いたように、サイト運営者は、成果報酬で広告収入がほんとうに得られるのか不安を感じ、積極的にこうした広告を導入しようとはしないかもしれない。
 PPA広告は、次回以降で書くアフィリエイト広告に近いので、それとあわせてまた取り上げたい。

③動画広告。

 調査会社のeMarketerによれば、ネット広告市場に占める検索広告の割合は、2006年の40.3パーセントが、2011年には39.5パーセントに微減するとのことだ。バナー広告も21.8パーセントから19.5パーセントへと減少するという。
 かわって動画広告などのリッチ・メディア広告が7.1パーセントから13.1パーセントへ伸びると予想している。
 しかし、動画広告の伸び率はこれぐらいのものなのだろうか。

 この数字は、現状の動画広告の延長で考えられているものではないか。
 たとえば、テレビ広告という形の動画広告へ投じられている資金が、どっとネットに移行してくるなどということは考えられていないのではないか。
 たしかに2011年では、こうしたことが起こるにはまだ少し早いかもしれない。
 広範な消費者に一挙に訴求でき、そのため相当な資金を投じることができるというテレビのような環境ができないとネット広告市場における動画広告のシェアが急増することはむずかしいと思われる。しかし、ネットの利用時間は増加しているし、しばしば散漫に見られているテレビとは比べものにならないぐらいに集中して見られているネットの広告効果は高い。
 そうしたこともあわせて考えれば、現状の検索連動広告やグーグルのAdsenseのような地味な3行広告を主要なネット広告と見る時代がいつまでも続くとは思えない。

 マイクロソフトのヤフー買収の動きに触発されて脱線して、いずれ書こうと思っていた今現在から少し先のことを書き始めてしまったが、次回は、もうひとつの「アメーバ型広告」であるアフィリエイト広告の話に戻りたい。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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