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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

「電話の交換局」がカギを握っている――マイクロソフトのYahoo!買収提案(2)

2008年2月26日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

 Googleの幹部が来日時の講演で、自分たちのやっている仕事は「電話の交換局と同じ」と言ったが、それは「控えめすぎる」と前に書いた。Googleのこの幹部は、電話の交換台に向かった女性オペーレーターの写真をスクリーンに映しだしてさらっとそう述べた。
 しかし、Googleのやっていることは、利用者が求めている相手につなぐ受動的な行為ではない。
 だから、「あんたたちのやっていることは、そんな地味な仕事ではないだろう」と思ったわけだが、実際のところGoogleの幹部は控えめなつもりで言ったどころか、自分たちの仕事がいかに重要で肝心カナメのものかを言いたかったのかもしれない。
 Yahoo!買収の動きに関するマイクロソフトの考え方を追ってみるとそんな感じがしてくる。

 検索の重要性は、いよいよ増している。動画や音楽のダウンロード、ECサイト、こうしたこれからますます伸びていくと思われる分野では、利用者が探しているものをすばやく適確に、また効果的に提示することがきわめて重要である。そのためには、すぐれた検索が必要だ。冒頭の例で言えば、どんなコンテンツの流通にあたっても、「電話の交換局」がカギを握っている。

 マイクロソフトのCEOスティーヴ・バルマーは、ウォールストリートジャーナルのインタビューで、Yahoo!の買収によって「一番実現したいのは、検索と広告におけるブレークスルー」で、「Googleが市場リーダーである理由は、彼らが幾つもの製品を持っているからではありません。検索と呼ばれる1つの製品分野でリーダーだからだ」と言っている。
 マイクロソフトに欠けているのは結局のところただひとつ、Googleに対抗できる検索エンジンで、自社でも開発しているものの、それでは十分でないと思ったからこそ、Yahoo!買収に突き進むことにしたということなのだろう。

 広告主たちにとって検索がいかに重要かは、データによっても示されている。
 Internet Advertising Bureauが明らかにしている「購入にあたって利用するサイトやサービスは何か」を尋ねた調査(PDFファイル p.16)では、専門家や消費者のレヴューや比較サイトをはるかに引き離して、検索がトップ・クラスの利用率である。女性はわずかに小売りサイト(66パーセント)が検索(63パーセント)より勝っているが、男性は、10パーセントの差をつけて検索を使うと答えた割合(68パーセント)が高い。

 米Yahoo!の置かれた状況を見ても、なぜ検索が重要なのかはわかる。
 昨年6月、Terry SemelがCEOの座を降りたさいのWired Visionの記事「なぜYahooはGoogleに『負けた』のか」は、米Yahoo!の「経営は混乱しているが、ファンダメンタルズは強固」だと強調している。
 もっとも、米Yahoo!はGoogleに比べて広告営業のコストがかかっており、利益が減っている。
 だから、ほんとうに「ファンダメンタルズが強固」かどうかはともかく、この記事でも触れられているように、Yahoo!のサイトでユーザーが過ごす時間などはGoogleよりもずっと多い(この記事でも引用されているCompeteの08年1月のデータでは、利用者の1回あたりの平均滞在時間は、Googleが7分弱なのに対し、Yahoo!は11分を超えている)。
 またCompeteのデータによれば、今年1月、米Yahoo!のサイトを訪れたのは1億3200万人で、Googleを500万人ほど上まわっている。前年からの伸び率も15・6パーセントで、16・6パーセントのGoogleよりは落ちるものの、まずまずだ。
 この記事の次のような指摘もそのとおりだろう。

「『Google』が提供するコミュニティー向けのサービスは、見た目は平凡でも実際には内容が格段に豊かな『Yahoo! Groups』と比べると、見劣りがする。ファイナンス、自動車、テレビなど、興味のあるトピックに応じてコンテンツやコミュニティーのサイトを築くことでは、Yahoo社はGoogle社よりもはるかにうまくやっている」

 とはいえ、GoogleはYahoo!の倍以上の売り上げだ(07年の売り上げは、Googleが160億ドル、Yahoo!が70億ドル)。伸び率も高く(Googleは前年比156パーセント、Yahoo!は8パーセント)、利益率も大きく引き離している(Googleの営業利益率31パーセントに対し、Yahoo!は10パーセント)。
 こうした落差がどうして生まれたのかといえば、それは結局のところ検索のできの違い、というのがマイクロソフトの幹部の見方のわけだ。

 マイクロソフトがこんどの買収にあたって出したプレスリリースによると、検索広告収入のシェアではGoogleが約75パーセントを占めているという。しかし、昨年12月のワールドワイドでのGoogleの検索シェアは62・4パーセントだ(ComScoreによる)。
 検索広告の収入のシェアは、検索シェアよりも高い。
 ほかのサービスがいくらよくできていても、検索のシェアによって業績の勝ち負けができ、さらに使われている検索の割合以上の収入をGoogleは得ているというわけだ。

 検索広告はネット広告市場全体の40パーセントほどだが、バルマーの言うとおり、検索によってネット広告の帰趨が決まるというのが、少なくともアメリカのいま現在のネット広告の情勢のようだ。
 こうした傾向は、ずっと続くのだろうか。変化の兆候も出てきたように思われる。
 次回はそうしたことについて書いてみたい。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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