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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『アルビン号の深海探検3D』:眼前に広がる神秘の深海世界

2009年9月14日

アルビン号の深海探検3D米ウッズホール海洋研究所所有の潜水艇「アルビン号」がとらえた深海の希少な3D実写映像で構成された科学ドキュメンタリー映画『アルビン号の深海探検3D』が、全国のワーナー・マイカル・シネマズほかで10月24日から公開される。9月上旬に実施された本作の関係者向け完成試写で鑑賞することができた。

海洋ドキュメンタリーによく登場するのはサンゴ礁に生息する色鮮やかな熱帯魚で、この映画の冒頭でもそうした浅海の魚たちが簡単に紹介される。ただし、彼らはあくまでも前座。主役は、メキシコ沖の東太平洋、水深3000メートルの深海底に広がる奇妙な地形と特殊な環境、そしてそこに生息する不思議な魅力に満ちた生物たちなのだ。

山本耕史によるナレーションは、案内役のアルビン号が観客の私たちに直接語りかけるという趣向。観客もまたアルビン号の目となって、地球最後のフロンティアである深く暗い海の底へと潜行する旅を体験することになる。

画面いっぱいにマリンスノーが漂うシーンで、早速3D映像の楽しさを味わうことができる。マリンスノーの個々の雪片(実際はプランクトンなどの死骸)が手前から奥の方までしっかりと距離感を伴って浮遊するファンタジックな海中の世界に、自ら身を置いているような感覚を覚えた(共同監督の和田郁夫氏によると、元の映像には雪片が過剰に写っていたので、見通しを良くするため背後の雪片を少し“間引く”処理を施したという)。

海底火山から流れ出て固まった枕状溶岩は、急速に冷やされた表面部分がガラス質になり、ライトを浴びて黒くキラキラと反射する。海底は思いのほか透明度が高く、アルビン号の強力な照明により、かなり遠くまで見通せる印象だ。

耳のように見えるヒレでゆっくりと飛ぶように泳ぐジュウモンジダコ(その姿から「ダンボ」という愛称で呼ばれる)など、ユニークな姿の生物たちを立体的に眺められるのも嬉しい。深海に噴出する熱水に群生するチューブワームは、1979年にアルビン号が発見したことで初めて世界に知られるようになった。体内に特殊なバクテリアを蓄え、熱水に含まれる猛毒の硫化水素から栄養を作り出すという。

このチューブワームには魚やカニなどの生物が集まり、コロニーを形成している。だが2005年から2006年にかけて、ここで海底火山が噴火して溶岩流が発生し、コロニーに壊滅的な打撃を与えた。映画では噴火前と噴火後の景観の変化を見せてくれる。以前の大きく育ったチューブワームたちは死滅してしまったが、新たな熱水の噴出孔が生まれたことで、その周辺にまた新しい命が芽吹いていることが示される。普段はまったく光の届かない深海の底で、こうした環境の激変と生命のドラマが展開しているというのはなかなか感動的だ。

上映時間は40分と短めなので、鑑賞料金も大人1300円、子供1000円と通常の3D映画より安く設定されている。なんでも最近は静かな深海ブームが来ているのだそうで、深海マニアにはもちろん、生き物が好きな親子での鑑賞もおすすめだ。ナレーションが目当てで足を運ぶ山本耕史ファンの女性たちにも、風変わりな生き物たちや神秘的な海底の光景を楽しんでもらえるのではないかと思う。

[公開情報]
『アルビン号の深海探検3D』
監督・脚本:和田郁夫、佐藤傑(すぐる)
ナレーション:山本耕史
協力:ウッズホール海洋研究所
製作:(株)国際メディア・コーポレーション
配給:さらい
公式サイト:http://www.alvin.jp/


深海関連の話題あれこれ

  • アルビン号については、ウッズホール海洋研究所のサイト内に設けられたセクションに詳しい情報がある。特におすすめは、Flashを使ったインタラクティブなコンテンツで、上部メニューで"IN THE FIELD"を、さらに下部メニューで"EXPLORING THE SEAFLOOR"を選択すると、映画にも登場するさまざまな海底生物の動画が閲覧できる。また、熱水噴出孔やコロニーの生物は、同研究所がアップした以下のYouTube動画でも紹介されている。


  • アルビン号のライバルと言えば日本の海洋研究開発機構の『しんかい6500』だが、TBS系で9月15日(火)19時50分から放送予定の『キミハ・ブレイク 飛び出せ!科学くんスペシャル』で中川翔子“しょこたん”がしんかい6500に乗り込み、青森県沖の海底5200メートルを探索するとのこと。9月14日(今夜)23:30の『飛び出せ!科学くん』でも少し紹介されるようだ。
  • 深海の地形や生物についてさらに詳しく知りたい方には、山賀進氏による火山分布のページと、Tsucchy氏による熱水生物群集のページがおすすめ。

[関連エントリ]
『深海の世界』Blu-ray版:ユメナマコやオオグチボヤなど、変な生き物を高画質で

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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