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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

身近になる3D映像:デジカメ、ホームシアター、ゲーム用ディスプレー…

2008年10月 1日

これまで3D映像といえば、裕福なハイテク好きやコアなゲーマーなどを除く一般的な消費者にとって、テーマパークのアトラクションや散発的に映画館で公開される映画など、たまに出かけていって目にする比較的疎遠な存在でした。ところが、ここ最近の内外のニュースで紹介されたさまざまな新技術や試作品を見聞きすると、これから2~3年のうちに一気に身近な存在になり、日常的に自宅や移動中でも楽しめるようになるのではないか、そんな感じがしてきます。今回はそうした3D映像関連の注目すべき話題を集めてみました。


富士フイルムの3Dデジタルカメラ

富士フイルムが9月24日に発表したデジタル映像システム『FUJIFILM FinePix Real 3D System』。3Dデジタルカメラ単体で3Dの静止画や動画を撮影し、背面の液晶モニターで表示できるほか、3Dデジタルフォトフレームでの表示や、3Dプリントへの印刷も可能。いずれもメガネを使わずに裸眼で鑑賞できるのが売りで、2009年中の製品化を目指すとのこと。

下はドイツのケルンで開催されたカメラ関連の展示会『photokina』に出品されたデモ機の動画。

当然ながら、普通のビデオカメラで撮影した動画では立体感がわからないのがもどかしい。本体はやや厚みがあるけど、十分コンパクトで楽に持ち運べそう。保存・記録用というよりは、コミュニケーションツールとして人気が出そうな気がしますね。仲間でわいわい言いながら一緒に見たり、プリクラ風のシールに印刷したり。

携帯電話向け小型3Dディスプレー

セイコーエプソンが8月に発表した高解像度3D液晶ディスプレー。対角2.57インチと小型で、携帯電話などのモバイル機器向け。小さな凸部が並ぶレンチキュラーレンズの改良により、自由な位置から裸眼で3D映像を鑑賞できるとのこと。こちらは2年後の実用化が目標。


メガネ不要のPCゲーム用3Dディスプレー

海外からもメガネ不要の3D表示技術の話題。『Sydney Morning Herald』紙の記事によると、オーストラリアのシドニーにある『Beyond Internet & Gaming』が9月上旬、同国のネットカフェとしては初めて(たぶん世界でも初めて)裸眼で3Dゲームを楽しめるディスプレーを導入したとのこと。ディスプレーの技術は「autostereoscopy」(自動立体視。レンチキュラーレンズ方式か視差バリア方式が一般的)で、店を経営する3D Motion社の親会社の中国3D Group社が供給。

導入された3Dディスプレーは10台で、『Call of Duty 2』『Counterstrike: Source』『Half Life 2: Deathmatch』『Need for Speed』『Unreal Tournament』『World of Warcraft』などがプレイ可能。Game Development Kit(GDK)を使い、プレイ中のゲーム画像を瞬時に3D形式に変換するのだとか。3D Motion社は、ネットカフェでの利用状況から需要を見極めたうえで、このディスプレーを一般販売する計画。


パナソニックの3Dホームシアター

個人的にはこれが一番楽しみな、パナソニックの「3D フルHD プラズマ・シアターシステム」。プラズマディスプレーと、ブルーレイ(ディスク+プレーヤー)、アクティブシャッター方式のメガネを組み合わせたもので、幕張メッセで9月30日~10月4日開催の『CEATEC JAPAN 2008』に出展されます。

プレスリリースに「ハリウッドの映画会社やBlu-ray Disc Association(BDA)加盟の民生機器メーカーなどと協議の上、BDAで3D表示フォーマットの規格化を図り、3Dシステムの普及に努めてまいります」とあるように、ハリウッド映画の3Dコンテンツをパッケージ化できるかどうかは死活問題なので、技術的には完成していても、映画会社やメーカー各社と合意のうえ規格化を果たしてから製品化という流れでしょう。同社はホームシアター用プロジェクターも販売しているので、3D対応のプロジェクターもぜひ開発してもらいたいものです。


3D映像向けフォーマットの動向

米国でも家庭向け3D映像に関して動きがいくつかあって、まず、映画テレビ技術者協会(SMPTE)が8月に『3-D Home Display Formats Task Force』を設置。同タスクフォースは、放送/ケーブル/衛星/パッケージメディア/インターネットを介してテレビやパソコンモニターに配信される3Dコンテンツ用に策定が必要な規格を検討し、6ヵ月後のレポート作成を経て、規格化に向けた取り組みを進めるとのこと。

もう1つは、米TDVision Systems社の独自の3D映像規格『TDVCodec』を採用したブルーレイディスクのパッケージが、MagicPlay Entertainment社から年内に15タイトル発売されるというニュース。MagicPlay社のタイトルはテーマパーク向けに販売している「3Dライド」という微妙なシリーズなのだけど、気になるのは、TDVision社のCEOが『Play3-Live.com』の取材に応えて、PS3でもファームウェア変更だけで同規格のディスクを再生できるようになると発言していること。

TDVision社もブルーレイ用3D規格としてのTDVCodecの標準化に向けてロビー活動を行っているらしく、仮にソニーがこれを支持するという事態になれば、パナソニックの開発した規格と対立、またもや規格戦争……なんてことになりかねない。それは当然避けてほしいところだけど、ファーム更新だけでPS3が3D対応になるっていう話はちょっと魅力的。もちろんディスプレーは別途用意する必要があるけれど、米国で販売されているサムスン電子/三菱/Kerner/TDVisor/ヒュンダイ製の3D映像対応製品を接続すると表示できるらしい。

ちなみに、これらよりも前世代の3D映像技術にあたるアナグリフ方式(赤青メガネを使うやつ)を採用したブルーレイのパッケージはすでに登場していて、8月に発売されたアイドルのコンサート映画『Hannah Montana/Miley Cyrus: Best of Both Worlds Concert: The 3-D Movie』がそう。これは現行のBDプレーヤーと普通のテレビで視聴できる代わり、画質は劣ります。


日本でのブレイクは2010年?

最後に米国での3D映画の状況に触れておきます。『MarketSaw』によると昨秋の『ベオウルフ』以降から今夏までに公開された3D映画は5本。リンク先記事が掲載された8月25日時点での世界興収は、トップの『ベオウルフ』の約2億ドルに対し、『センター・オブ・ジ・アース』が約1億1000万ドルだったのが、1ヵ月後の9月25日には約1億4000万ドルまで接近(参考)。一般映画を含む2008年米国公開作品の興収ランキングでも、『センター~』は現在150作品中18位となかなかの好位置。また、先に挙げた『Hannah Montana~』は、公開初週の館平均売上で『ダークナイト』さえもしのぐなど、3D映画も一般映画のヒット作に負けないくらい客を呼べる映画になってきたことがうかがえます。

それでも、2008年公開の3D映画は6本なのに、2009年はなんと20本に急増。米国では「2009年は3D元年」とも言われていますが、ハリウッド映画は通常数ヵ月から半年程度遅れて日本で公開されること、今回取り上げたさまざまな新技術や試作品の製品化が早くても来年後半以降になりそうなことを考え合わせると、米国の1年遅れで2010年あたりに3D映像が一気に普及するのかも(ガジェットやホームシアター関連は米国に先行する可能性もあるとはいえ)。家庭や街中や電車の中など、あちこちで3D映像を見かけるようになり、別に珍しくもなくなる……そんな時代が意外に近いのかもしれません。

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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