『ロックドリルの世界』(2):音楽担当の安西史孝氏に聞く
2009年7月22日
『ロックドリルの世界 地底世界の超機械巨神』で音楽を担当した安西史孝氏に、メールによるインタビューで本作についてコメントをいただいた。
――本作で使用された音楽がどのように選ばれたのかについて教えてください。また、通常のアニメ作品などとの音楽の使い方に違いはありましたか?
今回、私は楽曲の提供をしたのみで、選曲には関与しませんでした。選曲は樋口さんと田口さんが行っています。なので、私もコメンタリートラックの収録に行くまで、音楽がどのように使用されたのか全く知りませんでした。
普通、アニメ作品では音楽の選曲と効果音の付加は音響監督が行いますが、今回はこの音響監督がいませんでした。その結果、シーンの変わり目なども効果音ではなく音楽のアクセントが使われています。
例えばオープニングシーンでタイトル名が出るシーンは、通常のアニメであれば「バシーン」と言った効果音が当てられます。このような音をタッチと呼んでいますが、アニメの仕事ではシーンの変わり目に音楽のアクセントが来るように作曲しても、99%はこのタッチによって妨害されてしまい、過去、自分の意図通りにシーンの変わり目の音楽が生かされた事はほとんどありませんでしたが、今回はタッチを付ける人がいませんから、音楽が100%「生き」になりました。
今回の DVD は、恐らくアニメファンの人も見るのではないか?と思いますが、そういった効果音のない、音楽優先の音付けという事を意識して見てみると、また違った楽しみ方が出来るかもしません。
なお、使用された楽曲のソースは以下の通りです。
- Kyrie : Canto Cybernetico (ソロアルバム第一弾)
- Exclusive Sequences (ソロアルバム第二弾)
- Mission Asteroid (ソロアルバム第三弾)
- FireStorm based on Gerry Anderson から(テレビ番組用に書いたサントラ)
3の Mission Asteroid は元祖アドベンチャーゲームの自主イメージアルバムです(笑)。
――副音声解説を収録したときの様子について聞かせていただけますか。
前の回答で書いたように、私は自分の音楽がどのように使われているか知らなかったので、コメンタリートラックを収録しながら初めて使用曲を聞きました。なので使用されている kyrie の曲のウンチクを思わず語ってしまい、ヒトコト言いたい奴になってしまいました。
また収録用のスタジオ内ビデオモニターは小型で表示されるテキストが潰れて違う文字に見えてしまうのが面白くて、しゃべりの中でその話をしたんですが、その状況を知らないでコメンタリートラックを聞いた人は「こいつバカなんじゃない?」とか思われるんじゃないか心配です。
さらにビデオを初見で見ただけでは伝わりにくい部分を監督がその場で身振り手振りで説明しているので、それが見えない視聴者は私たちが意味もなく「あ~なるほど」みたいに納得しているのは、裏にそういう動きがあるからです。
――シンセサイザーとロックドリル、大きさはずいぶん違いますがメカニックなものへのフェティッシュ的な嗜好という点では通じるものがありましたか? 安西さんご自身は本作で取り上げられた「ロックドリルの世界」をどんな風にご覧になったでしょうか。
私がシンセサイザーを使うようになったのも、ランプとメーターが沢山ついているのが好きだったからで(笑)、そういった意味ではロックドリルは非常に面白かったですね。特に実際の現場で使われている機械というのは、不要な飾りがなく、各々のスイッチやランプ等に意味があり、その配置も作業に適したように並んでいるわけで、そう言った快感というのは感ぜざるを得ません。
SF マニアの他にも、機械マニア、ツマミマニア等々の方は要チェックです!
――安西さんからワイアード読者へのメッセージとして、本作品の魅力、見所を教えてください。
今回、音楽の仕事の話になったのは、2月に発売した TPO1 の再発がキッカケでした。アルバム再発をプロデュースした田中さんが、樋口さんと知り合いで...というつながりなんですが、実は私は樋口さんと TPO1 レコーディング前後にお会いしている事が発覚しました。樋口さんはオネアミスの翼に関わっていたそうなんですが、オネアミスのサントラは TPO にも話が来ていて、私と天野氏が打ち合わせに参加しています。その関係で樋口さんとスタジオですれ違っていたそうです。世の中、どんなキッカケが後の仕事に結びつくか分かりません。
ビデオについては「本物は違うな~!」という一言に尽きます。
例えば樋口さんも言っていますが、ドリルのアームが動く時にワイヤーに被せられているチューブからザバザバっと水が流れ落ちるシーンがあります。こういったシーンを映画用に CG で作った場合「ここ、なんで水が流れるの?」なんて疑問が出たりすると思います。でも、今回のビデオでは本物の機械から水が流れ落ちてるわけで、これはもう説明がどうのじゃなくて、実際に使われている機械はそうなんだから、という言葉以外ないわけで、事実よりも強い物はないよなあ、と強く思いました。
同様に機械の揺れや汚れや反射等、これが CG で再現できるようになるのは、まだ先なんだろうなあと感ぜざるをえませんでした。私は多少の見てくれの問題はあっても SF の機械類は CG よりミニチュア特撮の方が好きな人間なので、ますますそういった思いが強いのかもしれませんが...
今回のビデオは、日常全く意識せずに通過しているトンネルなのに、普通の人はそれが何時、どうやって作られたかは全く知らないわけで、それが解説されるビデオというのは貴重だと思います。それもタレントとか出てこないでひたすら機械を追い続ける、というのはアメリカのディスカバリーチャンネルっぽくて Good です!
って言うか、これディスカバリーチャンネルに売り込めばいいのに!(実は売り込めないかと思ってディスカバリーチャンネルのサイトをウロウロしてみたんだけど、メールのボタンが発見できなかったのでした)
[以下は『ロックドリルの世界 地底世界の超機械巨神』に使用された曲の動画。いずれも「安西氏のYouTubeチャンネルより。]
[関連エントリ]
・安西史孝氏インタビュー:電子音楽史に残る“幻の名盤”『TPO1』が25年ぶりに再発
・聴覚の錯覚:「無限音階」や「無音部が作るメロディー」など
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