聴覚の錯覚:「無限音階」や「無音部が作るメロディー」など
2008年12月 7日
最近の翻訳記事で、「錯視の世界コンテスト」や「エニグマ錯視」を取り上げたところ、作曲家でキーボード奏者の安西史孝氏より、「音のイリュージョンはご存知ですか?」というメールを編集部宛にいただきました。そこで今回は、聴覚の錯覚(auditory illusion)あるいは「錯聴」の例をいくつか紹介することにします。
スケール(音階)の錯覚
まずは安西氏から教えていただいた、同氏の作成による動画をご覧ください。音声はステレオ環境で聴く必要があります。
(冒頭はステレオスピーカー/ヘッドホンと通信状態のチェックなので、これらに問題がなければ1分17秒から再生を始めても大丈夫。)
Deutsch's Scale Illusion
この現象を最初に発表したのは、聴覚の錯覚の権威として知られるカリフォルニア大学サンディエゴ校のDiana Deutsch教授。動画中の楽譜を見ると分かると思いますが、上がって下がる「山型の音階」と、下がって上がる「谷型の音階」という対称的な音列のペアを用意し、一音ずつ入れ替えた音列を左右のトラックに振り分ける。これをステレオで聴くと、入れ替える前の音階が左右から聞こえる、というものです。
(安西氏に感謝。同氏はYouTubeに自身のチャンネルを設けていて、この動画もその中の1つ。)
また、Wikipediaの「Deutsch's scale illusion」の項によると、右利きと左利きの人で聞こえ方が異なる場合があるそうです。ただし僕自身は左利きですが、左から山型の音階、右から谷型の音階という、楽譜通りの(右利きの人と同じ)聞こえ方でした。さらに、ヘッドホンの左右を変えた時の聞こえ方も個人差があるようで、これも自分で試したところ、左右入れ替えてもやはり左から山型の音階(つまり、替える前と一緒)が聞こえてきました。けっこう不思議。
無限音階(Shepard tone)
これはわりと有名で、どこかで聴いたことがある、という人も多いのでは。
Shepard Tone (下降パターン)
Amazing AUDIO illusion
(上昇パターン。一度再生が終わったらすぐリプレイしてください)
これの仕掛けを簡単に説明すると、たとえば下降パターンの場合、下がっていく特定の音のレベルを徐々に下げ、それと同時に1オクターブ上の音のレベルを徐々に上げながら重ねて入れ替える、ということのようです。
Wikipediaの「Shepard tone」の項にさらに詳しい説明あり。このページには、音楽作品に使われた例として、クイーンやピンクフロイドの楽曲、『スーパーマリオ64』のゲームBGMなどが挙がっています。
無音部が作るメロディー
九州大学芸術工学部の中島研究室ホームページ(聴覚心理学)で知りました。このリンク先に、サンプルの音声ファイル(三角の再生ボタンを押してください)と、周波数・時間のグラフがあります。
これは『フレール・ジャック』という民謡のメロディーを構成する7つの音を鳴らしっぱなしにして、部分部分を無音にすることで、逆にその無音部分がメロディーとして聞こえてくるという現象。
同研究室には聴覚の錯覚に関する専門的な説明やデモンストレーション集などがあって充実しているので、興味のある方はぜひ。
このほか、Wikipediaの「Auditory illusion」の項や、NTTコミュニケーション科学基礎研究所による『Illusion Forum』内の「空耳―聴覚の錯覚」と「錯視と空耳のアナロジー」もおすすめです。
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