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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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NZ発の個人用ジェットパック、最新動画:飛行制御が改善、1000万円で年内発売か

2009年5月10日


ニュージーランドのMartin Aircraft社が昨年7月に発表した個人用ジェットパック『Martin Jetpack』。当時公開された動画では常に数人のスタッフが至近距離でサポートしていて、コントロールに不安がある様子がうかがわれたが、先月新たに公開された上の動画ではサポート要員もなく非常に安定した飛行(どちらかと言えばホバリングに近いが)を見せ、パイロットが思い通りに操縦できているようだ。

同社はまず米国での発売を目指しており、すでに米連邦航空局(FAA)から「超軽量航空機」(免許不要)としての認可を取得。米国向けの情報サイトも立ち上げており、販売価格が10万ドル、最初の顧客への納入予定が今年後半、購入予約者はデポジット1万ドルを払って5日程度の飛行訓練を受けることなどを説明している。

技術情報のページによると、縦横高さがいずれも約1.5メートル、総重量が約240キログラム。5ガロン(約19リットル)のガソリンを積載し、FAA規定の速度上限である時速102キロで飛ぶ場合、航続距離は約50キロメートルになるという。

エンジンの構造を見ると、ジェットというよりダクテッドファンに近いようだ。Wikipediaのジェットエンジンの項には『英語と日本語では「ジェットエンジン」のニュアンスが異なる…[中略]…英語において「JET」とは「噴射、噴流」という意味』とあるものの、英語圏でも「ジェットパック」という名称に違和感を抱く人はいるようで、たとえば『OhGizmo!』の記事ではわざわざ「Martin Jetpack Ducted Fanpack」と呼び変えている。

おそらくMartin Aircraft社も「ジェットじゃないじゃん」的な声を聞いているようで、FAQのページにて、「科学ではジェットを『平行な方向に移動する粒子の一貫した流れ』と説明している。だから、『ジェット気流』や『ジェットスキー』や『ジェットボート』などにジェットという言葉が使われている。当社の装置も一貫した空気の流れを生むのだから、ジェットパックと呼ぶのだ」(大意)と主張している。

約2400メートルの高度まで上昇できるとしているが、安全面が気になるところ。製品版には米Ballistic Recovery Systems社製のバリスティック・パラシュート(瞬時にパラシュートを射出し、装置全体を軟着陸させる)を搭載し、かなり低い高度でも機能すると説明している。それでも、高度10メートルか20メートルあたりで突然エンジンが止まったりしたら、パラシュートが開いて落下にブレーキがかかるより先に地面に激突しそうだが……。

動画の試作版がせいぜい1~2メートルしか上昇していないのは、まだパラシュートなどの安全対策が十分に進んでいないせいだろう。とはいえ、ガレージの中でおそるおそる飛ばしている雰囲気が、映画『アイアンマン』でのパワードスーツ開発のワンシーンを思い出させ、架空のSF技術が現実の製品になる過程を目撃しているような感慨も覚える。

英語版Wikipediaの「Jet pack」の項には、1920年代からSFでジェットパックが登場するようになり、第2次大戦中にはドイツが研究していたこと、60年代には米軍などで実際に開発が始まったことなどが書かれていて興味深い。映画での登場例も多数挙がっているが(『ロケッティア』、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』のボバ・フェット、『マイノリティ・リポート』など)、個人的に初めて目にしたのはテレビで放映された『007 サンダーボール作戦』だったと思う。それから、1984年のロサンゼルスオリンピックの開会式で飛んだ「ロケットマン」も印象的だった。


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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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