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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『アイアンマン』:ギークな要素を総チェック(2)

2008年9月22日

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(1から続く)

ホログラフィック・3Dインターフェース

トニーがアーマーの腕の部分を設計しているときに、PC上で描いた3Dのデザインをホログラムで浮かび上がらせ、その中に腕を入れてホログラムを動かすシーンがある。ホログラムについては、当ブログの『「スター・ウォーズの空想科学」ワイアード編』でも開発の例を挙げたが、まだ3D映像を表示するのが精一杯で、ホログラムをインタラクティブに操作できるインターフェースはまだ当分先になりそう。

ただし、ホログラムっぽく空中に映し出された2D映像を操作できる『マイノリティ・リポート』風のインターフェースについてはこちらの記事で紹介した。

超小型の音響兵器

映画の中盤で正体を現す「敵」が使う、ライター大のデバイス。これを相手の耳元で作動させると、相手は鼓膜が破れるのか両耳から血を流し、しばらくの間身動きがとれなくなる。ワイアードの読者ならすぐ、これに近い音響兵器がすでに開発され、いくつかの国で敵対勢力の制圧や警備の目的で使用されていることを思い出すだろう。ただ、これらの現実の兵器は不快な高周波などで相手を撃退するというものなので、それよりは現在研究段階の「マイクロ波で脳内に音を発生させる兵器」のほうが映画のデバイスに近いだろうか。

なお、これを使う人物は、自分自身への害を防ぐため耳栓タイプの青く光る装置を装着している。これはおそらく、アクティブ・ノイズ・キャンセリング技術を応用し、有害な超音波のキャンセルに特化したイヤピースだろう。同技術は雑音をマイクで拾って、その音と逆相になる音の成分を加えることで雑音を低減するもので、これを使ったヘッドホンは米BOSE製が先駆的存在だが、今では日本企業も含む多くのメーカーから出ている。

人工知能、ロボットアシスタントと、ILMによる洗練されたCG

このほか、トニーのアイアンマン製作をサポートする存在として、人工知能の「ジャービス」や、トニーの指示に忠実に反応するロボットアーム(トニーとのコントっぽいやり取りがいい味)も活躍するが、これらはSF的な要素の入った映画ではさほど目新しくもないので、ここでは割愛。ただし、完成した「マークIII」の各パーツが、トニーの体をすっぽりと包むかたちでロボットアームにより次々に組み立てられて、ついに最終形のアイアンマンが姿を見せるシーンは、この映画のハイライトの1つなのでお楽しみに。

CGを担当したのは米Industrial Light & Magic(ILM)社。機械のパーツがカチャカチャとめまぐるしく動いて形が変わっていく様子は、やはりILM社が手がけた『トランスフォーマー』(マイケル・ベイ監督、2007年)に似ているが、俳優など実写部分との自然なとけ込み具合はさらに進歩している。

まとめと、ささやかなおまけ

先の記事で物理学者のKakalios氏が指摘したように、『アイアンマン』は他のアメコミ・スーパーヒーロー物に比べ、超自然の存在や偶然の出来事に頼らず、主人公が工学の才能と“現実的な”(将来実現するかもしれない)技術でスーパーパワーを獲得するという設定が特徴になっている。それがこの映画の大きな魅力になっているし、観る人によっては、敵との派手なバトルシーンより、トニーが3体のパワードスーツを作っていく過程の方に面白さを感じるかもしれない。

別のワイアード記事、映画『アイアンマン』の起源:実在した米国富豪と「軍産複合体」は、ハワード・ヒューズがトニー・スタークのモデルになったと書いている。このように米国の近現代をわかりやすく設定に反映させた点も、主人公がまるで現在のアメリカで生きているかのようなリアルさを演出するのに貢献している。ちなみに、トニーの父親で、Stark Industries社の創業者の名前はハワード・スターク。親切すぎるほどにわかりやすい。

やはり今年公開されたアメコミ映画『ダークナイト』『インクレディブル・ハルク』とのからみで付け加えると、「正義の担い手が生み出す悪」あるいは「正義と悪の共存関係」という、この数年ハリウッド映画や一部のゲーム(参考記事「敵は「自分」かもしれない――ゲーム『Blacksite: Area 51』レビュー」)で顕著になっているテーマが、やはり『アイアンマン』にもみられる。ただ、そうした現代の米国が抱える苦悩に触れながらも、先の2本の映画に比べると圧倒的に明るい。紋切り型の勧善懲悪ではもちろんないのだが、米国の苦悩をパロディの対象にする気楽さがある。『ダークナイト』は確かに傑作だと思うが、鑑賞後にずしんと残る重苦しさがあり、それが本国ほど日本でヒットしなかった理由なのかもしれない。

最後のおまけに、ワイアード読者にちょっと嬉しいトリビア。といっても映画ではかなり早い時間帯に登場するのだけど、とある授賞式の舞台でトニーの経歴を紹介する短い映像が映し出される。この中で、実在する雑誌の表紙を飾ったトニーの画像(もちろん合成)が数点挿入されるのだが、そのトップに出るのがなんと『WIRED』。ネットで探したら、GAWKERが画像入りで紹介していた。リンク先ページの右側の画像が本物のWIRED誌(2008年1月号)で、左が映画に使われたモックアップ。映画で映るのはほんの一瞬なので見落とさないように。


『アイアンマン』
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
9月27日(土)より日劇3ほか全国ロードショー
公式サイト:http://www.ironman-movie.jp


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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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