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白田秀彰の「現実デバッグ」

社会システムのコーディングし直しを考えてみる。

No. 13 アナキズム批判 その2

2008年2月13日

(これまでの 白田秀彰の「現実デバッグ」はこちら。

で、そうしたアナキズムを批判する私はどうかといえば「政府がとてもスキ♥」「政府...ラヴ!」です。ただし条件があって「まっとうな政府」がスキです。

まっとうな政府というものは、私──「私」の集合体としての「我々」の支配下にある政府だ。民主制における正当な政府は、その政府を設立した人々の一般的(理性的)合意の下に設立され、その政府に服する人々の自由・生命・財産を効果的に保障するために最善を尽くすはず。というか、近代的民主制において政府はそういうタテマエで設立されており、そのタテマエが成立している限り、我々に対して強制的統治を行う正当性を持っている。

そして、もし政府が我々の自由・生命・財産の効果的な保障に失敗しているのなら、我々は、遠慮なく政府を取り替えるべきなのだ。ここで、すこし前の世の中のように、内乱とか革命とか起こされると、人がたくさん死んだりしてエラく困ったことが生じるので、憲法に従って、粛々と選挙によって政府を構成する人間を交換し、新しい「まっとうな政府」を設立することになっている。幸いなことに日本国の憲法には、そのための手順がはっきりと書かれているし、制度的に政権交代が可能なことになっている。──まあ、ここ数十年、あまり変わり栄えはしませんけどね。

さて、そうした仕組みがあるにもかかわらず、「日本国政府は嘘つきで信用ならない」というのは、主権者の一人として怠慢であるにもかかわらず、文句タラタラという実に情けない人であることになる。加えて、一昔前ならそうした文句や愚痴は、赤提灯やら居酒屋やらで酒の勢いで発散するしか手がなかった、という庶民的現実もあるわけだが、いまなら、ネットワークがあるから少しはマシだろう。

これほど我々の意思が簡単に表明できるメディアができているのに、なんらかの積極的な政治的方向性が世の中に提示できないのは、我々の落ち度だと思うし、そういうメディア環境においてリーダーシップを発揮できる同胞が誰もいないのなら、我々の共同体は、この世代において滅びてしまっても仕方がないのだと思うんだが、みなさまいかがお考えですか? ... どうでもいいですか。今期のアニメやドラマの物語のゆくえのほうが大事ですか。そうですか....

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プロフィール

1968年生まれ。法政大学社会学部准教授。専門は情報法、知的財産権法。著書にHotwired Japan連載をまとめた『インターネットの法と慣習』などがある。MIAU発起人。HPは、こちら

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