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白田秀彰の「現実デバッグ」

社会システムのコーディングし直しを考えてみる。

No. 12 アナキズム批判 その1

2008年2月 6日

(これまでの 白田秀彰の「現実デバッグ」はこちら。

ここまで、立法、行政、司法という三権が、インターネットとコンピュータが存在する環境において、どのように運営されるだろうか、というようなことを妄想として語ってきた。で、ほんとうにまったく反応がない。誉められないことは当然として、批判もされない。せめて「白田はバカだ」くらいの反応があってもいいくらい、バカなことを書いているつもりなのだが。私がバカであることは、もしかして、言及の必要もないほど自明のことになっているのだろうか。

さて、今回はちょっとわき道に入って、最近気がついた政府に関する通念を批判したいと思う。もしかすると、この連載がまったく無視されている背景には、政府やこれをめぐる制度について議論すること自体がバカバカしい、と思われていることがあるかもしれない、と思ったからだ。

私は、インターネット環境において、著作権に関連してやり取りされる金銭の徴収と配分をめぐる、いかんともし難い複雑さと非効率を解決する方法として、政府を用いることを提案している。

第一には、市場経済に依存する現在の著作物流通を効率化するための補助的制度として、政府が運営する電子的な小額決済制度を整備すること。すなわち、政府は早くインターネット環境での通貨発行をせよ、と私は言っている。いまのところ電子通貨や電子決済は、民間企業が参入している分野だが、通貨の一般性と政府による経済政策能力を維持するためには、私は、政府が電子通貨についても一元的に管理したほうがいいと思ってる。もちろん、そう思わない人もたくさんいることは承知している。

第二には、インターネット環境においては、情報の自由流通を最大限に加速することが、全体としての利益に適う、という原理論を基礎にして、著作物に関連してやり取りされる金銭について、税あるいは課徴金として政府が薄く広く徴収し、支払者の支払先指定とその割合の指示に従って、そのお金を創作者に配分する制度を、私は提案しようとしている(部分的には あちこちで語っているけど)。この制度の利点については、いつか書くだろう論文で明らかにしたいと思っている。(いつになるやら)

なぜ「政府」なのかと問われれば、この問題について「市場」が機能する前提が欠けているか、または市場的解決が非効率なほど複雑になると、私は考えているからだ。市場が機能しない領域でのサービスは、政府によって担われるほかない。

ところが、上記の二つの提案について、おおよそ一般的に聞こえてくる批判は、「政府は信用できないからそういうことをさせるべきではない」「政府は非効率だからそういうことをさせるべきではない」というようなものだ。政府はよほど嫌われているらしい。ある程度頭の良い人たちは、大抵の場合、今の政府が大嫌いで信用ならないと言う。でも、ほかに統治を担わせるに値する人たちもいないとも嘆く。ということは、原則として、みなさんはアナキスト(無政府主義者)っぽいと言えるだろう。社会の知的な人々が、ほとんどアナキストという日本国は一体どうなってるんだろう。

一般の人々は、ちゃんとした一流民間企業とか、なんだか偉そうな国際機関とか、名前がカッコイイ国際連合とかを信用しているようだ。ときどき、アメリカ合衆国政府や中華人民共和国政府といった我々のものではない政府の方を信頼している人がいたりして、「おい、お前本気か?」と思ったりする。

で、それらさえも信頼できないというのであれば、いったい誰(何)を信頼して生きているのか、ちょっとメールで私に教えてもらいたい。たぶん「自分以外誰も信頼できない」という人は、ヒキコモってるんだろうと思う。自分ですら信頼できなくなったら、この世からオサラバするのかな。

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プロフィール

1968年生まれ。法政大学社会学部准教授。専門は情報法、知的財産権法。著書にHotwired Japan連載をまとめた『インターネットの法と慣習』などがある。MIAU発起人。HPは、こちら

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