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白田秀彰の「現実デバッグ」

社会システムのコーディングし直しを考えてみる。

最終回 暇申 その2

2008年5月 7日

(これまでの 白田秀彰の「現実デバッグ」はこちら。

突然だが、「現実デバッグ」が打ち切られることになった。まだまだ法や制度に関連した諸事諸物について、語っていくつもりだったので、残念ではある。この連載を楽しみにしていたような奇特な読者がいたのだとしたら、お詫び申し上げたい。先の「網言録」に比較すれば、アクセス数を稼げていたとはいえ、WIRED VISION全体の雰囲気からすると、相変わらず異質であったことは、私も否定できないので、江坂編集長から遠慮がち かつ丁寧な打ち切りの連絡があったときも、特段驚きはしなかった。むしろ、編集部の大幅な刷新の話を聞いたほうが驚いた。

連載は、前半と後半に分けられる。前半はなんとかWIRED VISIONの雰囲気に合わせようと、コンピュータの仕組みを現実の国制に適用してみようか、とがんばってみた。しかし、話が突飛すぎることと、改憲とか革命でもしなければ記述内容の実現可能性がないわけなので、大方の読者のマトモな関心の対象とはならなかったようだ。

後半は、「ナントカ批判」というタイトルがついている記事だ。連載に対する反応があまりにもないことと、それ以上に私の身近な頭のいい人たちが誰も日本国政府を信用していないことに気がついて、「いくらなんでもこれはマズい」と思って書いた「アナキズム批判」に突然たくさんのアクセスがあったことが、このシリーズのきっかけになっている。とくに、国家主義的に受け取れる文章の部分に、たくさんのアクセスが集まったことから、ネットワーク上の言論の関心は、現実世界において標準とされる言論で忌避されている種類の発言に集まるのだなぁ、と感じ入った。

つづいて、前半の連載からの流れを受けて、日ごろ私が接している学生達が陥っている危険な状態とその背景について、批判する記事を書いてみたのが一連の「教育制度批判」だ。もちろん、世間や身近な人たちのからの烈しい批判があるだろうことを覚悟の上で書いた。ガクガクブルブルだった。ところが、こちらも国家主義的に受け取れる文章の部分に、たくさんのアクセスが集まった。正直なことろ、このようなアクセスの傾向を、私は心配している。

ネットワーク上の言論は、その内容が過激に走る傾向にあることが、しばしば指摘されている。ネットワーク上で、もし国家主義的な言説の需要が高いことと、そうした需要に応じてオンラインマガジンやブログの収益が増加する経済的な仕組みが結合すると、商売として国家主義的あるいは保守的言論を売ろうとする人々が現れるだろう。そして、そうした言論は次第に過激になっていくだろう。これはそれ自体として危険な傾向だ。言論が私達の世界認識を形成し、現実を変えていくからだ。

私達の生活のすべてにおいて、適切な均衡が要求されている。その均衡は対象の正確な観察と、対象の諸要素の意識的な調整によって維持されるほかない。読者の皆さまにおかれましては、私達を取り巻く世界の状況に関して、虚心率直な眼でじっくりと観察し、公正無私な熟慮の上で、我々の幸福を維持するよう発言し行動して頂きたいと願う。よくよく考えてみれば、「網言録」も「現実デバッグ」も、そうした私の思いにおいて同じ傾向にあったように思う。

さて、また恒例のアオリを江坂編集長にお願いしよう。↓

「現実デバッグ」をご愛読ありがとうございました! 白田先生の次回作にご期待ください!
by 江坂

「フゥ... 恐ろしい闘いだったゼ。 しかし! 俺たちの旅は始まったばかりだ!」

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プロフィール

1968年生まれ。法政大学社会学部准教授。専門は情報法、知的財産権法。著書にHotwired Japan連載をまとめた『インターネットの法と慣習』などがある。MIAU発起人。HPは、こちら

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