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白田秀彰の「現実デバッグ」

社会システムのコーディングし直しを考えてみる。

No. 1 いきなり現実デバッグ開始

2007年11月 7日

皆さまごきげんよう。白田です。絶不評ブログだった『網言録』が打ち切られてから、こんなに早く、また皆さまにお目にかかれるとは思っておりませんでした。巨匠、荒木飛呂彦先生ですら、『魔少年ビーティー』『バオー来訪者』から、永遠の名作『ジョジョの奇妙な冒険』にいたる間に『ゴージャス☆アイリン』というごく短期間連載された忘れられがちな作品をお持ちだ。私も先生に倣い、打ち切りをくらった『網言録』を経て、この連載が『ジョジョの奇妙な冒険』に並ぶような長期連載になることを願ってやまない。... とはいえ、もうネタがないんですよ。あんまり。

江坂編集長からは、「法とか制度とか、そういう話をお願いしますよ!」 という趣旨の念を押されたので、今回の連載では「法 / 制度」限定でネタを探すことにした。それゆえ、ネタがないときには極めてアッサリと原稿を落とすことにしたので、しばらく更新されないことがあったとしても、「ああ、ネタがないんだなぁ」と生暖かく放置していただければ幸いだ。

さて、私がしばらくWIRED VISIONを留守にしている間に、MIAUという組織を立ち上げていたりした。yomoyomoさんがすでに記事にしてくださってる。ありがとう。でも、多忙を理由として総統からの信書を読み落とすようなことでは困りますな、yomoyomoさん!...というくらい まったく統率力のないロージナ茶会総統として、私は ゆったりとネタ的余生を送るつもりだった。ところが著作権法改正関連で、権利者側の都合が優先された強引な方針がつぎつぎと打ち出されていることに、旧ロージナ茶会の若い衆が津田大介氏小寺信良氏と、新組織をつくって警鐘を鳴らすというのであれば、総統が参加しないわけにはいかない。そこで発起人として参加することにした。

もちろん、MIAUの当面の目標は、(1)「私的録音録画小委員会中間整理 (以下、中間整理)」に対して、とくにそのダウンロード行為を著作権法第30条 [私的使用のための複製] から除外し、送信可能化権を侵害してアップロードされている著作物を、ダウンロードする行為自体を違法化(ただし刑事罰は見送り)しようとする方針への反対表明のパブリックコメント(以下、パブコメ)を提出すること、さらに (2) 同趣旨の反対の意向をもつ人々に対して、情報提供したり、パブコメ提出のお手伝いをすることにある。協力してくださる方は、こちらをご覧のうえ、パブコメを提出していただけると、とても嬉しく思う。

世の中には、政府にアレコレいうと、政府のコワイ人に目をつけられて社会的に抹殺されると誤解している人がいるかと思う(いないか)。しかし、このパブコメは、政府が「みなさまのご意見を伺いたい」と公に訊ねてきてるのだから、主権者たる国民の権利として皆さんは自分の思うところを述べて構わないのだ。パブコメを提出することで、政府から皆さんに何らかの不利益がもたらされるのなら、もう日本国は終わってるし、マトモな法律関係者であれば、全力をもって皆さんを守るために立ち上がるはずだ。

「音楽用CD等の還流防止措置」いわゆる還流権の法制化ときにも見られたように、中間整理の方針を導いた権利者のみなさんも、関連した組織や事業者や従業員やら家族・親族やらやらを動員して、「賛成ー!」「賛成ー!」「賛成ー!」と言うはずだから、もしこの記事を読んでいる皆さんが、MIAUのページの説明を読んで「反対!」と思ったら、反対することになんの問題もない。

私個人としては、現在の送信可能化権侵害が蔓延している状態を容認しているわけではない。とはいえ、提案されている「ダウンロード違法化」は、あまりにも短絡的かつ稚拙な案であり、その副作用は限りなく大きい。私の妄想には、患者の体中に広がる悪性腫瘍を取り除くために、
「うはははは! それそれ放射線だ! まだか! まだなくならないのか?! もっとだ!もっと強い放射線だ!」
と叫びながら、致死量の放射線を浴びせつづけて患者を焼き殺す狂気の医者の姿が浮かぶ。

とはいえ、私がMIAUに期待することは、もうあちこちで書いたり 語ったりしたので、書いている本人も飽きてきているのだが、インターネットに住む人たちの声を現実界へつなぐ組織として成長することだ。インターネットで常識とされているような考え方が、政府の審議会や委員会や国会に届かない。インターネットを日々使っているネットワーカーの声を代弁する人が政治的決定の場に誰もいない。こうしたことが、先の「ダウンロード違法化」の根本的な原因だ。みんなが顔を見合わせながら「...お前がやれよ」「イヤだよ、お前が先だよ...」「...最初になると目をつけられるからな」と躊躇している状態を打開するために、中心メンバーが顔出し実名晒しで立ち上がり、ネットワーカーの皆さんが声を上げるきっかけを作ることが本質的な目的だと私は考えている。

で、これも繰り返して述べているのだが、私はMIAUが「日本のインターネット利用者を代表するような組織であるべきだ」とか、「政党へと成長すべきだ」とか、まったく全然思っていない。だって、そういう組織になると、いろいろとメンドウじゃないですか。疲れるし。だから、MIAUをきっかけに、もっと意欲的な人とか、もっと力のある人が、
「この世は荒野だ!」「MIAUのやり方なんぞ生ぬるい!」「俺が天下をとる!」
とか叫びながら、もっと気合の入った組織を作ったりして、そちらが頑張ってくれたりするととても嬉しい。そしたら、MIAUのみんなは、同好会っぽく、楽しくピクニックとか愉快に温泉旅行に行けるようになるだろう。ああ、楽しみだ。

インターネットには、いろんな立場やものの考え方の人がいる。だから、インターネットにヘンテコな規制をかけようとする人たちに物言うときに、一つの組織にまとまって対抗するという戦略は不自然だと思う。きっと昔の「政治の季節」のように、一つにまとまるべしという思い込みが、さまざまな思いを封殺し、組織内部の対立を呼び、手段が目的化してしまうにちがいない。だから、MIAUのような組織が たくさんたくさんあって、それぞれが自分達の意見を表明して、それらの意見が討議のなかで洗練され、一つの決着へ結び付くことが望ましい。それこそが民主主義的な意思決定のあり方だろう。たとえて言えば、前者がジオン公国の「ソーラ・レイ」であるならば、後者が地球連邦の「ソーラー・システム」であるといえる。

皆さんも、つまらない現実をデバッグするために、「鏡」となって太陽の光を政治過程に向けてみない?

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プロフィール

1968年生まれ。法政大学社会学部准教授。専門は情報法、知的財産権法。著書にHotwired Japan連載をまとめた『インターネットの法と慣習』などがある。MIAU発起人。HPは、こちら

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