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小田切博の「キャラクターのランドスケープ」

マーチャンダイジングの観点から、マンガ・アニメ・ゲームなど、日本の「コンテンツ・ビジネス」の現在を考える。

民主党政権誕生と知的財産戦略本部

2009年9月25日

(これまでの 小田切博の「キャラクターのランドスケープ」はこちら

8月末の衆議院選挙は民主党の歴史的な大勝利となり、与野党は逆転、鳩山新政権が誕生した。この結果を受け、民主党がたびたび批判してきた「国立メディア芸術総合センター」建設は白紙化されることになったようだが、政府によるコンテンツ産業振興策や文化政策そのものはどのような影響を受けるのだろうか。

まず前政権与党である自由民主党と、民主党、衆院選に向けて公表されたそれぞれの政策を見てみる。

自民党の政策は公式サイトの政策ページにまとめられている(衆院選大敗を受けてか、なぜかトップページからのリンクはない)。

中でもこの分野にもっとも関連が深いと思われるのは観光政策「ビジット・ジャパン・キャンペーン」にからめて「独自のコンテンツや伝統文化を盛り上げ、世界へ。同時に、観光でも魅力ある「ジャパン」を目指します。」として挙げられている「ゲームやアニメ、キャラクターなど、日本が強みを持つコンテンツ。お家芸とも言えるこの分野での人材育成、製作者の待遇改善を行い、世界に誇る作品が生み出される環境をつくります。」という政策項目だろう。他に「ものづくり技術の開発や支援策の継続・拡充」、「地上デジタル放送の推進・情報通信網の整備」、「IT利活用社会の実現」といったものが具体的な経済政策の項目として挙げられている。

こうした「クールジャパン」を受けた外交レベルでの「日本ブランド」の確立は自民党政権下でのこの分野でのここ数年の重点施策になっており、「メディア芸術」の振興などもこの線から推進されてきたものだといえる。

これに対して民主党公式サイトの「民主党政策集INDEX2009」では、「知的財産立国の実現」として「国際競争力の強化、科学技術の振興を図るために、知的財産権の強化に取り組みます。」とする項目がコンテンツ産業に関連した施策でもっとも大きなものになる。他に関連する項目としては「インターネットを用いたコンテンツの2次利用促進」、「ものづくり政策の推進」、「地上デジタル放送への円滑な移行」などがあり、自民党と比較しての独自政策としては「通信・放送委員会(日本版FCC)の設置」による通信・放送行政の見直しがあるくらいで、自民党のような派手な打ち出しがないぶん、あまり独自色は感じられない。

では、今回の政権交代によって大筋ではこうした政策の方向性や施策は変わらないのかといえば、政権発足直後でまだ先行きに不透明な部分が多いので断言はできないが、実際にはおそらくかなり大きな影響を受けることになるだろうと思う。

以前「「デジタルコンテンツ」と「メディア芸術」」というエントリで似たようなふたつの概念が経産省と文科省の傘下でそれぞれ並存していることに疑義を呈したが、著作権やコンテンツ産業、メディア芸術などの問題はより大きな政策単位としては特許権や先端技術研究などの問題とあわせた「知的財産」政策としてまとめられている。

現在この「知的財産」政策の立案や施策の決定、割り振りは2003年、自民党小泉政権下に内閣官房に設置された諮問機関「知的財産戦略本部」でおこなわれており(前身となる「知的財産戦略会議」が2002年設置)、政策の基本方針が毎年「知的財産推進計画」として公表され、現状の問題点の指摘とそれに対する施策の提起、提起された施策の担当省庁への割り振りまでがこの計画によってなされている。担当を割り振られた各省庁は提起された施策を元に具体的な政策を立案し、これをもとに予算申請がおこなわれている。

鳩山新政権下で廃止が決定された「経済財政諮問会議」同様、小泉政権におけるこの「知的財産戦略本部」は、省庁間での連携の不足や競合といった縦割り行政の弊害を排し、与党内部の利害関係からも自立した「官邸主導の政治」のために新たに設置されたものである。このため、ある意味では民主党の掲げる「脱官僚・政治主導」という方針にも合致するものともいえるが、すでに新聞等でニュースとして報じられているように「予算や外交の基本方針を決定する」ための機関として「国家戦略局」が内閣に設置されることになったため、この分野においてもこれまでとは政策決定プロセスは変わらざるを得ないと思われる。

民主党は設立の法的根拠となっている「知的財産基本法」の改正、具体化を党の「政策」として謳っているため「知的財産戦略本部」自体を廃止することまではしないかもしれないが、「国家戦略局」がつくられる以上、少なくともこれまでのような内閣官房直属の諮問機関ではなく、戦略局傘下の組織として再編がはかられなければ話としてはおかしいし、戦略局とともに設立される「行政のムダを省く」ことを目的とした「行政刷新会議」との関係も問題になるだろう。

個人的には規制強化につながる可能性のある「知的財産権の強化」を方針として掲げる民主党の姿勢には疑問がなくもないが、今回の政権交代はこうした体制の変更によって自分たちの周囲の生活や文化がどのように変わり、あるいは変わらないかを見るいい機会ではないかと思う。しばらくは今後実際になにが起こっていくのかをじっくりと見ていきたい。

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プロフィール

小田切博

ライター、90年代からフィギュアブームの時期に模型誌、フィギュア雑誌、アニメ誌などを皮切りに以後音楽誌、サブカル誌等、ほぼ媒体を選ばず活動。特に欧米のコミックス、そしてコミックス研究に関してはおそらく国内では有数の知識、情報を持つ。著書として『誰もが表現できる時代のクリエイターたち』、『戦争はいかにマンガを変えるか』(ともにNTT出版刊)、共編著に『アメリカンコミックス最前線』(トランスアート刊)、訳書にディズニーグラフィックノベルシリーズがある。

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