社会インフラとしての電子政府、成功の鍵は国民共通番号
2011年2月 8日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
東京の地下鉄トンネル内における携帯アンテナ設置合意に続き、大阪市の地下鉄も合意したという報道を見かけたが、こうしたインフラ整備はとても重要だ。人々がいつでも通信できる環境を整えていくことは、社会における経済活動にも好影響を与えるはずだ。香港や中国、韓国、シンガポールなどの地下鉄も以前からトンネル区間内でケータイは使えたし、日本でも福岡市営地下鉄では使えていた。本来、東京と大阪は最も需要がありそうなエリアなのだから、もっと早く着手すべきだったのではなかろうか。
インフラ整備といえば、道路や交通機関、あるいは通信設備といったハードウェアに目が向きがちだが、これまで韓国を視察してきた中で重要と感じたのは、社会システムとしての、どちらかというとソフトウェア的インフラの整備だ。昨秋、韓国のデジタル教科書事情について触れたが、韓国がこうした先進的な取り組みをいち早く実践できるのは、「電子政府」という社会インフラの整備が行き届いていたからといえる。
韓国の電子政府の取り組みは、もともとは政府が確実に税収入を得る手段だったようだ。これに各種社会保障制度の記録等が連携し、国民番号一つで様々な情報をインターネットで取得できたり、公的機関における手続きを簡略化できるようにしていった。さらに、この電子政府のシステムに教育に関連する情報も記録されるようになっていった。小学校から高校までの成績が学校側によってアップロードされ、電子政府で管理される。成績証明書や卒業証明書もインターネットからダウンロードできる。さらに今春からは幼稚園での評価も新たに加わるそうだ。
ちなみに、大学受験の出願も電子政府経由で行われるそうだ。国民番号を使えば、成績証明書、卒業証明書の提出も不要だ。そして成績が管理されているのだから、近い将来は入学試験も不要になることだろう(一部の大学入試で、すでにこの審査方法が採用されているとも)。
こうした国民番号と電子政府による成績管理システムというインフラが整備されていたので、教科書や教育をデジタル化することにそれほど労力はかからないのだろう。
一方のわが国は、デジタル教科書も議論途中ではあるが、やはり韓国のような電子政府の仕組みが整わなければ、教育分野のICT化も容易には進められないような気がする。電子政府を動かすためには国民番号のような国民の一元管理が必要だが、わが国ではようやく、共通番号制度の議論が開始されたところだ。表向きは社会保険や医療・介護分野での活用が前面に打ち出されているが、これも本音は確実に税収入を得るための仕組みにしていくのだろう。
情報漏えいの心配はないのか、個人情報保護と裏腹ではないかなど、色々な議論が出てくるのだろうが、まずは電子政府的なインフラ基盤がしっかりと構築されなくては、教育分野も医療分野もICTの利活用が進まない。インフラ整備というと、税金が投入される割に成果が見えにくいため、各所からの反発も大きいのだろうが、ぜひとも世界の中でも先進的な韓国の事例などを参考に、有効な形で整備が進むことを願いたい。
ちなみに韓国の場合は、政府が巨額を投じて構築していった電子政府の仕組みを、現在は国を挙げて諸外国に「システム」として販売し、初期投資を回収しているそうだ。韓国の電子政府による税務管理の仕組みはインドネシア政府に、電子教育管理の仕組みはコスタリカに、それぞれ導入されたという。(わが国ではインフラの国外展開例として新幹線の売り込みをしているようだが)
こうした韓国の電子政府や教育分野のICT利用の政策側の考え方は、昨年末の訪韓の際に韓国教育科学技術部(日本でいう文部科学省)でデジタル教育関連を統括するパク・コンジン事務官からお話を伺ったことを要約したものだ。年末・年度末といえば予算や決算がらみで最も忙しい時期と拝察しお詫びも申し上げたのだが、パク氏いわく「電子政府が充実しているし、日ごろから関係各所が必要なデータ入力をこまめにやってくれているので、たとえば決算処理なんて30分で終わりますよ。画面で内容チェックして決済ボタンを1つ押すだけですから」。なるほど、あやかりたいところだ。システムインフラ整備は本当に重要なのだ。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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