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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

来春から義務化される韓国のデジタル教科書事情

2010年10月 4日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 韓国では、来春(新学期は3月から始まる)から、すべての小中学校において、英語、国語、数学の3科目についてデジタル教科書導入を義務化する。さらに2013年には、生徒1人1台のタブレット端末導入を目指す。このタブレットPC導入に関して公費負担でいくのかどうかなどは、まだ議論の途中にあるが、こうした動向は日本の通信関係者、教育関係者には参考になるところも多いはずだ。

 韓国では、2007年に政府教育科学技術部主導により「デジタル教科書商用化推進計画」を始動、一部の小学校5〜6年生向けに英語教科書をデジタル化し、実験を開始している。2008年は小学校20校で実証実験、2009年にはさらに実験校を増やし132校で実施、さらに国語や数学、社会、理科などの科目でもデジタル化を試みていった。(韓国の全小学校数は2009年時点で5,829校)

 こうしたデジタル教科書の導入を試みている韓国の小学校を視察してきた。私が訪問したのは、ソウルを流れる漢江(ハンガン)の南側のエリアで、高層マンションが立ち並ぶ新興住宅街にある小学校である。東京でいえば、さながら江東区の小学校といった感じだろうか。この小学校で、5年生の社会科(地理)と、英語の授業を覗かせていただいた。

 ソウルの小学校を見学して驚いたのは、電子黒板や電子教卓が完備されていること。じつは韓国ではほとんどの小中学校に、電子黒板、電子教卓、IPTV等が配備されているのだそうだ。すでに教室設備で日本よりも先を行っている。もちろん、ブロードバンドが無い学校は考えられないそうだ。

 視察した授業では、写真のように教師が電子黒板を使い講義を展開。先生の説明の際にはタブレットPCを触らないよう、教師側にディスプレイを向けるのがこの学校のルールのようだ。写真は世界地理の授業だが、講義ではGoogle Earthなどを有効に活用し、視覚的にも分かりやすい講義が展開されていた。

 そして、講義内容の理解をさらに深めさせるために、生徒のタブレットPC上でデジタル教科書を開かせ、学習させていった。生徒のディスプレイ上では、タッチパネル操作可能な世界の地図が表示され、授業内容を生徒一人ひとりが自分自身で再確認していった。

 また、英語の授業では、同様に教師が電子黒板を使って人間の動作のイラストを見せ、何をしているところなのか英語で答えさせていった。一通り説明が終わると、復習を兼ねて生徒のタブレットPCでリスニング、ヒアリングの実践を行うという流れだった。

 小学生とはいえ、全ての生徒がしっかりとタブレットPCを使いこなしていた。何より、授業が面白そうであったし、内容も大変分かりやすいものだった。日本ではデジタル教科書に賛否両論ある。確かに紙の教科書ならではの利点も評価できるが、デジタル教科書ならではの分かりやすさや、通信を通じた(ネットを介した)情報の利活用のメリットも見逃せないはずだ。

 教室の視察後、この小学校の教員などと意見交換する時間を得たが、韓国では学校ごとに専任でICT設備を整えたり、デジタル教科書の導入や運用を支援するICT支援員のような立場の研究教員が常駐しており、こうした教員と実際に授業を行う教員とがスクラムを組んでデジタル教科書の運用を行っていた。授業を行う側の教員は、こうしたICT支援員の存在のおかげで、講義に専念できるのだという。また、韓国の教育界では、今後デジタル教科書を使いこなせる教員に昇格などの出世の道が拓けているのだそうだ(逆に意味を取れば、デジタル教科書を使えない教員には将来がないということらしい)。

 また、デジタル教科書導入で議論になりそうな各種課題についての検証も、各所で行われてきたそうだ。たとえば電磁波の影響は無いのか、ディスプレイが視力に悪影響を与えないかといった課題だ。わずか2年足らずの検証ではあるが、デジタル教科書の悪影響は無いとの結論が下されている。

 こうしたデジタル教科書導入を目指しているのは、韓国や日本だけでなく、もはや世界的な流れともいえる。そうした中で注目されているのは、教育用PCなどのハードウェアの特需と、デジタル教科書という新たなコンテンツ市場の拡大であることはいうまでもない。アップルのiPadを皮切りに、サムスンがAndroid搭載タブレットPC「Galaxy Tab」をすでに世界で発表しているほか、各社がiPadに似たタブレットPCを続々と発表しているのは、電子書籍への期待よりもむしろ、デジタル教科書需要に期待してのことかもしれない。

※本稿作成にあたり、韓国のデジタル教科書関連の政策等は、ITジャーナリスト・趙章恩氏から情報提供及び助言をいただいた。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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