様々な「コンテンツ」を網羅するのが図書館の務め
2011年2月 1日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
Wirelesswireのトピックスによれば、ノキアが苦戦を強いられており、シェア低下がとまらないという。世界シェア首位を維持しながらも、急拡大を続けるスマートフォン分野でiPhoneやAndroid搭載端末に大きく差を開けられている状況だ。
ノキアはこれまで、Symbian OSを端末に搭載することでユーザーやベンダー、コンテンツプロバイダーなどを囲い込んだビジネスモデルを形成し、ケータイ端末メーカーにおける世界の頂点に君臨してきた。しかしSymbian OSにこだわり続けてきたことが逆に仇となってしまったのだろう。変化の早いICT業界においては、常に新しいビジネスモデルを模索していかなくてはならない。過去の成功に甘んじていては、あっという間に世間の流れに取り残されてしまう。「失敗は成功のもと」というが、むしろICT業界においては「成功は失敗のもと」と肝に銘じて、市場の変化に柔軟に対応し、常に新しいビジネスモデルの模索を続けていかなくてはならないということだ。
正直なところこのノキアの苦戦の状況は、そのままわが国のケータイ業界にも当てはめられるように思う。通信事業者主導による端末の開発や販売奨励金を使った端末販売の仕組み、モバイルコンテンツビジネスなど、素晴らしいビジネスモデルであったがこそ、その形を時代の流れに応じたものに変えられないまま現在まで来てしまっている。こうした成功に縛られてしまって、新たな発想を生み出しにくい環境につながっているようだ。
一方、韓国は日本とは対照的に、何事にも新しいことに挑戦し、成果を出しているように感じる。日本では、これまでに前例のないことを始めようものなら、プロジェクトをスタートさせるまでに相当な苦労がつきものだ。完全な企画立案が必要で、企画を整えることそのものが巨大なプロジェクトになってしまっている。しかし、これが韓国ならば「まずはスタートさせてみて、状況によって方向修正を加えればいい」という発想になる。とにかくアクションが早い。こうしたところで様々なビジネスにおいて、日本と韓国でスピードの差が出てしまうのだろう。
前置きが長くなったが、前回に引き続き、韓国における電子化が進む図書館についてレポートを続けたい。
韓国国立中央図書館の「デジタル図書館」
電子書籍が普及すると図書館はどうなるのかという視点で、前回は大学の図書館を覗いてきたが、さらに国立の図書館にも足を運んでみた。訪問先は、ソウル市にある国立中央図書館。ここは日本で言うところの国立国会図書館に当たる機関で、韓国内で出版されるすべての書籍等が蔵書として揃っている。もちろん紙の書籍も蔵書として管理されているが、最近では電子媒体で出版される書籍やメディアについては、電子版もライブラリに収め市民向けに開架している。さらに過去の古文書も電子化を進めており、電子化された書籍等についても、附属施設の「デジタル図書館」館内でPCを通じて閲覧が可能となっている。
韓国・国立中央図書館。日本の国立国会図書館に当たる機関である。
別棟となっている「デジタル図書館」に入ると、延世大学の図書館にあったものと同様な電子版新聞の閲覧端末がエントランスでお出迎え。
ここがデジタル図書館の中心的な施設となる閲覧室部分。PCで電子書籍を閲覧するスペースである。
先に視察してきた延世大学図書館と同様に、驚くほど電子化が進んでいた。やはり電子書籍を閲覧するためには、閲覧室にPCが必需品となる。先進的な大学図書館だから特別なのかと思っていたが、こうした一般市民向けの図書館においても、目を疑うような光景が広がっていた。同図書館の閲覧室では、252台のPCが閲覧用として稼動していた。
さらに驚いたことは、電子化された古文書や書籍、電子書籍のほかにも、様々な種類のメディアが図書館に配備され、市民向けに閲覧できるようにしてあることだ。すなわち、映画コンテンツや、テレビドラマなども図書館のライブラリとして収録され、専用の閲覧室で視聴が可能となっている。
マルチメディアゾーンというブースでは、映画やドラマなどのコンテンツを閲覧できる。ご覧の通り、老若男女問わず、映像コンテンツを楽しんでいる。
こちらは、マルチメディアコンテンツをグループで楽しむためのブース。
このほかにも、映像編集用のブースや、映像収録可能なスタジオなども用意されていた。もちろん、電子書籍やマルチメディアコンテンツの閲覧は無料、スタジオも予約制だが、利用料は無料である。
韓国における図書館電子化の現況
韓国の国立中央図書館は、政府・文化体育観光部に属する機関で、文化体育観光部と共に、図書館政策の基本方針策定や関連制度の改善、地域図書館の育成支援などの役割も果たしている。
同図書館・デジタル企画課のパク・ソンチョル氏からお話を伺うことができた。同図書館では、保存が難しいと思われる古文書の電子化を1998年から進めているそうだ。同図書館には、375万点の蔵書があるが、このうち雑誌、漫画、論文を除いた(論文のデータベース化は国会で実施)、蔵書198万タイトルを電子化(データベース化事業と言っている)の対象としている。データ形式は初期TIFF、現在はJPEGで収録している。当初は著作権がないものについて電子化に取り組んでいたが、2000年に著作権に関する法改正が行われ、現在では全ての蔵書を対象に電子化を進めている。現在、198万タイトルのうち、40万タイトルまでの電子化が終了している。目標では、2020年までに全蔵書の電子化を進めたい方針ということだった。
韓国の図書館における電子書籍対応は、以下の表をご覧頂きたい。全ての図書館が電子書籍対応しているわけではなさそうだが、それでも多様な図書館においてそれぞれ電子書籍が閲覧できる環境があることが伺えよう。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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