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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

【最終回】開国はしたが、さらにもう一歩の進展を!

2011年5月30日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 私の勤め先の大学では、今年度の新入生より全員にiPadを貸与し、教育や大学生活に有効に活用させようとする取り組みを行うことになった。本来であれば4月の入学時にiPadを揃えておきたかったのだが、ご存知のとおりiPad2の発売が延期され、また初代iPadの在庫も枯渇していたため、じつは未だに学生に対して端末を渡せない状況が続いていた。

 その心待ちにしていたiPadがようやくこの週末に大学に納入されてきた。これからゼミ生の協力を得てアクティベーションを施し、明後日以降の新入生の授業の中で順次手渡していくことになる。


届いたiPadを開梱中。これだけ多いと結構大変だ...

 大学で準備した端末はWi-Fiモデルである。本来であれば、3Gモデルを回線契約なしの端末単体で渡したかった。学生にも懐事情があるのだから、Wi-Fiのみで運用するか、あるいは学生自身が回線を契約して利用するかなどを学生の都合で選べたほうが良い。iPadがSIMフリーであれば、さらに契約キャリアの幅も広がる。安価に運用するためにソフトバンクを選ぶのか、エリア充実のドコモにするのか、あるいは長期の回線契約縛りに振り回されたくなければ日本通信のプリペイドという選択肢もある。個人であれば、海外で販売されている3Gモデルを個人輸入すればそれで済む。しかし、法人で大量にまとめて購入するとなると、そういうルートからの入手は無理である。日本でも、アップルが自らSIMロックのない端末を、端末単体で売ってくれれば良いのだが、そんな世界では当たり前ともいえることが残念ながらわが国では実現できていない。

 さて、この連載『ケータイ開国論II』は、諸般の事情により本日をもって連載を終了することとなった。2007年9月に『ケータイ開国論』の連載をスタートし、一旦中断したものの、2010年4月より『ケータイ開国論II』として再び筆を執ることになり、わが国のケータイサービスに関わるオープン化の動向などを中心に私個人の考えを記してきた。

 わが国のケータイサービスはとかく「垂直統合型」といわれている。そして、この垂直統合を切り崩すことが「オープン化」と捉えがちである。しかし、垂直統合が悪いわけではなく、これによるメリットも多い。とくに端末メーカーやコンテンツプロバイダー、その他サービスベンダーなどサービス提供者側にしてみれば、垂直統合型のビジネスモデルのほうがはるかに製品やサービスを市場に浸透させやすいだろう。サービス受益者側であるユーザーにとっても、それで安価に端末を購入でき、便利なサービスを享受できるならそれに越したことはない。

 iPhoneの登場により、わが国のケータイ市場は大きく変化し始めた。Androidスマートフォンも台頭し、この数年で店頭に並ぶ端末傾向はがらりと変わり、そしてユーザーのケータイ活用も大きく変化を始めている。販売する端末の仕様までも支配してきた通信事業者が、こうした海外で生み出されたスマートフォンを受け入れるようになったことは、そのままオープン化の進展だと捉える向きも多いと思うが、見方によっては、これは単に垂直統合の主体が通信事業者からアップルやグーグルに移っただけともいえる。

 わが国のケータイサービスは確かに、黒船ともいうべきiPhoneが登場してから大きく方向転換してきた。ラインアップも充実してきたし端末だけでなくサービスの選択肢も広がりが出てきた。さらに今春からは原則SIMロック解除となり、ドコモではSIM(回線)のみの契約も可能となった。これであれば十分オープンな環境ではないかといえそうだが、あともう一歩「端末のみを回線契約なしで購入できる」というところまでぜひとも踏み込んでもらいたい。そうすることで本学のような教育現場はもとより、新たな法人需要などで更なるモバイルの活用の裾野が広がるのではないかと思う。垂直統合型のビジネス環境でより安価にケータイサービスを使いたいというニーズもあって当然。筆者が言いたいことは、垂直統合型サービスを選ぶのか、あるいは「端末」と「回線」を切り分けて購入・契約するのかという、ユーザー側の都合で自由に選択できるサービス環境を実現させてほしいと願っているのである。

 そんなことをこの連載で訴え続けてきたが、残念ながらまだまだ志半ばである。またどこかでチャンスがあるならば再び筆を執りたいと考えている。今後、どういった形で連載を実現させるかはまったく未定だが、それが実現した際には筆者のFacebookやオフィシャルサイトで案内させていただきたいと考えている。FacebookのURLは以下のとおりである。ぜひ、気軽に友達申請していただきたい。

http://www.facebook.com/yuichi.kogure

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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