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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

端末販売と回線契約の分離は本当に実現するのか?

2008年1月 8日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 新年あけましておめでとうございます。本年も、ユーザー本位の携帯電話サービス発展を祈念し、業界構造の歪みや問題点を随時指摘していきたいと思います。よろしくご愛読ください。

 さて、本稿を書いている1月7日は、NTTドコモのPHSサービス営業最終日だ。24時をもって、PHSサービスが終了となる。
 これまで私は様々なケータイサービスの、サービス開始や営業終了を傍観してきた。サービス開始時は、いずれのキャリアやネットワークも、新しい端末やサービスへの期待で大いに心が躍るものである。一方で、親しまれていたサービスが終了するときは大変さびしい気持ちになる。その時まで元気に稼動していた端末も、その日を最後に使えなくなってしまうからだ。ディスプレイのアンテナマークは消え、「圏外」以外表示されなくなってしまうのは本当に悲しい。

 ともあれ、サービス終了の際には、通信キャリアは別のネットワークのサービスに顧客の誘導を図る。今回のNTTドコモ・PHSユーザー向けには、好みのケータイ端末に無料で交換してもらえる。たとえば最新の905iシリーズも優遇策として無償交換してもらえるのである。最後までサービスを利用したユーザーへの恩恵ともいえる施策だ。(残念ながら私はかなり以前にNTTドコモのPHSを解約してしまったので、この恩恵には与れない)

 ところが、表向きは全端末が対象であるにも関わらず、「欲しい機種に交換できない」という不満の声を先月あたりから多数耳にした。どうやら、販売の現場では色々な思惑があって、端末の販売をコントロールしているようなのだ。

 11月下旬に発売された905iシリーズが好調なことは以前にも書いたが、その中でもP905iの人気は特別だ。今日もカメラ量販店やドコモショップを覗いてみたが、どこに行ってもほぼ在庫がない。実際に、昨年12月の段階でかなりのバックオーダーを抱え、1月出荷予定だった製造分を前倒しで供給したというような話も聞いた。

 それでも、何店舗か足を運ぶと、運よく希少な在庫に出くわすことがある。しかし、在庫が少ないからやむを得ないのだが、この希少在庫がどうしても新規契約の顧客に優先的に割り当てられてしまう。機種変更・買い増しの顧客にはなかなか在庫が回ってこないのである。さらに、前述のPHS巻き取り施策の顧客向けには、さらに端末が回ってくる可能性が薄くなる。

 本来、FOMAはSIMカード方式の端末であるので、新規も買い増しも関係なく販売できると思うのだが、販売店としては希少な端末は、新規顧客向けに販売したいのである。これは当然だろう。そのほうがインセンティブも多く、利益を上げられるわけだ。

SIM.jpg
端末と回線契約を分離するためのSIMカード。このICカードの中に電話番号等の加入者の情報が入っている。このSIMカードを差し替えるだけで機種変更は完了なのだが…。

 欲しい端末を購入できないユーザーの不満は痛いほど良く分かる。販売店に不満を言うユーザーも見かけるが、ケータイなど薄利多売の商品で、少しでも利益が上がる顧客に売るのは当然。むしろ問題あるのは、そういう売り方をしなくてはならない状況に追い込む通信キャリアのほうだろう。通信キャリアとしては、新規顧客を一人でも多く欲しい。そのため新規契約へのインセンティブが増えてしまうというのも分からなくはないが、結局長年使っているユーザーが貧乏くじを引くことになるわけだ。

 昨年11月から新しい販売方法が導入されたものの、実態は旧来の売り方と変わっていない。すなわち回線契約と端末販売がまったく切り離されていないのである。日本では電電公社の時代から回線と端末(黒電話)がセットで提供されてきたので、今でもケータイを購入する多くの人が機種変更などの際に身分証を提示し、契約書類を書かなくてはならない手間を当たり前と思っているに違いない。
 しかし、世界では回線契約と端末販売はまったく別の話で、ケータイ端末は、PCやPDAを購入するのと同じように、レジでお金を払えばすぐに持ち帰ることができるのである。

 日本でもせっかくSIMカード方式が採用されたのだから、端末は端末で自由に購入できるようにして欲しいものだ。あの機種変更手続きの手間と待ち時間の無駄がなくなるのだから、それは顧客にも、販売店にとっても、メリットは多いと考えるのだが…(販売店にとっては一筋縄に行かない問題であることは分かっているが)。回線とセットにして売ることで支払われるインセンティブが改められない限り、「手軽に」ケータイを購入できる日は訪れなさそうだ。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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