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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

日本人はホンモノのブランドケータイを、じつは知らない

2008年1月16日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 世界には、色々なケータイ端末がある。いまだにモノクロディスプレイで通話とメールぐらいしか使えないローエンドモデルから、日本のケータイ端末をはるかに凌駕するような多機能モデルまで、バリエーションはじつに豊かである。

 なかには世界的富豪向けに立ち上げられた超高級ブランドも存在する。その代表格が“VERTU”。最近、日本でもこのブランドを紹介する記事が多くなってきたが、VERTU端末はいわば「通話のできる貴金属」がコンセプト。フラッグシップモデルのSignitureシリーズは、外形は同じながら筐体に使われている貴金属にバリエーションがある。一番安価なものは“Stainless”で、それでも日本円で数十万円の価格が付けられている。その上にはシルバー、ゴールド、ホワイトゴールド、など様々な金属素材が用意される。プラチナで数百万円也。さらにその後“Signature Diamonds”というプレミアムモデルも登場、本物のダイヤがちりばめられ、価格は数千万円だとか。これぞ正真正銘の「プレミアム」であろう。その他のシリーズも概ね数十万からプライスが付けられている。

 世界では超高級ケータイブランドとしての地位を築いたVERTUだが、日本ではその存在を知っている人はごく一握りであろう。日本では使えないGSM方式のみのラインアップであるため、VERTU自体も日本市場に訴求してこなかったと思うが、日本に力を入れようとしてこなかった背景にはもっと根深そうな問題が考えられよう。何しろ日本では「メーカーブランド」のケータイが成功することはこれまで考えられなかったのである。

 わが国で、現在のような自由にケータイ端末を購入できるスタイルが生まれたのは1994年、「お買い上げ制度」がスタートしてからである。ちなみにそれ以前は「レンタル」以外にケータイ等を利用する手段が無かった。このお買い上げ制度スタートを機に、多数の端末メーカーがケータイ事業に参入、通信キャリアブランド、メーカーブランドの両方が乱立し、さまざまなケータイ端末が発売された。

 大手メーカーは通信キャリアブランドと、独自の販売網で展開するメーカーブランドとの2本立てで端末をラインアップするところも多かった。実際にメーカーブランドでも端末を販売していたのは、パナソニック、NEC、シャープ、ソニー、日立など多数存在した。1994〜1996年ごろはわが国のケータイ端末のラインアップが最も華やかだった時期ではなかったろうか。

 その後、わが国ではメーカーブランドのケータイが駆逐されていくことになる。各通信キャリアは新規契約顧客獲得をめぐって、いわゆる販売奨励金を手厚くしていったからだ。販売奨励金の額はどんどん増え、販売店ではこれを端末価格に反映させるようになった。いわゆる「0円販売」のスタートである。

 こういうことをした結果、販売奨励金の対象とならないメーカーブランドのケータイは駆逐されていった。ケータイを購入するユーザー側の心理としては当然であろう。同じ端末ならば少しでも安く購入できたほうがいい。たとえばパナソニックやNECは、それぞれ通信キャリア向けに提供しているものと同型のモデルを、独自のブランドでも発売していた。ところがキャリアブランドなら0円で買えるのに、メーカーブランド版では4〜5万円もする。当然メーカーブランドのほうは売れるわけがないのだ。こうして、日本では「メーカーブランド」のケータイが衰退していった。その結果が「つまらない端末ばかり」の行状なのである。

 VERTUも日本のこういった状況はよく分かっているのだろう。そんな日本よりもむしろバブル景気で沸いている中国のほうが、日本向けに展開するより有利に決まっている。実際、中国での販売には相当力を入れているように感じる。たとえば中国発着の国際線の機内誌には必ずVERTUの広告を見かける。中国から世界に足を運べるブルジョア層に宛てた広告だろう。中国内主要都市の高級百貨店にショップを展開しているらしい。

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中国南方航空に搭乗したが、機内誌にてVERTUの広告を発見。中国内販売網も充実しているようだ。

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広告につられて中国内のショップを訪れてみた。中国内は主要都市の高級百貨店の宝飾品フロアに店を構えていた。さながら宝飾品のような展示だ。

 ちなみに、この店頭にあった最高級品は機内誌の広告に掲載されているSignitureで、プライスは162,000元であった。日本円に換算するとおよそ250万円といったところ。

 モバイルビジネスのオープン化に向け、世の中が少しずつオープン化に向かい始めたということは度々ここで記しているが、販売奨励金の見直しに始まりいずれ回線契約と端末販売が切り離されていると、VERTUに代表されるようなブランドケータイや、あるいは目的別に使い分けるケータイなどのラインアップが充実してくるものと期待できる。たとえば、日本の伝統工芸の贅を尽くした「漆塗りケータイ」とか、あってもいいではないか(笑)

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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