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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

19%の大学生が2台以上のケータイを所持

2008年8月26日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 リックテレコム刊『月刊テレコミュニケーション』誌最新号(8月25日発売)にケータイの2台目需要に関連したコラムを執筆させていただいた。雑誌媒体ではどうしても誌面が限られるので、本稿にて補足をさせていただきたい。

 筆者はいくつかの大学でモバイル関連の研究や教育に携わっている。そのうちの1つ、青山学院大学総合研究所にてモバイルラーニングの実用性についての研究に関わっている。そして研究に関連して、一昨年から同研究所の研究員が講義を行っている主要大学にて、学生のケータイの利用実態調査を継続的に行っている。3回目になる今年度は7月に9大学、計684名からアンケートの回答を得ているのだが、今年度から2台目需要についても設問を設けてみた。

 「普段使っている携帯電話は何台ですか」という質問に対して、驚いたことに19%以上の学生が2台以上のケータイを日常的に使用していると回答してきたのである。その内訳をヒアリングしたところ、音声通話端末を複数台使い分けるケースが意外に多かった。つまり、ウィルコムやソフトバンクモバイルといった同じ通信キャリア同士で通話・通信が無料のキャリアを巧みに使い分け、友人との長電話の通話料を節約しているのである。

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 ちなみに、一般的な携帯電話利用実態調査の多くはインターネット上で調査するものが多く、その結果どうしても回答者がヘビーユーザーに偏りがちになってしまう。筆者らの調査手法は、各研究員が大学の講義の中で聴講学生に対して机上で調査を実施しているため、偏り無く調査結果を得られる。今年で3回目となるが、講義の受講生は毎年学年が異なるため、回答者も毎年違う学生が答えていることになる。それでも、利用している通信キャリアや、平均電話料金などは毎年大きなブレが無い一方で、定額制パケット通信料の普及は年々急増しているなど、明らかに変化が見られる項目もある。継続的な調査によって、この数年における学生のケータイ利用実態を計る指標として、評価を受けている。

 ちなみにここでは2台目需要についての回答結果のみを上記に記したが、調査内容の詳細については毎年、日本教育工学会全国大会で報告を行っている。今年は、10月11日から開催される大会で発表を行う予定である(上越教育大学で開催)。

 さて、わが国のケータイ新規加入者数は頭打ちと言われながらも、今だ微増が続いている。とはいえ、各通信キャリアとも2台目需要の掘り起こしに躍起である。安易といえば安易だが、1台の端末で2回線分の契約を取ろうという発想で、NTTドコモは「2in1」を始めている。ソフトバンクモバイルも追随し「ダブルナンバー」を始めたばかりだ。

 しかし、こういった「同じ通信キャリア」で2回線を利用するような使い方は、筆者はあまり現実的とは考えていない。「2in1」は、プライベートで使う電話番号・メールアドレスを教えたくない場合などを想定し、1端末にもう1番号加えることで2つの電話番号、メールアドレスを使い分けることができるというふれ込みだった。しかし、どれほどそういう需要があるのだろう。一部、法人などが会社で端末まで用意する経費が無駄なので、社員が機種変更する際に「2in1」対応機種にしてもらい、B番号は会社で契約してその費用を負担するというケースはちらほらとあるらしい。

 もっと学生の使い方に学んでいただきたい。学生の使い方は、いずれ一般ユーザーも使い出す手段の先駆けとして捉えられるものが多い。2台目需要もきっと同じことだ。大学生の19%がすでに2台持ちであり、いずれ一般ユーザーにも同様な使われ方が広まっていくに違いないだろう。ただし、学生の2台目需要というのは、「2in1」や「ダブルナンバー」のようなものではなく、基本的に「異なるキャリアの使い分け」なのである。

 じつは海外でも電話料金の引き下げ競争の末に、同じ電話会社の回線同士は通話無料にするといったサービスが珍しくなくなってきた。基本使用料が安価であれば相手に応じて回線を使い分けた方が得策というわけだ。イタリア(ケータイ普及率はなんと123%)のユーザーの話では、もう基本使用料は無料に近いほど安いという。その上、同じ通信キャリア同士なら無料か無料にならない場合でも大変安価に利用可能となる。そこで通話相手に合わせて複数回線を所持するというのが珍しくなくなってきたという。

 日本でも同様に、家族間あるいは同じ通信キャリア同士で通話無料を標榜するサービスが増えてきた。同時に、基本使用料の引き下げも着実に進んできており、今後はわが国でも「異なるキャリアの組み合わせでの2台目需要」が確実に増えていくものと考えられる。

 ただ、今後2台目需要を喚起するためには、端末のラインアップに今一歩工夫が必要となってくる。例えば、所持するすべての端末に高画素カメラやワンセグ、おサイフケータイが備えられている必要はない。メインの高機能端末が1台あれば、他は音声通話とメールができれば十分だ。したがって、機能を最小限に抑える代わりに安価に購入できるラインアップが求められよう。ARPUが下がっていくことを懸念する向きもあるが、であるならなおさら2台目、3台目需要を喚起させ、1回線あたりの売り上げは下がっても、結果的に契約台数が増えて売り上げを伸ばす戦術に出ればよいだろう。

筆者が本年1月に中国で購入したデュアルSIM端末(GSM)

 端末を2台持つのは面倒だという向きには、SIMカードスロットが2つ備えられた端末を使えばいい。海外では、1端末にSIMカードスロットを2つ設け、2回線を同時に使える「デュアルSIM」端末も存在する(とくに中国では多数見かけた。さらにトリプルSIMもすでに存在するらしい)。海外ではSIMロックなどなく、たとえばこの2つのSIMスロットに異なる通信キャリアのSIMカードを挿入し、1端末で同時に待ち受けするといった使い方も可能だ。中国では、GSM方式とCDMA2000方式のデュアルSIM端末というのも存在した。日本で例えれば、NTTドコモとauを1台で2回線同時待ち受けできるような端末というわけだ。

 「2in1」や「ダブルナンバー」などはSIMカードは1枚だけとなっており、1枚のSIMカードで2番号を使う仕組みとなっている。そういう難しいシステムを作るのであれば、最初からSIMカード2枚挿しの端末を作ればよいのに、と思ったのは筆者だけだろうか。まあ、仮にデュアルSIM端末を作ったところで、わが国ではSIMロックが基本で、しかもキャリアブランド端末しか流通できないような土壌があるため、ユーザーにとっては何の面白みも無いデュアルSIM端末になってしまうだろう。

 それでも筆者は、チャレンジ精神旺盛な通信キャリアと端末メーカーの組み合わせで、あっと驚くようなデュアルSIM端末を出してくれないものかと期待していたりする。たとえば片方のSIMスロットだけSIMロックをかけ、もう一方はSIMフリーにする。SIMロックされているほうにきちんと有効なSIMカードがセットされていなければ端末は機能しないとかにしておけば、解約される心配もない。もう一方のSIMスロットは、どこの通信キャリアのSIMカードを挿そうがユーザーのお好きに、なんて太っ腹な端末があったらどれほど面白いだろう。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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