ケータイサービスオープン化の決め手となるか? 「日本Androidの会」発足
2008年9月 9日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら)
このコラムでは、これまでたびたびケータイサービスのオープン化の可能性について、業界の動きに着目しながら綴ってきた。
わが国のケータイサービスはもはや成熟期に突入し、既存通信キャリアも「攻め」のビジネスから「守り」のビジネスへ転換を図りつつある。その一方で、国内のケータイサービス産業の「静けさ」を横目に、海外から次々に新しい話題が押し寄せてきている。今夏話題になったのは米AppleによるiPhoneを通じた新しい“コンテンツ流通プラットフォーム”「App Store」だ。
そしてAppleと並んで話題になっているのが、米Googleによって提供が予定されているケータイ用プラットフォーム「Android(アンドロイド)」である。Androidは、ケータイ向けとしては初めてのオープンソースのプラットフォームとなるため、ケータイに新たなビジネスチャンスが生み出されるのではと、期待が集まっている。
Androidを支持する業界団体「Open Handset Alliance(OHA)」には、日本の通信キャリアからはNTTドコモ、KDDIが加盟、その他端末メーカーなども加わっている。すなわち近い将来わが国でも「Androidケータイ」が市場を賑わすことは間違いなさそうだ。Androidは端末メーカーに対して無償で提供されるとされており、ソフトウェアライセンス料が開発費のかなりの割合を占めるようになった現在のケータイ開発事情の中で、Androidを採用する端末メーカーも多いだろうと想像できる。
iPhoneのビジネスモデル(App Storeによるアプリケーション流通)とは異なり、Androidの場合はアプリケーションの流通も自由になるという。Androidのソースもオープンなので、特定のコンテンツプロバイダーだけが機能特化したコンテンツを作れるといった不平等もない。
こういった背景から、Androidに新たな可能性を見出した関係者・有識者が「Android勉強会」(主催者:早稲田大学大学院客員教授 丸山不二夫)を発足、さらにこれを継承・発展させ、開発者に限らずAndroidに興味をもつすべてのユーザーが、法人・個人を問わず参加できるコミュニティにすべく、このほど9月12日に「日本Androidの会」が設立されることになった。
「日本Androidの会」は、多数のワーキンググループで構成される。Webやエンタープライズ向けアプリとのマッシュアップを考える「Web・マッシュアップWG」、AndroidのVMであるDalvikVMのコードリーディングや他のCPUへの移植を考える「DalvikVM WG」、Dalvikより下の層を考える「組み込みWG」、ケータイを含む各種プラットフォームの実現とコンテンツ作成に必要な要件を策定・提言する「「PF(プラットフォーム、プロファイル) WG」など開発者向けのワーキンググループのほか、 Android向けのコンテンツを考える「コンテンツWG」、評価や少額課金のためのプラットフォームをつくる「Market Place WG(仮称)」、Androidを使ってのビジネス手法を考える「ビジネスWG」などビジネス寄りやマーケティング寄りのワーキンググループもある。ちなみにAndroidの技術解説書として唯一健闘している『Google Android入門』(技術評論社刊)の著者・嶋 是一氏は「PF WG」のリーダーを務めるなど、国内でAndroidに関して著名な各位がワーキンググループを牽引していくという。
AppleのiPhoneによるビジネスモデルと大きく異なるのは、Androidは「オープンソースのプラットフォーム」であるということだ。Androidは端末メーカーが自由に採択でき、その上のアプリケーションプラットフォームもオープンだ。Androidの上でさまざまなベンダーやプレーヤー、ユーザーが自由にサービスを展開したり、活用することが可能になる。
Androidがオープンソースなプラットフォームであるということで、ケータイサービスにもようやくユーザーの意見がきちんと反映しやすい環境が生み出される可能性もある。これまでわが国ではなかなか「ユーザー側の意見」がケータイサービスに反映されることが少なかった。通信キャリア主導で一方的にサービスが構築され、ユーザーはいわば「それを使わされている」だけのようなビジネスが展開され続けてきたが、Androidでは利用する側のユーザーの意見も聞く耳を持ってくれるに違いない。この「日本Androidの会」は、サービス提供側とユーザーの間を取り持つ重要な位置づけになろう。
Androidはケータイに限らず、さまざまなモバイル機器にも組込みが可能であろう。この分野では、独自のフレームワーク、独自のプラットフォームが多数存在していて、技術や部品の経済的な共通化・再利用も十分に進んでいない。Androidのようないわば全世界的に展開されるようなプラットフォーム上であれば、国際的展開を視点に入れハードウェアやコンテンツ、アプリケーションを容易に開発しやすく、しかもユーザー母数を考えれば開発コストも抑えられる。
さらにいえば、世界でトップクラスのモバイルビジネス展開国である日本は、ここまでに築いてきたノウハウを活かし、今後世界のこの分野で大きな役割を果たしていくべきである。こういった日本のベンダーやプレーヤーが世界展開する際に、Androidのような世界共通となるプラットフォームの存在は大きな足がかりになるであろう。
なお「日本Androidの会」は、富士ソフト株式会社の特別協賛のもと、富士ソフト秋葉原ビルで9月12日19時から発足式典を開催する。発足式典では、グーグル社による記念講演、丸山不二夫会長及び各WGのグループ長からの挨拶などが行われる予定。発足式典は、無料で参加が可能である(事前登録が必要)。
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木暮祐一の「ケータイ開国論」
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