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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

視聴率を上げるためだけのケータイ非難報道

2007年11月 6日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 ケータイ関連の話題は、マスメディアの視聴率やページビューを上げるのに一躍買うという。身近な機器だけに、一般の視聴者、読者の関心も高いというわけだ。そして、ケータイの問題点を指摘するような話題はとくに関心が高まるのだという(本コラムもどちらかというと、そういうネタが多いが)。
 ところが、一般のマスメディア、とくにテレビ報道には正しい根拠が見受けられない、いい加減な報道も多い。とくに事故や事件についてはこぞって話題を取り上げるが、その後その報道内容に間違いがあっても、訂正報道などされることはない。このため、多くの視聴者に間違った知識が植付けられたままになってしまう。

 直近の話題からご説明しよう。テレビなどでご覧になられた方も多いと思うが、さる10月17日、長崎空港を離陸しようとしたANA機にて管制塔等とを結ぶ航空無線電話設備が使用できなくなったとして立ち往生したトラブルがあった。マスコミはこぞって「機内乗客がケータイの電源を入れていたのが原因」と報道していた。
 航空機内でケータイの電源を切るよう法律で定められ、ケータイは航空機の運行に「重大な」障害を与えるものという認識が徹底されようとしているさなか、さらにこういった事故報道があるとますます「ケータイは危険なもの」として利用者の間に動揺も走ろう。この日の夜は、NHKニュースもトップでこの事件を伝え、テレビ朝日の「報道ステーション」でも大きく取り上げられていた。ともあれ、ケータイの電源を入れていた乗客を非難するというよりは、ケータイそのものが危険だといわんばかりの報道が目に付いた。

 私は最初から、これら報道に大いに疑問を持っていた。ケータイの送信出力は最大でも0.5W程度、これで通信が不能になるような航空無線電話設備を載せているのなら、それこそ航空機そのものが不安である。
 だいたい世界では、航空機内でいかにケータイを使えるようにするかという検討が行われている。実際に衛星通信サービスと連携させ、航空機内で搭乗客個人のケータイ(GSM等)がそのまま通話・通信可能になるシステムもすでに考案され、実用化に入ろうとしている時代である。日本は間違った認識を国民に植え付け、世界の流れに逆行しようとしているのではなかろうか。

 ちなみにこのANA機のトラブルについて総務省が立ち入り検査を行い、その原因が明らかにされた。その原因とは…、問題を起こした航空無線電話設備の「ハンドマイクのカールコードの破損」が原因だそうだ。航空機設備側の不具合が原因であったにも関わらず、乗客のケータイがトラブルの原因として発表され、報道させていたのである。呆れて話にもならないが、さらにこういった間違った報道をしていたテレビ局各局も、その後誤報であったことを謝罪した番組は一つもない。

 ついでだから書かせていただくが、このような問題報道はじつに多い。腹立たしいものを振り返ると、昨年の8月25日に警視庁が「商標法違反と不正競争防止法違反」として、ケータイ端末のSIMロックを解除して売っていた業者を逮捕した事件があり、これも各局が報道し話題になった。
 SIMカードやSIMロックについては、当コラム第2回「なぜ日本のケータイは同じような形状ばかりなのか?」で簡単に解説しているのでご覧頂きたいが、ようするに日本のケータイキャリアは端末の販売と回線契約を切り離せないよう、SIMロックを半ば「常識のこと」として徹底してきたのである。本事件では当時ネットオークションなどでも話題になっていた国際ローミング対応の3G端末の「SIMロック解除」を請け負っていた業者が摘発されたのである。
 本来、世界では端末にはSIMロックは無く、好みの端末と、好みの通信キャリアをユーザーが自由にセレクトし、組み合わせてケータイとして使用する。ところが日本のように通信キャリア自らケータイ端末の販売をしている場合は、販売したケータイ端末が他の通信キャリアの回線で利用できないよう「SIMロック」を掛けている。回線契約と端末がセットで販売され続けてきた日本では、回線と端末を切り分けて販売したり、自由に(端末とキャリアを)組み合わせて使うということが理解しづらいため、SIMロック自体も常識のことと認識されがちである。しかしこのように世界では本来、端末も回線契約もユーザーが自由にセレクトできる。SIMロックを掛けるほうが自由なケータイの利用を阻害することであり、非常識なことなのである。(もちろん世界にも、SIMロックを掛け、利用できる通信キャリアを制限する代わりに端末を激安で販売するようなケースもある。ただしこの場合も一定の利用期間が経過した場合に、ユーザーからの要望があれば、通信キャリアがSIMロックを解除してくれる)

 この事件についても、逮捕時には多数のメディアで報道されたものの、その後この事件で「検察が正式起訴を見送った」という部分は報道されていなかった。SIMロック解除を違法とするには、ようするに無理があったのだ。この報道では、こういったSIMロックの意義も知らないマスコミが、通信キャリアの言われるがままに「SIMロック解除は違法」と報道し、通信キャリアの利益を脅かしかねない一部の業者を吊るし上げ、見せしめのごとき報道劇であった。その上、SIMロック解除を違法とはできないというオチの部分はまったく報道されなかったのである。

 昨今において、視聴率に振り回されて番組が制作されているという現状と、その問題点をきちんと認識しながら、冷静に報道番組を視聴頂きたいと考える。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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