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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

なぜ日本のケータイは同じような形状ばかりなのか?

2007年9月19日

昨日、最終回となる総務省のモバイルビジネス研究会が開催され、報告書が取りまとめられた。これを受けて行政当局がケータイの販売奨励金見直しをはじめとする各種施策を打ち出すことになる。
 とはいえ、今後どのようにケータイの販売やサービスが変わっていくのであろうか? 具体的な話がなかなか見えてこないという声も多いが、改めて現状の日本のケータイサービスにおける疑問や問題点を明確にしていこう。まず今日は端末のお話。

いきなりであるが、中国で販売されているユニークなケータイ端末の数々をご覧頂きたい。

写真:上段はタバコ型ケータイ。タバコの1列は本物のタバコ。下段は腕時計型ケータイ。このほかにも、一見クルマのオモチャ型のケータイとかもあるらしい(写真提供:山根康宏氏)

え? これがケータイなの? と驚くような端末の数々、これらはウケ狙いで利用されるケータイと思われるが、このほかにもケータイのバリエーションは多様である。もちろん日本円で1万円程度で購入できる安価なモデルから、10万円近くする高価なモデルまで、端末の価格帯も幅広く、中には大富豪向けにゴールドやプラチナなどの貴金属を素材として使った超高級モデルもある(VERTUなど、実売価格で数百万円のものも)。
 一方で、わが国のケータイ端末に目を向けると、どれを見ても折りたたみタイプの没個性な端末ばかり。それも利用者のターゲットは若年層向けといわんばかりのものが多く、、まさにわが国ではケータイは“子どものオモチャ”化してしまったような感じだ。まあ、ケータイユーザーの中で最も電話料金を払ってくれる優良(?)顧客が10~20歳代の層なので、端末開発のターゲットもその世代向けが中心になるのはやむを得ないにしても、あまりに現在のわが国ケータイは大人から見ると魅力に欠ける製品ばかりである。外国の端末のように、一目で端末メーカーが分かるようなアイデンティティを持っているものや、ユニークな形状のものが見当たらない。どうして、こうなってしまうのか?

その最大の要因と思われるのが、通信事業者主導の端末開発である。世界では、ケータイの端末と通信回線は、基本的に分離されて販売されている。端末のロゴを見れば一目瞭然、世界の端末はノキアやモトローラ、サムスンといったメーカーブランドでケータイ端末が販売されている。これら端末を自由にセレクトし、ユーザーが好みの通信事業者を選択して、組み合わせて利用する。
 わが国でも固定電話のほうはこういう仕組みが定着してきたとおりだ。ところがケータイサービスについては、端末は基本的に通信事業者ブランドである。製造メーカーはともあれ、端末自体は「ドコモ」や「au」というロゴの入ったものが売られている。つまり、ケータイ端末の企画・製造から販売に至るまで、すべて通信事業者自身がハンドリングしているということになる。通信事業者は端末の販売でも利益を出すことを考えているだろうが、さらに極端な話、いかに通信料を稼いでくれる端末を出せるかという思惑に走っているともいえる。その結果がわが国の現状の端末ラインアップなのである。どうしてもケータイを熱心に使ってくれる若年層向けが主体となり、さらに通信料を稼げそうなサービスは積極的に搭載し、いわばサービスの押し付けのような形でユーザーに利用させているのだ(便利なものもあることは認めるが)。

さて、海外では端末と回線が分離されているという話を冒頭に書いたが、どのように分離されているか説明しよう。
 現在世界のケータイの大半は、SIM(Subscriber Identity Module)カード方式というものが採用されている。SIMカードは加入者情報が書き込まれたチップカードで、通信事業者がユーザーに対して発行するものである。ケータイ端末を購入したユーザーは、通信事業者と回線契約を結ぶことでこのSIMカードを受理し、このチップをケータイ端末に挿入することで、携帯電話として利用が可能になる。

写真:わが国の端末でも採用されるようになったSIMカード

ということは、新しい端末を購入したらSIMカードを差し替えるだけで機種変更は完了だ。機種変更という面倒な契約手続きなど存在せず、普通にショップで電化製品を買うのと同じようにケータイ端末を購入するだけでよい。あるいは、TPOにあわせてケータイ端末を使い分けることも可能である。そして、もし自分が契約している通信事業者が気に入らなければ、番号ポータビリティーを利用して他の通信事業者に契約をし直し、新しいSIMカードをケータイ端末に差し替えるだけで通信キャリアの乗り換えができる。端末は同じものを使い続けることができるわけだ。わが国の場合は、せっかくSIMカード方式が導入されているにしても、端末にSIMロックと呼ばれるソフトウェア上のセキュリティが掛けられ、他の通信事業者のSIMカードでの利用ができないようになっている。これによって、通信事業者を変更する場合は端末もやむなく買い換える必要が生じてくる(通信方式が異なる通信事業者への乗り換えはどちらにしても端末の買い替えは必要だが)。

冒頭のモバイルビジネス研究会では、ケータイサービスのオープン化を目指しているが、たとえば販売奨励金の見直しや、SIMロックのあり方の見直しなどによって、わが国のケータイ端末はどのように変わるのだろうか?
 この販売奨励金とSIMロックが見直されると、端末と通信回線の本格的な分離が実現されると思われる。となると、端末のラインアップは随分と変わってくることが予想される。
 まず、日本の端末メーカーも、ちゃんとユーザーの求める端末を作るようになる。どういうことかというと、既存の端末は通信事業者からの受注生産により端末を製造している。すなわち端末メーカーはユーザーが求める端末よりも、通信事業者がまとめて買い上げてくれる端末を製造しているというのが現状である。端末メーカーにとって、顧客は「ユーザー」ではなく「通信事業者」というわけだ。なんだかお気に入りの端末が見つからない要因はこういうところにある。
 また、端末のバリエーションについても変化が出てくるだろう。たとえば3キャリア向けにケータイ端末を納入しているある端末メーカーの場合…、似たような形状のケータイ端末でありながらも、それぞれの通信事業者のオーダーにより実際には3機種別々に開発するぐらいの手間を掛けて端末を製造している。これが端末と通信回線の完全分離が実現することで、同じで手間で3種類全く異なるバリエーションのケータイ端末開発に力を注ぐことが可能になろう。それもユーザー目線で求められている端末をきちんと開発してくれるはずである。我々ユーザーにとっては、ケータイ端末選択の幅がますます広がることになる。
 一方で同時に、通信事業者の独自のサービス(iモードやEZwebといったコンテンツ等)はどうするのか、販売奨励金廃止によって端末価格はどうなってしまうのかなど、色々な疑問も生じてくるだろう。これらはまた次回以降に解説していきたい。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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