割引いて、割引いて…、ようやく世界水準並みのケータイ基本使用料
2007年9月26日
前回は、世界のケータイは、ユニークで趣向を凝らしたモデルが多数あるという話を書かせていただいた。前回は触れなかったが、たとえば世界にはブランドとコラボレーションしたPRADAフォン(LG電子製)や、BANG & OLUFSENケータイ(サムスン電子製)なんてものもある。海外のケータイショップのショーウィンドウを眺めるのは本当に楽しい。なかなか日本では、こういうウキウキした気分でケータイの陳列を眺める機会を得られないのが残念である。
ブランドコラボレーションというわけではないが、本日KDDIはauデザインプロジェクト第7弾となる「INFOBAR2」を発表した。プロダクトデザイナー・深沢直人氏が指揮したそのデザインは秀逸で、久々に世界に誇れる日本のケータイ端末登場(といっても海外では使えないが)というような良い仕上がりだった。デザインを優先したために機能が削がれるようなこともなく、本当に久しぶりにワクワクさせてくれる端末の登場である。しかし、このINFOBAR2もブランド名は「au」だ。世界中を見回しても、通信事業者がここまで端末に力を入れているところは見受けられない。通信事業者ブランドが台頭することの良し悪しは機会を見て、ぜひ読者の皆様ともじっくり議論していきたいところだ。
本日発表となったauの「INFOBAR2」。2003年発売の「INFOBAR」で不満だった点はすべて改善。さらにおサイフケータイ、メガピクセルカメラ、アンテナ内蔵ワンセグなども備える。
さて、今回は「電話料金」の話を書こうと思っていた。さっそく本題に入りたい。
私が教鞭をとる大学の学生たちにヒアリングすると、意外に電話料金は気にしていないようである(まだ親が電話料金を負担している学生も多いからか)。というか、電話料金は、友人とのコミュニケーションの密度を図る指標であり、電話料金が高くてもそれだけ密なコミュニケーションをしている根拠だということで満足らしいのだ。学生たちは平均して月額1万5千円前後の電話料金を払っているようだが、それは「そんなものだ」と割り切っているようである。その代わり、携帯電話端末の買い替えで1~2万円の出費が飛ぶのは「あまりに痛い」のだそうだ。毎月払う電話代は毎月の出費として想定済みのもので気にはならないのだが、臨時の出費となる端末台は痛手が大きいというわけだ。なんとも、日本の通信事業者の施策にハメられてしまっていることか。
日本で移動通信サービスが始まったのは1979年12月、東京23区内でスタートした自動車電話がルーツだ。このサービスの基本使用料は月額30,000円。その後ショルダーホンや携帯電話が登場し、さらに初のNCCキャリアとなる日本移動通信(IDO、現:KDDI)が参入したのが1988年12月。この頃の基本使用料は、NTTで23,000円、IDOが13,000円だった。ここから競争の原理が取り入れられ、電話料金は順次引き下げられていった。また、その頃は携帯電話はレンタルしか契約する手段が選べず、端末は電話会社から貸与を受け、その使用料を含めた基本使用料を支払っていた(端末はレンタルでも、バッテリーや充電器等の付属品は購入が前提で、それら付属品代が3~4万円はかかっていた)。ところが1994年に端末の売り切り制度が導入され、現在のように販売スタイルに改められ、自由にケータイを購入できるようになった。加入時に必要だった保証金制度も無くなった(それまでは契約時に20万円ないし10万円の保証金を預けないと契約できなかった)。さらにツーカーグループ(現:KDDI)、デジタルホングループ(現:ソフトバンクモバイル)の参入もあわせ、この頃から劇的に電話料金が引き下げられていった。NTTドコモの基本使用料で比較すれば、1994年3月までは17,000円だった基本使用料が、1994年4月以降は8,800円(プランA)に引き下げられた。通話料をプランAの1.5倍とする代わりに基本使用料が安かったプランBもこの時に登場している。いわば待受け主体に使うユーザーへの配慮だ。ともあれ、ケータイが大衆向けのものへ転換していった時期だった。
その後ケータイ加入者は倍々増の勢いで増えると共に、電話料金も引き下げられていった。1999年頃に各通信事業者とも4,000円前後の基本使用料で落ち着いたのだが、じつはその後はずっと横ばいのままとなっている。現在では、これに各種割引施策を組み合わせることで、基本使用料を月額1,000円程度まで抑えられるようになったが(「MY割」や「誰でも割」などの組み合わせにより)、引き下げではなく「割引」という戦略で攻めてきており、まるで「特別に安くしてあげている」という押し付けがましさを感じているのは私だけだろうか。そういう点ではソフトバンクモバイルのホワイトプランが一番分かりやすくて好感が持てる。
世界に目を向けると、およそケータイの基本使用料は日本円にして1,000円~1,500円程度のようだ。私は個人的な趣味として、いくつか海外のケータイも契約している※。
まずお隣の韓国の場合。昨年12月に訪韓した際に入手したのがKTF(韓国ではシェア2位の通信事業者)契約のSPH-W2100(サムスン電子製)である。HSDPA対応、2メガピクセルカメラ、DMB(衛星デジタル放送、日本のワンセグのようなもの)対応など、フルスペックの端末である。国際ローミングに対応し、日本でも韓国の電話番号のまま使用できる。端末購入価格は42万ウォン(約54,600円、1ウォンを0.13円で換算)だった。韓国ではCDMA2000方式からW-CDMA方式への乗り換えを促進させるため、W-CDMA端末のみ販売インセンティブの付与が認められており、実際には30万ウォン値引きされている。定価は72万ウォン(約93,600円)となる。ただしSIMロックは無く、通話とSMSのみなら、たとえばFOMAカードを挿入してNTTドコモの電話番号で使うことも可能だ(大変オープンで良いことだ)。
端末はともあれ、この韓国KTF社の月額基本使用料は13,000ウォン(約1,690円)程度だ。もっと安いプランもあるそうだ。逆に日本円にして3,000円程度のプランを契約すれば、無料通話も月500分は付いてくる。
台湾のPHSも契約している。台湾の大衆電信という通信事業者は、日本の技術を利用したPHSサービスを提供しており、ウィルコムとの間で相互ローミング関係を持っている。この大衆電信のフラッグシップモデル・PG1900(台湾Okwap社製)を今春入手している。この端末は大衆電信のモデルの中でも最も高価な部類に属するモデルだ。PHSに加えGSM携帯電話とのデュアル端末となっており、SIMカードを挿入すればPHSとGSM携帯電話のデュアル待ち受けも可能になる。つまり韓国以外の全世界で利用可能なモデルだ。購入価格は、15,000台湾ドル(約52,500円、1台湾ドルを3.5円で換算)であった。このPHSの基本使用料であるが、驚くなかれ、わずか月額49台湾ドル(約171円)、通話料は台湾国内で1分3.9台湾ドル(約14円)である。ちなみにウィルコムのネットワークで使える日本ローミングのオプションも設定した。これが日額5台湾ドル(約17.5円)かかる。日本国内から日本国内への発信には1分25台湾ドル(約87.5円)だが、日本国内同士の着信は無料なので、着信専用に使う分にはウィルコムを持つよりもリーズナブルといえる。
※外国人がケータイを契約するのは容易ではない。私の場合、現地で友人たちが営む法人名義などを使って、契約をしている。
大衆電信(台湾)のPG1900(左)とKTF(韓国)のSPH-W2100(右)。ともに日本でもローミングで利用可能。
というわけで、世界では端末は高いが、ランニングコストはすこぶる安価なのである。事例で御紹介した個人契約の海外ケータイはともあれ、本来通信事業者が提供すべき「インフラ」の使用料だけでいけば、日本のケータイの基本使用料は1,000円前後まで引き下げるのが筋ではないかと考える。現在4,000円程度となっている基本使用料には、本コラム第1回目で説明したように端末代金を補填するインセンティブの負担分も盛り込まれている。NTTドコモ、KDDIとも、2年間の継続利用を約束する代わりに、基本使用料を半額にする「MY割」「誰でも割」を打ち出したが、いわば2年間の継続利用を前提に、インセンティブ分は通信事業者側で持ちましょうということに過ぎない。とにかく日本のケータイサービスの基本使用料は複雑で分かりにくいものとなってしまった。
総務省モバイルビジネス研究会が示したプランでは、基本使用料のうち、本来の電話料金(インフラ利用料)の部分と、端末代金とを明確にすべきと定めた。この端末代金分を除けば、おそらくインフラの利用料としての基本使用料は1,000円前後に落ち着くものと思われる。
では基本使用料のうち端末代金とインフラ利用料が明確になることで、我々ユーザーにとってどんなメリットが出てくるのだろうか? それは次回に。
木暮祐一の「ケータイ開国論」
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