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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

「0円携帯廃止」はユーザーにとって不利か?

2007年9月11日

わが国は、世界でも特に「ケータイを安く購入できる」国であることをご存知だろうか。最新の機種が2〜3万円台(新規契約)で販売されていて、型落ちのモデルは、0〜1円程度で投げ売りされている。最新のケータイ端末は、カメラやTV視聴機能(ワンセグ)、音楽再生機能など、電話以外のさまざまな機能まで装備する。場合によっては、これらのデジタルガジェットを単体で買うよりも、ケータイを買ったほうが安いほどだ。これは何ともお得でありがたい話ではないか(ちなみに海外では、日本と同等のケータイ端末が、6〜7万円はする)。

そんなありがたいケータイライフ(?)を満喫できるわが国で、最近「0円携帯廃止」という新聞報道を見かけるようになってきた。これまで安価に購入できたケータイ端末が、場合によっては1台6〜7万円するような時代になってしまうかもしれない、という。それは大変だ!

…と慌てる前に、ぜひとも日本と世界のケータイサービスの仕組みの違いについて多くの方々に知っていただきたい。誰もが日常的に利用するケータイだが、その料金や端末価格に何ら疑問も抱かずに使っているユーザーが大半だろう。じつはわが国のケータイサービスは、通信事業者(電話会社)がケータイサービスの全体を掌握し、通信事業者が巨額な利益を生み出すような構造になっているのだ。

もちろん、便利なサービスがきちんと提供されているのなら、それはそれでユーザーも文句を言わずケータイを使い続けるだろう。しかし、今払っている電話料金に疑問や不満を感じたことはないだろうか? 「基本使用料半額」などの施策がはじまったばかりだが、そもそも基本使用料の根拠とは何なのだろうか?

固定電話だけだった時代は、電話代が家計の中で占める割合はごくわずかだったが、1人1台ケータイを所有する時代になって、電話代の割合がどれほど大きくなったことか。また、サービス面でも不満なく使えているであろうか。アンテナマークが立っているのに、通話が不安定だったというような経験はないだろうか。「ケータイだから仕方ない」とあきらめてしまってはいないだろうか。

このように改めてケータイサービスを見てみると、色々な疑問や不満が噴出してくる。こういった一つひとつを拾っていきながら、日本のケータイサービスが目指すべき道のりを読者のみなさんと一緒に考えていく連載にしたいと考えている。

さきほどの「0円携帯廃止」の話題に戻したい。確かに端末価格は世界的に見て突出して安い。なぜ安いのかというと、ケータイ販売店に支払われる「販売奨励金」が相殺された価格表示になっているからなのだ。つまり本来6〜7万円するケータイ端末も、この販売奨励金を相殺することで、最初から安い価格に見せかけて売られているというわけだ。利用者にとっては安いに越したことは無いのだが、では「販売奨励金」の原資はどこから捻出されるのだろう。もうお分かりと思うが、これは基本使用料に上乗せされてしまっているのである。だから長期的に見ると、トータルで支払う電話料金は、わが国は突出して高いのである(図参照)。しかも基本使用料のうちどこまでが端末代金(販売奨励金の原資)なのかが全く不明確なのが大きな問題というわけだ。

fig-1.JPG
<図解説>
OECD COMMUNICATION OUTLOOK 2005より「加入者1人当たりの年間ケータイ通信費(03年)」:世界主要国の携帯電話通信費の比較である。ちょっとデータが古いので、その差は現在では縮まってきているとは思われるが… その要因は、日本の電話料金には端末代金の一部が上乗せされてしまっているからである。


総務省の「モバイルビジネス研究会」という調査研究会が、現在この販売奨励金のあり方をめぐって報告書を取りまとめているところだ。近く最終的な報告がなされる予定で、その際にはまた詳細にご説明しようと思う。今まさにわが国のケータイサービスは、その提供方法などを抜本的に見直すタイミングに来ていて、今後端末価格や電話料金、あるいはサービスの内容に至るまで、今後数年間で大きく変わろうとしている。新聞報道などの「0円携帯廃止」ばかりに目が行ってしまうと、まるでケータイ端末価格が跳ね上がってしまい、ユーザーが大損するような印象を受けてしまうが、決してそうではない。仮に端末価格が高騰したとしても、その分電話代(基本使用料)も同時に見直されるので、結果としてユーザーの負担が増えることは無いだろう。

私がこの連載を通じて叶えたいのは、これら業界の変革が、ぜひともユーザーにとって有利なものになっていく布石となることだ。業界関係者の方々からはご意見、ご批判もあると思われるが、ここまで大きく成長したケータイ業界は、私たちケータイユーザーが支払っている電話料金で成り立っていることを、ぜひとももう一度思い起こしていただき、ユーザーにもきちんと還元されるビジネスモデルを構築していただきたいと願っている。ということで、今後の連載にご期待いただきたい。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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