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濱野智史の「情報環境研究ノート」

アーキテクチャ=情報環境、スタディ=研究。新進気鋭の若手研究者が、情報社会のエッジを読み解く。

第12回 セカンドライフ考察編(8) :「現実世界を模倣する」セカンドライフ/「現在を複製する」ニコニコ動画

2007年8月16日

(12-1)から続く

■12-2. 「現実世界を模倣する」セカンドライフ/「現在を複製する」ニコニコ動画

以上の考察からも明らかなように、筆者は「現実世界模倣する」セカンドライフよりも、「現在複製する」ニコニコ動画のほうが、よりメディアに与えるインパクトが大きいと考えています。そしてこの考察は、次のようなインプリケーションをもたらします。

現在セカンドライフ(のような仮想世界サービス)については、様々なバッシングはあるにせよ、「長期的に見れば可能性がある」という一歩引いた見方もあるようです。例えばソーシャルメディアの動向を追い続けるジャーナリストの湯川鶴章氏は、昨今のセカンドライフ肯定派・否定派双方の見解を整理した上で、「セカンドライフ的な3D仮想空間がインターネットのインターフェースの重要な一角を占めるようになることはほぼ間違いないだろう」と述べています(爆発するソーシャルメディア: 「セカンドライフ、来るの?来ないの?」)。

確かに、セカンドライフも長期的に見れば可能性はあるのかもしれない。しかし、11-2でも論じたように、真性同期型アーキテクチャには「閑散化問題(過疎化問題)」がより強く現れてしまう以上、ソーシャルメディアとしては致命的な欠陥を抱えています。(ここでは詳説は省きますが、)なぜなら人間は、メディアやコンテンツを選択する際の判断材料の一つとして、その場所やメディアが「盛り上がっているかどうか」といった文脈情報を採用する傾向を持っているからです[*1]。その観点でいえば、ソーシャルメディアとしての「伸びしろ」があるのは、効率的に「盛り上がっている状態(=祭り)」を維持する能力を持つ、ニコニコ動画のような「擬似同期型アーキテクチャ」ではないかと推測されます。

だとするならば、「長期的な」ソーシャル・メディアの展望を占う上で重要になってくるのは、「『動画』とは異なるジャンルにおいて、いかにして『擬似同期型アーキテクチャ』を実現するか」という模索なのではないでしょうか。その模索とは、前節の言葉で換言すれば、「動画」とは異なる「定規」を見つけ出すということを意味しています。――ちょうど「ニコニコ動画 開発者ブログ」では、前回の筆者のエントリを受けて、ニコニコ動画の開発に至る経緯が明かされていますが、それはまさに上のような模索であったことが分かります。つまり、ニコニコ動画は「動画ありき」で開発されたサービスなのではなく、「非同期的にネットライブを実現する」という擬似同期性のアイデアがまず先にあった、ということです。未読の方はぜひご一読を。

(まだまだ続く) 

* * *

[*1] これに対し、次のように反論される方もいるかもしれません。いわゆるインターネットを使いこなす「コア」なユーザー、あるいは「アーリーアダプター」的なユーザーであれば――何と呼んでもいいのですが――、周囲がそれを評価しているかどうかといった「文脈情報」に惑わされることなく、対象自体の「本質的な」魅力を見抜き、判断し、消費することができるのではないか、と。確かに私たち消費者は、インターネットの出現によって、企業に騙されることなく、「賢く」消費活動を行うことができるようになった――経済学的に表現すれば、企業と消費者の間の「情報の非対称性」が緩和された――としばしば語られます(参照:isedキーワード「コンシューマー・エンパワーメント」)。しかしその一方で、インターネットの出現は、周囲のクチコミに「影響されてしまう」機会の増大にも繋がっているのもまた事実です。ニコニコ動画上で開始された「ニコニコ市場」(Amazonアフィリエイト)にしても、「Amazonでこれだけの人間が商品を買った」という事実それ自体が、ニコニコ動画上のコメントで言及され、さらには「自分も買ってしまった」という報告がコメント上で寄せられることで、連鎖的な消費行動を呼び込んでいく。そこには、まさに「繋がりの社会性」的に消費活動が喚起されていく様を看取することができます。どうやらインターネットは、同じ事態の両面として、人々の判断を「賢く」しているようにも見えるし、「付和雷同」的な振る舞いに導いてしまうようにも見える。この点については、また別の機会に論じてみたいと考えています。

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プロフィール

1980年生まれ。株式会社日本技芸リサーチャー。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。専門は情報社会論。2006年までGLOCOM研究員として、「ised@glocom:情報社会の倫理と設計についての学際的研究」スタッフを勤める。