Appleが買収すべきは任天堂? その独特な企業風土
2008年10月28日
昨日の記事「Apple社の買収対象は?」の原文には読者投票が付いていますが、その中で2位になっていた「アイスランドを買おう」というのは次のような提案でした。
30万人にのぼる教育程度の高い英語を話す人々がいて、地熱、水力、風力エネルギーも豊富だ。大西洋を横断する大規模な光ケーブルにより、米国と欧州を結ぶ理想的な位置にある。金融危機によりIMFに20億ドルの支援を要請したが、Apple社はこの国を数十億ドルで購入できるだろう。これで、すべてのギークたちの夢がかなう——美しくデザインされたアップル・ランドのパスポートを持つことができるのだ。
IMFからは60億ドルの融資を受ける模様ですが、アイスランドはたしかにIT企業には良い所であるようです。
CouriierJaponの今年5月付けの記事によると、「グーグル、ヤフー、マイクロソフトなどの大手インターネット企業が、相次いでそのグローバル・ネットワークの中心拠点をアイスランドに移している」そうで、その理由は北米と欧州を結ぶ光ケーブルのほかに、法人税の安さ(15%)、「寒冷な気候と、地熱発電による安価な電力」でデータセンターを置くのに理想的な場所なのだそうです(データセンターでは電力消費の半分が設備の冷房に使われるので寒冷地が有利)。
さて、Apple社の買収対象として名前があげられていたGM社。その時価総額が32億6000万ドル、というのもウームですが、従業員数がほとんどアイスランドと同じ(26万3000人)というのも驚きでした。トヨタの従業員数も連結で31万6121人ですが、こういった大企業はまさに小国家(日本でいうと地方の中核都市)の規模ですね。
これに対して、Apple社の「時価総額856億ドル、従業員数2万1600人」というのは目を引きます。そしてもっとすごいのが、前述の読者投票で「デザインや革新性へのアプローチにおいて、Apple社と似たカルチャーを持っている」と書かれて3位になった任天堂の「時価総額3兆8817億円、従業員数(単独)1465人」。
Financial Timesの今年9月付けの記事によると、「任天堂の従業員一人当たりが稼ぎ出す利益は、世界一の投資銀行であるゴールドマン・サックス(GS)よりも多い」そうです。
同紙の計算では、任天堂の2009年3月期の純利益予想は4100億円で、それを従業員数で割ると一人当たり1億6000万円。GSは一人当たり約1億3000万円、Googleは約6700万円だそうです。
一方、「GSの平均給与は約7000万円だが、任天堂の平均給与は約980万円」。同紙は、任天堂社員の発言「我が社は、成功しているというよりは、気がついたら大きくなっていたような感じです」という発言を紹介し、社員たちはとくに給料を不満に思っていないようだ、と述べています。
任天堂の経営者たちの話を読んでも、この「欲の薄さ」は見て取れます。かつてマイクロソフトがゲーム業界に参入する際、任天堂を数兆円で丸々買収しようとし、任天堂のゲームソフト開発の中心人物である宮本茂氏を「現在の給料の10倍で」引き抜こうとした事があったそうなのですが、宮本氏は「(任天堂には)仲間がいるから」と言って断わったそうです。
また、山内溥氏が2005年に取締役を退任する際、任天堂側からは長年の功績に対する慰労金として12億3600万円を提示したが、山内氏は「それよりも社業に使ってほしい」と、この申し出を断わったそうです。
任天堂の話を読むと、ここで働く人たちが「多額のカネ」ではない、何か別のものを目指していることを感じます。山内氏とともに任天堂を創り上げたとされる故横井軍平氏は、「管理職も平社員も同じ部署で働く身同士、立場は対等であるという考え」を徹底して持っていたそうですし、宮本氏は「皆、(山内)社長の喜ぶ顔が見たくてやっている」と語っていたそうです。
任天堂は、日本企業の時価総額ランキングで8位。こうした任天堂の「スター」たちの生き方は、遠い米国にも伝わっており、Tシャツにもなっています。以下の写真は過去記事「シゲルとサトル:「任天堂のスターたち」が米国ゲーマー向けTシャツに」からで、宮本茂氏、横井軍平氏、岩田聡氏(任天堂現社長)、山内溥氏(任天堂前社長)のファーストネームが書かれています。
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