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ガリレオの「Wired翻訳裏話」

Wiredの記事選択作業や翻訳作業中に発見したこと、記事に掲載できなかったことなどをいろいろと。

「自販機の心のふるさと日本」を考える

2008年8月21日

「自販機の心のふるさと日本」の記事に関してですが、日本の自販機というのは、世界的には珍しいもののようですね。「世界旅行中の驚きの写真」(Stunning Travel Photography from Around the World )を集めたというサイトにある日本の自販機写真シリーズを見ると、どこが珍しいんだー、ごく普通の自販機ではないか、という写真がいろいろ出ていますが、日本以外の人にはこれらが珍しい模様です。

こういうのは、本質的なカルチャーギャップなのでしょうね。つまり、あなたの常識はわたしの驚き。ある者には当たり前なものが、別の者には驚き。というものが。

先日掲載した、北京の「実物大建物画像で目隠し」に関する記事も、そういう感じを受けました。あの記事の記者の取り上げ方自体は、かなり皮肉というか批判色が強かったんですが、私個人はこの目隠しについては面白いと思いました。実物大の画像で覆うとはまったく思いがけない発想だったし、ちょっと見てみたい、と思った次第です。

西欧的な、著作権やオリジナリティを絶対視する思想からすると、ああいうのは「ニセモノ」であり批判されるべきものなのでしょうが、おそらく、あの背景には、そういう発想とはまったく違う文化的価値観があるのではないかと感じました。おそらく中国人にとってはあの実物大画像は驚きではなく、彼らの文脈では「自然」なんではないかと思うんですね。その価値観とは……私にもまだ理解できてはいないので、探究を続けたいと思うのですが。(注1)

さて、日本の自販機記事に戻りますと、記事中で紹介されていた『Snopes.com』の記事では、ブルセラとその販売機に関するなかなか興味深い考察がなされていました。

いわく、ブルセラとは「女性を、人間としてよりは性的玩具とみなす長い歴史と文化を持つ日本」において、「少女のような幼さと純真無垢がセクシーであると考えられている」ことから発生したものであり、日本の文化に深く関係しているのだ、と。西欧では若さが求められるにしても同時に「成熟した態度・精神」が求められるが、「昇る太陽の国では、セクシーとはつまるところ子供っぽいしぐさと服装」なのである、と主張されています。ふーむ。たしかに日本のロリコン傾向は有名なようですが……これについても探究を続けたいと思います(『Snopes.com』の記事については日本語訳もネット上にありましたのでリンクしておきます)。

上記の記事は、「日本には、西洋社会から見れば異常だと見えるものを販売機で売る伝統がある」としています。(「ポルノ雑誌、使い捨てカメラ、新品のパンスト、星占いなど多くのものが当たり前のように自販機で売られている」。)その理由のひとつは「プライバシーの心配」にあるとしていて、たしかにそうなのでしょうが、多種多様な自販機は、すべてが恥ずかしいものを売っているわけではなく、全体から見ればそういうのは少数でしょう。やはり自販機には、日本独特のなにかがあるのだと思います。そしてその「なにか」には、日本人には「当然」すぎてなかなか気がつかないような日本文化のいろいろな側面があるのでしょう。

たとえば、「心のふるさと日本」翻訳記事の最後に付けた注記で、日本の飲料自販機を「大好き」と語り、「昼も夜も置きっぱなしだというのに、壊されることも、お金を盗まれることも、立ち小便をひっかけられることもないのには感動した。道という道にこのように便利なコイン式の販売機を置いておけるほど日本の社会が安全で安定していることに感心した」と書いていたiMomusのコラムを紹介しましたが、この感想は私にとってはまた別のカルチャーギャップでした。

自販機が壊され、盗まれ、汚されるのがデフォな国もあるわけなんですね。それを思えば、たしかに日本の自販機とは、人々の信頼が形になって町のところどころに置かれたもの、とも見えてくるように思えます。

(注1)たとえば書道では、「書聖」とよばれる王羲之の書など古典をお手本にして、それそっくりに書く事が重要ですよね。いわば、「本物」を尊ぶあまり、それをできるだけ正確にコピーすることが大切なわけです。こういう文化というのは、個人のオリジナリティを重視する文化とはだいぶ違うと思います。

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Wiredの翻訳を担当しているガリレオ。日本国内や世界の様々なところに住む翻訳者や開発者が、ネットワーク上で協業している。Twitterはこちら

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