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ガリレオの「Wired翻訳裏話」

Wiredの記事選択作業や翻訳作業中に発見したこと、記事に掲載できなかったことなどをいろいろと。

これは翻訳を掲載できない……

2008年7月22日

これは翻訳を掲載できない……という記事がたまにあるのですが、本日はこれでした。

Pervert Alert: Japanese IPhone Shutter Sound Cannot Be Switched Off

日本のiPhoneは、盗撮防止のために、撮影時に音が出るようになっているという記事です。

もともとは日本のライター林信行氏のブログ『Nobilog returns』の記事を、Leander Kahney氏のブログ『Cult of Mac』(注1)の記事が取り上げ、さらにそれをWiredのブログ『Gadget Lab』が取り上げたものです。私がGadget Labを見た時点では、この話題はすでにGizmodo Australiaなどによって取り上げられ、日本の2ちゃんねるでも話題になっていました。

今回のCult of Mac記事では、日本の地下鉄の駅にあるという、盗撮に注意というポスターの写真が掲載されており(何も文字が入っていず、本物なのかはわかりませんが)、ちょっと刺激的です。Gizmodo Australiaの記事は、さらに刺激的な写真を使っていました。

寡聞にして、写真撮影時に音が出るのは日本だけということは知りませんでした(注2)し、iPhoneに独自に加えられた修正点としては世界初という、この記事の内容は興味深かったのですが、翻訳は見送りました。理由は、前述したように、すでにネット上で取り上げられていたこともありますが、記事タイトルがPervert Alert(変態さんご注意)というものであり、差別的反応や荒れた反応を呼びそうであったこと(前回述べたように、日本のhentaiは米国ではニュアンスが違う言葉として使われているようです(注3)が、逆に日本の「変態」に近い言葉が、このpervertであるようです。辞書の定義を見ると、性倒錯者、背教者、邪道に陥った者、という感じであり、キリスト教道徳的な感じが強いようですが)、さらに、この記事の読者コメント欄に、明らかに差別的なコメントがついていたということがありました。

このブログを書くにあたって当該記事を読み直したところ、新しいコメントが入っていました。差別的コメントに対する批判で、簡単に訳すとこんな感じだと思います。

SWやyikesといった愚かしいコメントが、Wiredの定期読者のものでないことを願う。私は定期読者だが、こうした狭量な、パスポートも取ったことのないような、本も読んだこともないような人々と一緒にされたくない。(略)1億3500万人の人口を抱える日本には、pervertもいるだろうが、ほとんどの人々は良い人たちだ。他のどの国とも同じように。私は日本に8年間住んでいる。君たちは何も知らない人たち、人生で何も経験していない人たちだ。

SWやyikesといった人たちのコメントについては、原文記事で直接ご覧ください(更新:注4)。いずれにしろ、WVサイトの片隅にあるこのブログまで読んでくださるような、元々からのWired読者には、Wired上のある記事に、こういう差別的なコメントがついていたということをお知らせしても問題はないだろうと思いますが(大筋では国際的な感覚の優れたサイトであり、基本的に理性を重んじ、根拠のない差別感情を嫌うサイトであることを理解してくださっていると思いますが)、背景を知らない読者がほとんどである各ニュースポータルにこの記事の翻訳が配信されたら問題になる危険性は高いと思いました(実際、今回の件に対する2ちゃんねるでの反応はなかなか大変そうでした)。

誰もが自分の思いや考えなどを世界に向かって表現できる「ネット民主主義」は、良い点もありますが、低い次元の方向に流れたときは恐ろしいものでもあると思います。ほかの国の人々に対するいわれのない差別感情や敵対感情が、容易に醸成されていく環境でもありますし、いったん集合的感情が沸騰したら、制御や抑制はかなり困難です。大勢に従い、自分個人ではほとんど内容を吟味せずに「敵」を攻撃する行動を、ネット上のさまざまな所で見受けられるように思います。

そういった方向に陥らずに、人々の「世界に対する理解」が深まるような「ネット民主主義」の場は可能なのでしょうか。つまり……たとえば、日本に対する差別的コメントがつくという現実もあるし、それに対する批判が載るという現実もある。何かを100%の敵として糾弾するのではなく、そういった複合的な「世界の現実」を、ありのままに認識する姿勢を共有できる場。そういった空間がネット上にたくさん生まれて行くと良いな、と思っています。

注1:
Cult of Macは元々はWiredの一部でしたが、昨年5月ころWiredから独立し、現在Wiredには含まれていません(従ってワイアード・ビジョンでも翻訳対象にはしていません。WVでは、マック記事を扱うブログとして、Cut up Macという名前に変えたブログがあります……すみませんあまり更新されていませんが)。

注2:
この点、調査していませんが、Gizmodo Australiaの記事についたコメントでは、『RAZR』や『Nokia 6120』といった自分たちの携帯では撮影時に音が出る、これは全世界的に行なわれているのではないか、と指摘があります。

注3:
英語圏のアニメファン向け日本語講座の記事によると(日本語訳はこちら)、英語圏での使われ方としては、ecchiとhentaiはソフトコアとハードコアというような感じだそうです。

英語のhentaiと日本語の変態とはだいぶ違うことをこの講座は力説しており、「まじめな話、もしあなたが「hentaiビデオ」について尋ねようとしても、(略)生粋の日本人の頭の中では何か気味の悪いおそろしいイメージのようなものしか思い描かれないでしょう」と説明しています。

注4(更新):
原文記事を読み直したところ、yikesのコメントは差別的ですが、SWのコメントというのはiPhone記事には飽きた、という内容で、差別的というわけではなかったですね。その点に対するツッコミコメントがさらに付いていました。

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プロフィール

Wiredの翻訳を担当しているガリレオ。日本国内や世界の様々なところに住む翻訳者や開発者が、ネットワーク上で協業している。Twitterはこちら

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