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藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」

コンサルタントとしての豊富な経験をもとに、ITビジネスの最先端の動向を、根本から捉え直す。

第4回 属性情報から行動情報へ

2007年8月30日

(藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」第3回より続く)

■属性ターゲティング

現在のマーケティングの基本は「ターゲティング」にある。それはデモグラフィックな属性(性別、年齢、職業等)を基本とし、例えば都内在住、30歳の独身男性、金融業界に勤めている人であれば、こんなライフスタイルを過ごしており、こういう商品が欲しいはずだというアンケートなどから統計的に生み出されるパーソナリティの標準モデルを中心に組み立てていくものである。

そして、80年代頃から日本人の豊かさへの欲求が、物質的なものから精神的なものへと変化していく中で、画一的なデモグラフィックアプローチからサイコグラフィック的(心理学的属性。ライフスタイル、好み、価値観など)な因子に分けて多変量解析し、クラスターによるタイプ分類が流行した。

その後も感性などを数値化し、生活者を分類するアプローチは色々開発されたが、そのクラスターの人々とコミュニケーションすることが難しい。そのため、最終的にはそのクラスターを構成する人々に近い属性に当てはめて、デモグラフィックに置き換え、そのターゲットに到達しやすいコンテンツやメディア、場所などで大量の露出をすることで、少しでもターゲットに認知してもらうことに主眼がおかれた。

有名なAIDMAモデルにおいて生活者の消費行動に影響を与えられる局面は、注意喚起(Attention)と興味(Interest)を促すために大量に情報を提供できるマスメディアが前提であり、それを見ている人をデモグラフィックに分類し、もっともコストを最適に配分するプランを作ることが重要で、属性をベースにしたターゲティングがその基本となっている。

◯AIDMAモデル
・Attention(注意喚起)
・ Interest(興味)
・ Desire(欲望)
・ Memory(記録)
・ Action(行動)

■行動ターゲティング

しかし、前回前々回と述べてきたとおり、ITの発展は生活者とのコミュニケーション手段を多様化させ、その人の行動状況を把握することができるようになりつつある。

現在ネットの世界で一番使われているのはインターネットブラウザが利用するクッキーをIDにして把握することで、どのサイトのどんなページを見たか、どんなバナーを見たかという行動にあわせて、人々の興味を推測し、表示する広告をマッチングさせることでターゲティングを行っている。すでにネット上でのブラウジング行動そのものを把握しているので各社とも「行動ターゲティング」という名称でサービスをしている。

また、ひとつのサイトだけでなく、複数のサイトや多くのページをまたがる行動を分析することで、行動の連鎖を知ることができ、どんな行動を事前にした人がどんな情報に反応するのか、というモデルを構築することも可能になる。そしてここで重要なのは属性情報は使われていないことである。

インターネットの世界でも、これまでの媒体資料では、アンケート結果などに基づく属性情報が重視されてきており、PV(page view)の巨大なヤフーなどは、インターネットではあるものの事実上のマスメディアとして利用されてきたと言える。

しかし、この行動ターゲティングでは、男だろうが女だろうか老人だろうが大学生だろうが、そのページを見たという事実こそが重要であり、例え開発者がその商品を男性の若者向けにターゲティングして開発していたとしても、実際に女性の年配の人が見ていれば、その人が顧客予備軍に他ならない。

そういう意味では、これまでのターゲティングは、やはりマスプロダクトアウト志向で、効率性も含めてマイナーニーズはそぎ落として来ていた。また、行動ターゲティングは、「ある行動をした人に絞り込む」という意味であり、これまでターゲティングの「こんな人はこんな行動をするだろう」という、曖昧な仮説での置き換えを不要のものにする。

そして、さらに大きな利点は、プライバシーの問題である。より仮説を精緻するには、詳細な情報の存在は重要だから、属性を追い求めていけば、職場や住所、家族構成までも企業が知りたがることは必然である。

しかし、行動ターゲティングは行動した事実こそが重要なので、属性そのものは重要ではない。そのためクッキーIDのようなユニークなIDさえ存在し、その行動した人にリーチできれば、どんな属性の人かを知る必要はなくなる。自分のプライバシーを出すことに抵抗感がある人でも、クッキーIDを提供することで、自分に対する情報のマッチング精度が高まるのであれば、そちらへの抵抗感は極めて小さくなると考えられる。

こうした行動ターゲティングは、(前回、前々回で述べてきたような)マルチパーソナリティを考えていく上でも重要になる。属性にひもづけられる個人が単一のパーソナリティでターゲティングされる状況から、行動ベースでターゲティングされることは、一人の個人が異なるパーソナリティを有することを許すモデルであると言える。次回はマルチパーソナリティを前提にした行動ターゲティングのあり方から続けたい。

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プロフィール

D4DR株式会社代表取締役社長。コンサルタント。野村総合研究所で多くの企業のネットビジネス参入の支援コンサルティングを実施。マルチメディアグランプリ、オンラインショッピング大賞などの審査員。経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員。青山学院大学大学院エグゼクティブ MBA 非常勤講師。