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藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」

コンサルタントとしての豊富な経験をもとに、ITビジネスの最先端の動向を、根本から捉え直す。

第5回 行動連鎖型マーケティング

2007年9月 6日

■改札通過という行動ターゲティングを実現しているグーパス

(藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」第4回より続く)

前回まで述べてきたような、マルチパーソナリティに対応した行動ターゲティングの実例としては、「グーパス」というサービスがある。東京では小田急、関西ではPiTaPaと連携してほとんどの私鉄で利用可能である。

ここでは「改札を通過する」という行動情報にひもづいたメールが送られてくる。例えば、朝は、今日一日の行動を占う運勢情報などが配信される。一方帰りは、学校や職場というコミュニティから開放され、個人のプライベートなパーソナリティに変化するタイミングである。帰宅途中のお店のセール情報や開店情報などが配信されており、興味を持たれる可能性の高い状態にマッチングさせていると言えるだろう。

ただ、現在は子供が改札を通過したことを、親に知らせるなどの人気の有料サービスもあるようだが、まだ行動した人にターゲティングして、情報を配信するまでで留まっている。ビジネスから見れば、広告主に対しては、従来のセグメント&エリアマーケティングを越えるところまでは訴求できていない。

行動ターゲティングが、従来のマスメディアと異なる最大のポイントは、情報をターゲットにリーチさせるだけでなく、次のアクションに繋げる行動を起こすところであり、だからこそ企業は情報のリーチ以上のコストを払う。それはGoogleのadsenseで実証されている。「自分の商品やサービスに関連するキーワードで情報を探していた人を、そのまま自社サイトに誘導させる」というビジネスモデルにこぞってお金を払う。

従来の広告以上の成果を得るためには、実際の「行動変化」を起こせるかどうかが重要である。そのためには、行動を結果も含めて連続的に捕捉することも重要だろう。グーパスで言えば、どの情報にどのタイミングで接触し、その結果、いつどのお店に行った買ったなどが、連続的に捕捉できることが重要である。逆にこうした情報が補足できれば、どういうルートで電車に乗る人に、どのような情報を、どのタイミングで提供すれば、来店可能性を最大化することができるか、というモデルを作ることができるだろう。

次に、特定の行動に対して背中をひと押しする手段も重要になる。例えば、通勤の際に配信した情報の中にクリックされた情報があれば、帰宅時に再度配信し、クーポンで誘引するとか。またグーパスに関して言えば、普段電車で降りる駅を変えさせることもできるだろう。例えば、車で来た場合に、駐車場を無料サービスするように、2駅先の駅ビルでいくら以上買い物をした人には、電車賃をPiTaPaでキャッシュバックする(PiTaPaは後払いなので実質は引き落とし時に割り引きであるが)という仕組みを作れば、行動を変化させることが出来る可能性が高まる。

■携帯による行動連鎖

グーパスは改札と携帯の組み合わせでサービスを実現しているが、携帯電話はGPSが標準装備されつつあり、位置情報取得を標準装備し、フェリカによる認証なども可能だ。今後は携帯単独でも様々な行動情報マーケティングが実用化されていくだろう。

例えば、これまで映画館運営者は、次回上映がガラガラだとしても、ただ指をくわえているしかなかった。しかし、映画館の近くにいる人に、今から1時間だけ有効の半額のクーポンなどを配信することができれば、「暇してた人」を「映画でも見るか」に変えることができるようになる。ガラガラであれば、半額でも座席を埋めた方が採算性は向上するだろう。

こうした稼働率を向上させるために新しいサービスを提供できるプレーヤーは、飲食店からマッサージ、エステサロンなど街中に溢れていると思われる。グーパスの実験でも、渋谷駅で降りた人を駅から遠いところまで歩かせてサンプルを渡すというメールを配信したところ、かなりの高い確率で、雑居ビルの上まで誘導することに成功したという結果がある。

それは人通りのよい場所という立地の優位性や、地価の考え方すら変える可能性もあるということである。看板を出していなくても目立たなくても、適切なコミュニケーションさえできれば、人を誘導することができ、店舗が出店できるようになるかも知れない。まさにAdsenseがリアルへ拡張するイメージだろう。

位置情報に連動した広告を携帯に配信する取り組みは「ADLOCAl」などすでに実用化され始めている。経済産業省が中心に展開している「情報大航海プロジェクト」の中でも、今年の冬には、NTTDoCoMoが、携帯電話を使った行動ターゲティングによる、行動連鎖を促すための実験プロジェクトを開始する予定である。また、東急も、PASMOの利用履歴に基づいた情報配信と行動連鎖を実験する予定である。次回はこうした行動ターゲティングの課題について述べたい。

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プロフィール

D4DR株式会社代表取締役社長。コンサルタント。野村総合研究所で多くの企業のネットビジネス参入の支援コンサルティングを実施。マルチメディアグランプリ、オンラインショッピング大賞などの審査員。経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員。青山学院大学大学院エグゼクティブ MBA 非常勤講師。